■絶滅したはずの巨大ドジョウが生き残っている!? ~ ジンダイドジョウ
今回は今話題になっているジンダイドジョウ。
かつて三重県伊賀地方に生息していた巨大なドジョウです。
日本で「ドジョウ」といえば、田んぼや用水路の泥の中にいる、10~15センチメートルほどの細長い魚を思い浮かべる人が多いでしょう。
ところが、かつて伊賀地方には、その常識を大きく超える30センチメートル以上のドジョウが存在していました。
― 日本最大級だった巨大ドジョウ ―
ジンダイドジョウ(Misgurnus sp.)は、三重県伊賀市の旧上野市新堂地区周辺に生息していたドジョウ属の一種(または地域個体群)です。
(※近年の研究では、東日本に分布する「キタドジョウ(Misgurnus chipisaniensis)」と同種である可能性が指摘されています)
最大で全長30センチメートル以上に達し、一般的なドジョウの倍近くまで成長することから、古くから「巨大ドジョウ」として知られていました。
頭部から背中にかけては、「芋斑(いもふ)」と呼ばれる不規則な斑紋があり、現地ではイモフドジョウとも呼ばれていたといいます。
さらに、このドジョウには少し変わった名前の由来があります。
江戸時代、この地域で疫病が流行した際に巨大なドジョウを食べたところ病気が治ったという伝承があり、そこから「神が身代わりになったドジョウ」という意味で、神代ドジョウと呼ばれるようになったとされています。
もっとも、「神代」という名前だけを見ると、巨大なドジョウだったことから「甚大」が由来なのではないか、なんて考えてしまいます。
「甚大」には「程度が非常に大きい」という意味がありますから、30センチメートルを超える巨大ドジョウには、いかにも似合いそうな名前です。
ところが実際の由来は、巨大さではなく「神が身代わりになった」という伝承のほう。
見た目から想像する語源と、実際の由来が少し違っているのも面白いところです。
食用や薬用として利用される一方、非常に珍しい魚としても扱われ、1971年には三重県の天然記念物に指定されました。
― 巨大化を支えた「深田」 ―
なぜ、このドジョウだけが30センチメートルを超えるほど巨大になったのでしょうか。
その秘密と考えられているのが、かつて伊賀地方に広がっていた「深田」です。
古琵琶湖層の粘土質な土壌によって形成された田んぼは非常に泥深く、人間が胸まで沈むほどだったともいわれています。
ドジョウにとって、この深い泥は格好の隠れ家でした。
冬でも泥の奥深くで過ごすことができ、鳥などの天敵から身を隠せるうえ、餌となる生物も豊富だったと考えられています。
そのため、何年も生き延びた個体が徐々に成長し、普通のドジョウでは考えにくい大きさに達したのではないか、という説があります。
一方で、伊賀地方の個体群だけが巨大化する遺伝的な性質を持っていた可能性も考えられます。
しかし、1950年代以降に農業の近代化が進み、深田は次々と乾田化されていきました。
さらに一般的なドジョウが持ち込まれたことで交雑も進み、ジンダイドジョウは次第に姿を消していきます。
1970年代後半を最後に確認されなくなり、長らく絶滅したと考えられていました。
― 絶滅したはずのDNA ―
ところが、ここで話が少し変わってきます。
近年、龍谷大学などの研究グループが古いジンダイドジョウの標本を遺伝子解析したところ、一般的なドジョウとは遺伝的に異なる「ドジョウ属隠蔽種(Type I)」と呼ばれる系統との一致が確認されました。
さらに2026年には、伊賀市周辺の水路や河川で環境DNAを調べたところ、かつての生息地を含む複数の地点から、この系統に由来すると考えられるDNAが検出されています。
つまり、絶滅したと思われていたジンダイドジョウの「血筋」が、現在も伊賀地方のどこかに残っている可能性が出てきたのです。
これはかなり面白い発見です。
ただし、ここで一つ注意しなければなりません。
DNAが見つかったからといって、30センチメートルの巨大ドジョウが現在も大量に泳いでいる、という意味ではありません。
現在確認されているType Iのドジョウには、普通のドジョウとほとんど変わらない10センチメートル前後の個体もいます。
もしジンダイドジョウの巨大化が、かつての深田という特殊な環境によって生じていたのなら、環境が失われた現在では、遺伝的には同じ系統でも普通サイズになっている可能性があります。
つまり、伊賀で見つかる「ジンダイドジョウのDNAを持ったドジョウ」が、見た目にはごく普通のドジョウということも十分に考えられるわけです。
― 世界にはもっと巨大なドジョウがいる! ―
(カラドジョウ)
(image credit: Wikicommons)
とはいえ、30センチメートルという大きさが、生物学的にあり得ないわけではありません。
実は世界に目を向けると、ジンダイドジョウをはるかに上回る大きさに成長するドジョウの仲間が、現在も生息しています。
たとえば東南アジアに生息するクラウンローチ(Chromobotia macracanthus)です。
クラウンローチはドジョウ亜目に属する魚ですが、オレンジ色の体に黒い縞模様が入り、ずんぐりとした体形をしています。
観賞魚として売られている幼魚は数センチメートルほどしかないため、小さな熱帯魚にしか見えません。
ところが成長すると30センチメートルを超え、個体によっては40センチメートル近くに達することもあります。
ただし、「巨大なドジョウ」と聞いてクラウンローチを思い浮かべる人は、あまりいないでしょう。
日本のドジョウとはあまりにも色も形も違うからです。
では、もっと「巨大なドジョウ」というイメージに近い魚はどうでしょうか。
その一例が、中国や朝鮮半島などに生息するカラドジョウ(Paramisgurnus dabryanus)です。
こちらは日本のドジョウによく似た細長い体形をしていながら、通常のドジョウより大型になり、30センチメートルを超える個体も確認されています。
こうして見ると、「ドジョウは10センチメートルくらいの小さな魚」というイメージは、必ずしもドジョウ類全体に当てはまるものではありません。
世界には、見た目こそ大きく異なるものの、40センチメートル近くまで成長するドジョウの仲間もいれば、日本のドジョウとよく似た姿のまま30センチメートルを超えるものもいるのです。
そう考えると、かつて伊賀の深田を泳いでいたという30センチメートル級のジンダイドジョウも、少なくとも「そんな巨大なドジョウが存在するはずがない」という話ではなかったのでしょう。
― もう一度、巨大な姿を見られるか ―
ジンダイドジョウについて、現在分かっているのは「その遺伝的な系統が、伊賀地方に残っている可能性がある」というところまでです。
そこに生きているドジョウが本当にジンダイドジョウそのものなのか。
そして、かつてのように30センチメートルを超える巨大な個体が存在するのか。
それは、実際に捕まえて調べてみなければ分かりません。
もし伊賀の水路から、ある日突然、普通のドジョウとは明らかに違う30センチメートル級の個体が現れたなら――
それは単なる「絶滅種の再発見」ではありません。
かつて深い泥田の中を泳いでいた巨大ドジョウが、姿を変えながら何十年もの時間を生き延びていたことになります。
日本にはもう存在しないと思われていた巨大ドジョウが、今もどこかの泥の中に潜んでいる。
そんな光景を実際に見る日が来たら、なかなか夢のある話ではないでしょうか。
(参照サイト)
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