■エリー湖に「確実に」棲息するUMA ~ チョンパー
今回はチョンパー(Chomper)。
北米の五大湖のひとつ、エリー湖に棲息するといわれるUMAです。
湖の名もくっつけて「エリー湖のチョンパー(Lake Erie Chomper)」と呼ばれることもありますが、他に有名なチョンパーというUMAはいないので、ここでは単にチョンパーと呼びましょう。
― 2001年、エリー湖で何かが人を襲った ―
チョンパーが現れたのは、21世紀に入って間もない2001年8月。
エリー湖はカナダのオンタリオ州と、アメリカのオハイオ州、ペンシルベニア州、ニューヨーク州、ミシガン州に接していますが、この事件が起きたのはオンタリオ州ポートドーバーのパンプハウス・ビーチ周辺でした。
夕暮れ時、暑さを凌ぐため湖に入っていたブレンダ・マコーマック(Brenda McCormack)さんは、突然、右脚に何かが巻き付いたような感触を覚えました。
次の瞬間、ふくらはぎに激痛が走ります。
何者かに噛みつかれたと判断した彼女は、慌てて岸へと戻りました。
するとふくらはぎからは激しく出血し、約6インチ(約15センチ)にわたって、円形に並んだ鋭い歯によるものと思われる傷跡が残されていたのです。
しかし、彼女は犯人の姿を見ていません。
― 翌朝、同じ場所で再び襲撃 ―
これだけなら、湖底の岩や何らかの水生生物による偶発的な事故だった可能性もあります。
ところが翌朝、同じパンプハウス・ビーチで泳いでいた父親と幼い息子が、またも何者かに襲われました。
2人も水中の何かに噛みつかれ、特に子供は深い傷を負って治療を受けることになったとされます。
わずか24時間ほどの間に3人の遊泳者が謎の生物に襲われた。
しかも、いずれの被害者も犯人の姿を確認していません。
残されたのは、ただ生々しい「咬み跡」だけでした。
こうしてエリー湖に潜む謎の生物は、「咬む」を意味する英語のchomp(チョンプ)からチョンパー(Chomper)、つまり「咬むもの」と呼ばれるようになりました。
― ダルマザメそっくりの咬み跡 ―
(ウミヤツメ)
(image credit: Wikicommons)
(ウミヤツメの咬み跡 (吸血跡))
(image credit: Wikicommons)
特に奇妙だったのが、その傷跡です。
円形に近い形で歯が並び、まるで肉を丸くくり抜いたような傷。
この特徴から名前が挙がったのが、クッキーカッター・シャークことダルマザメ(Isistius brasiliensis)でした。
ダルマザメは獲物の皮膚や肉を円形に削り取るように食いちぎることで知られています。
ところが、当然ながらダルマザメはエリー湖には棲息していません。
そもそも海水性の深海魚であり、大西洋からエリー湖へ入り込むには、最短経路でも約600キロメートル。
セントローレンス海路を利用して遡上するなら、さらに長大な距離になります。
淡水への適応という問題もあり、ダルマザメがエリー湖までやって来るというのは現実的ではありません。
それでも、あまりにも特徴的な咬み跡だったため、「では一体、何が噛んだのか?」という謎だけが残りました。
― 正体は古代魚か、外来種か ―
エリー湖には、もともと水棲UMAの伝説があります。
その代表が、巨大な蛇のような姿で語られるエリー湖の怪物ベッシー(Bessie)です。
そのためチョンパーをベッシーの幼体とする、UMAファンらしい大胆な説まで登場しました。
面白いものではエリー湖とは地理的にもかなり離れているクレセント湖のクレッシーも候補に挙がっていました。
ほかにも、誰かが飼育していたピラニアなどの肉食魚を湖へ放流したという外来種説や、未知の巨大淡水魚説など、さまざまな候補が挙げられています。
なかでも興味深いのが、エリー湖にも棲息する古代魚ボウフィンことアミア・カルヴァ(Amia calva)の存在です。
アミアは最大で体長110センチ、体重10キロほどになる魚で、カムルチー(ライギョ、Channa argus)を思わせる細長い体型をしています。
繁殖期には縄張り意識が強くなり、攻撃的になることでも知られています。
治療にあたった医師も、チョンパーの正体としてアミアをもっともありそうな候補として挙げたとされます。
ただし、アミアの口や歯から、15センチにも及ぶ特徴的な円形の傷を作れるのかという疑問は残ります。
― 巨大なカワメンタイならどうだ? ―
もうひとつ候補として面白いのがカワメンタイ(Lota lota)です。
エリー湖にも棲息しており、アミアやカムルチーに似た細長いシルエットをしています。
通常は人間を襲うような魚ではなく、歯もそれほど大きくありません。
しかしカワメンタイには、最大1.5メートル、34キロという記録があります。
もし通常では考えにくいほど巨大化した個体が存在したなら、鋭い歯を持つ大型個体が人間の脚に噛みつくという可能性を完全に否定することもできません。
もちろん、これもあくまで仮説にすぎません。
― 「確実にいる」のに姿がない ―
チョンパーの奇妙さは、ほかの湖の怪物とは少し違います。
ネッシーやベッシーのようなUMAなら、少なくとも「何かを見た」という目撃談が存在します。
ところがチョンパーには、それがありません。
誰も姿を見ていない。
写真もない。
捕獲された個体もない。
あるのは、湖の中で何者かに襲われたという証言と、その身体に残された奇妙な咬み跡だけです。
その後、2001年夏に相次いだ襲撃は途絶え、チョンパーは再びエリー湖の濁った水中へ姿を消してしまいました。
考えてみれば、「確実に何かがいた」という感覚ほど厄介なものはありません。
傷跡が残っている以上、少なくとも被害者たちが何かに襲われた可能性はある。
しかし、その「何か」が何だったのかは、今も分からない。
エリー湖の水面は今日も穏やかです。



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