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2025年8月16日土曜日

生きた翼竜を捕まえた! ~ サン=ディジエの翼竜


■生きた翼竜を捕まえた! ~ サン=ディジエの翼竜

今回はサン=ディジエの翼竜 (Saint-Dizier Pterosaur)。

旧サイトで「サン・ディジェの翼竜」で記事を書いていたものです。

サン=ディジエ (Saint-Dizier) はフランス北東部、オート=マルヌ県 (Haute-Marne) にあるコミューンのひとつです。

話はとってもシンプル。

1856年、サン=ディジエからムルト=エ=モゼル県 (Meurthe-et-Moselle) のナンシー (Nancy) に抜ける大規模な鉄道トンネルの掘削工事が進められていたといいます。

するとトンネル工事の進路上に大きな岩が立ち塞がりました。

もちろん崩す以外に手立てはありません。

作業員がその大きな岩を割ると、なんとそこから翼竜が現れたのです。

適当に割ったのに、翼竜の化石が見つかるなんてラッキー!なんてレベルではありません。

それは化石ではなかったのです。

ミイラ?

いやいやいや、なんとそれは化石でもミイラでもなく、生きた翼竜だったのです。

その翼竜は飛ぶことはできませんでしたが翼を微かに羽ばたかせ、そして鳴き声を上げるとそのまま地面に落下し絶命してしまいました。

翼竜が閉じ込められていた岩を見ると、その翼竜の形の窪みがありました。

原理は分かりませんが、定説では白亜紀末期の6600万年前に絶滅したといわれている翼竜が、岩にはまりそのまま現代まで仮死状態で生きていた、ということのようです。

そんなバカげた話があるか!

まあまあ怒らないでください。

その翼竜はもちろん回収され、古生物学者の手に渡りました。

(発見されたのはクテノカスマ・エレガンスか?)
(image credit: Wikicommons)

翼開長3メートル、青黒い体色、現代でもそう考えられているように、翼は薄い膜でできており四肢と繋がっていました。

足には長いかぎ爪を有しており、口内には小さな歯がぎっしり並んでいたといい、古生物学者は翼竜の一種で間違いないと同定しました。

これにはもうひとつバージョンがあり、単に掘削工事中にトンネルの奥から翼竜が現れ、挟まっていた岩等は登場しませんが、絶命後にすぐに塵になってしまった、というものです。

さて、この素敵なお話ですが、旧サイトではソースを見つけられず、日本のUMA本限定の創作ネタかと思いましたが違うようです。

週刊新聞紙「イラストレイテド・ロンドンニュース」1856年2月9日号に掲載されたもので、当時のフェイク・ニュースだそう。(笑)

さてこの地域では実際に口内に200本以上の櫛のような歯を持ち、まさに「サン=ディジエの翼竜」を彷彿とさせる、クテノカスマ (Ctenochasma) が発見されています。

尚、クテノカスマ・エレガンス (Ctenochasma elegans) はクテノカスマの最小種で翼開長が25センチとする一方、最大1.9メートルに成長した、つまり最大種とする研究者もいるようです。

いずれにしても「サン=ディジエの翼竜」ほど大きくは成長しなかったようです。

(関連記事)

2025年8月15日金曜日

19世紀に射殺された謎の巨大爬虫類 ~ リンギン


■19世紀に射殺された謎の巨大爬虫類 ~ リンギン

今回はリンギン / リングイン (Linguin)、インドネシアのジャワ島のUMAです。

オーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルド紙 (Sydney Morning Herald) の1899年3月23日号によれば、イクチオサウルス (Ichthyosaurus) と現代のよく知られた爬虫類を繋ぐミッシングリング的生物が射殺されたというのです。

それは1869年2月、バートン・ペレイラ (Baron Alfons Pereira) 男爵が、メット駐在副総領事、現地の案内人たちととジャワにあるバタビア川を大型のカヌーで遊覧していたときのことです。

(実際の記事)

それでは男爵の話をみていきましょう。

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夜明け頃、まだあたりが暗い中、カヌーは河口に差し掛かり海も近いため波の影響を受け始めました。

波に逆らっての運航は漕ぎ手たちの負担も増しているようでした。

すると突然、

「リンギンだ!リンギンだ!」

現地の乗組員たちが興奮し叫び始めたのです。

私 (バートン伯爵) の隣にいた操舵手は私の腕を掴み、150メートル程先の岸辺にいる細長い生物らしきものを指さしています。

まだあたりは暗いため、それがなんであるかははっきりと確認できず、黒い細長い生物程度にしか認識できませんでした。

私はライフルを構えましたが、その生物がそもそも何なのか分からず (おそらくはワニ、、、)、また潮の流れでカヌーが揺れており照準を定めるのも難しかったため発砲するのをためらいました。

しかし現地の乗組員たちは私の躊躇に明らかに苛立っており、「リンギンだ!早く撃て!撃て!」と叫びます。

私は意を決し、不安定なカヌーで立ち上がるとその「リンギン」なる生物に向けて発砲しました。

!!!

どうやら命中したようです。

その巨大な生物は泥の上でもんどりうって狂ったように暴れはじめたからです。

頭をそして尾をばたつかせ、体をぐるぐると回転しているようです。

乗組員たちから勝利の歓声が上がると、操舵手のひとりが偃月刀 (えんげつとう) を持って川へ飛び込み、リンギンのいる岸辺まで泳ぎ始めました。

彼は偃月刀でリンギンを切りつけました。

私たち一行もカヌーで岸まで向かうと、その生物がはっきりと見えてきました。

いわば半分ワニ、半分ヘビ、といったような姿をしていました。

ワニの体にヘビの首と頭部を付けたような姿といえば適切かもしれません。

乗員たちは次々と船から飛び降り上陸し、リンギンに近付くと、リンギンは彼らに向かって咬みつこうと何度も何度も襲い掛かろうとしました。

しかしその都度、彼らは偃月刀で怪物を切りつけ、ついにはリンギンの首に偃月刀が刺さり怪物はぐったりとなりました。

彼らは死んだリンギンを皆で引きずってカヌーに乗せましたがとてつもない重さでカヌーは傾き、危うく転覆しそうになったほどです。

体長は9~10フィート (約2.7~3.0メートル) もあり、とても長くしなやかな首と頭部を持っていました。

私がこの生物で一番印象的だったのはこの生物が偃月刀で切り裂かれているにもかかわらず、赤い血が流れておらず、まるで魚の身ように傷口が白かったことです。

現地人たちとの格闘の末、この生物はかなりズタズタにされてしまっており、脚の一本をほとんど取れかけていました。

とはいえ、私はこの生物を遺棄せずにそのまま下船し保存するように強く勧めました。

残念なことは、ジャワに滞在中、二度とこの生物に巡り合えなかったことです。

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19世紀半ば~20世紀初頭にかけてによくあった創作系のUMAでしょうか?

実際のところその判断は難しいですが、文章もそれほどドラマチックな構成ではなく、また怪物の描写も体長を含め荒唐無稽ではないため (血が出ないという点はややパラノーマル感がありますが) 信憑性はそれなりに高そうです。

イクチオサウルス (魚竜) と現生爬虫類のミッシングリンク説はちょっと意味が分かりませんが、おそらく四肢を持った水棲爬虫類、もしくは半水棲爬虫類の意味でいっているのではないかと推測されます。(「脚」という表現からもそれがうかがえます)

まあ月並みではありますが、やはり生息域やその描写された特徴からオオトカゲ類である可能性が高いのではないでしょうか。

ワニに似るが首から先はヘビ、いかにも大型のトカゲを彷彿とさせます。

(ミズオオトカゲ)
(image credit by Wikicommons)

半水棲を示唆する書き方、しかも淡水だけでなく汽水域にも生息することからもっともあり得そうなのはやはりミズオオトカゲ (Varanus salvator)。

通常大きくても2.5メートルが限界といわれていますが、最大10フィート超の記録 (3.2メートル) もあり大きさ的にも十分です。

バートン・ペレイラ男爵が見たリンギンはミズオオトカゲのとてつもない巨大個体だったのではないでしょうか?

(関連記事)








2025年8月14日木曜日

サメ博士がその存在を示唆 ~ ジャイアント・クッキーカッター・シャーク


■サメ博士がその存在を示唆 ~ ジャイアント・クッキーカッター・シャーク

体長は大きくて50センチ程度、およそサメらしからぬ細長い体型をしている深海性のサメ、ダルマザメ  (Isistius brasiliensis)。

この小さな体にして、クジラやイルカ、ジュゴン、サメ、エイ、マグロといった巨大な海洋生物に見境なく襲い掛かります。

偶発的に人間が襲われたケースも散見されます。

(ダルマザメ)
(image credit by Wikicommons)

襲い掛かるといっても真っ向勝負できるわけもなく、体の側面に目いっぱい口を広げて咬みつき吸着し、そのまま体を回転させて体表表面の肉をこそげ落とします。

その傷跡はまるで円形のクッキーカッターでくり抜いたよう、そのためダルマザメの英名はクッキーカッター・シャーク (Cookie-cutter shark) といいます。

その姿も生態もサメとしては特異中の特異な存在といえます。

群れで移動することもありクッキーカッターによる型抜き跡が複数残っているクジラやイルカも珍しくありません。

特に体が弱り遊泳力に問題を抱える大型海洋生物はクッキーカッター・シャークの群れに襲われ放題となり、数百の傷跡が残っている個体も発見されています。

その傷跡はひと目でクッキーカッター・シャークの仕業と分かるものですが、クッキーカッター・シャークの体長からも分かる通りその傷跡は直径は5センチ程度の小さなものです (但し深さは7センチ)。

(ダルマザメによる無数の傷跡を持つミナミオウギハクジラの死骸)
(image credit by Wikicommons)

さてそんな小さなクッキーカッター・シャークですが巨大種、つまりジャイアント・クッキーカッター・シャーク (Giant Cookie-cutter shark) が存在するかもしれない、そう語ったのは「シャーク・レディ」の異名を持つアメリカ人の著名な魚類学者ユージェニー・クラーク (Eugenie Clark) 博士。

彼女は母親が日本人であり日本人のルーツを持ちます。

その異名からも分かる通り、特にサメの研究で有名な人物です。

さて今回の主役ジャイアント・クッキーカッター・シャークですが、実は目撃されたことは一度もありません、理論上の存在です。

それなのに彼女はなぜそのような生物が存在すると仮説を立てたのか?

クッキーカッター・シャークの独特の傷跡を思い出してください、傷跡だけでその犯人が分かってしまう円形の傷跡。

アラスカ近郊でクッキーカッター・シャークに襲われた跡のあるイッカク (Monodon monoceros) の死骸が見つかりました。

前述の通りクッキーカッター・シャークによる傷跡は直径5センチ程度ですが、そのイッカクの体にそれよりもはるかに大きな円形の傷跡が見つかったのです。

これだけの傷跡を残せるクッキーカッター・シャークが存在するとすればそれはとてつもない大きさに違いない、彼女はそう考え、未発見のジャイアント・クッキーカッター・シャークの存在を示唆しました。

しかし現在でもそのような生物は発見されていません。

一説にはそのイッカクにあった円形の傷跡は巨大ザメとして有名なオンデンザメ (Somniosus pacificus) やニシオンデンザメ (Somniosus microcephalus) によるものではないか、と推測されています。


 存在するが、存在しない殺人ザメ ~ レイク・ニカラグア・シャーク


2025年8月13日水曜日

翼竜から思いもよらないものに変貌 ~ ヒタチナカリュウ


■翼竜から思いもよらないものに変貌 ~ ヒタチナカリュウ

翼竜ニクトサウルス (Nyctosaurus)。

巨大種がわんさかという翼竜としては控えめな3メートルほど (4メートル説もあり) の翼開長、しかし一度見たら忘れられない長大な突起 (トサカ) をもちます。

このトサカは頭骨の3倍以上 (55センチ) の長さにもなり、しかも後方ではなく頭部からほぼ垂直に伸びており、トサカというより「角」と表現したほうが適切なほどです。

更にトサカは途中で分岐し、後方にこれまた長く伸びます。

ちなみに属名のニクト (Nycto) には「夜」や「コウモリ」の意があり、サウルスは「トカゲ」を意味するため「夜のトカゲ」や「コウモリのトカゲ」といった意味で、「トサカ」ついては一切言及されていません。

これは、ニクトサウルスがトサカをもつことが当初は分かっていなかったからです。

その化石のほとんどが北米大陸、僅かに南米でも発掘されています。

そんな南北アメリカ大陸限定の翼竜の化石が、2002年、日本の茨城県ひたちなか市の白亜紀後期 (約7200万年前) の地層から小学校教諭によって発見されました。

骨の内部は泥が詰まったようになっており、つまり中空であることが示唆されます。

軽量化された骨、これはもしかすると翼竜の化石なのではないか?

もちろん初めはニクトサウルス科に属するかどうか以前に翼竜かどうかも分かっていませんでした。

この骨の鑑定を、イングランドのレスター大学で教鞭をとる古生物学者デイヴ・アンウィン (Dave Unwin) 博士にレプリカを送付し依頼しました。

アンウィン博士は翼竜研究の第一人者でニクトサウルスをプテラノドン科に属さないと結論付けた研究者のひとりであり、大変頼もしい方です。

そして待ち望んだアンウィン博士の鑑定結果が出ます。

当初の予想通り、この骨は正真正銘翼竜のものであり、翼竜の右肩甲骨であることが判明したのです!

ニクトサウルスの骨が南北アメリカ以外の地ではじめて発見されたのです。

地理的に考えても新種である可能性が高く、日本産のニクトサウルスの頭部のトサカは一体どんな形だったんだろう?なんて想像するだけでもワクワクします。

鑑定結果を受け、ミュージアムパーク茨城県自然博物館ではこの骨を「ニクトサウルス科の可能性がある化石」とし「ヒタチナカリュウ」と名付けられ展示されました。

時は流れて2017年、

同博物館の学芸員、加藤さんが自らの論文作成を祝い、自分で捌いたスッポン鍋を家族にふるまっていたときのことです、展示しているヒタチナカリュウとよく似た骨が出てきました。

どうも気になり展示しているヒタチナカリュウの化石を再度調べてみると骨は中空になっておらずスポンジのような軟組織で埋まっていることに気付きました。

そんなこんなで再度調査したところ、翼竜の右肩甲骨と思っていた骨はスッポンの上腕骨に酷似していることが判明、ヒタチナカリュウはスッポンである可能性が高まり名前を変更、ヒタチナカオオスッポンと生まれ変わり現在に至ります。

学芸員さんの観察力が凄いこと。

なおヒタチナカオオスッポンは甲長80センチもある巨大なスッポンでした。

頭部を入れれば軽く1メートルは超えるであろう巨大なスッポンでも十分魅力的ではありませんか。