ビーバーのような平たいオール状の尾、カンガルーを思わせる後肢、、水かきのついた指、猛禽類を彷彿とさせるクチバシ。
既知動物のハイブリッド的容姿が特徴です。
これはアメリカ、メイン州に伝わる民間伝承の生物、ビルダッド (Billdad) です。
ご丁寧に「サルティピスキャトル・ファルコロストラトゥス (Saltipiscator falcorostratus)」なる学名も持ちます。
ビルダッドは山間部の河川に生息する生物で、大きさはビーバー程度 (1.2メートル)、体の各所は上記の通り複数の生物の特徴を備えていますが、そこまで荒唐無稽な姿をしているわけでもありません。
もう少し現実的に考えれば、くちばしを持ち後肢の発達したビーバーに似た生物と言い換えられます。
もちろん民間伝承の生物と考えられていることから伝えられるその生態や特徴は非現実的です。
一跳び60ヤード (約55メートル)、水面近くに上がってきた魚を見つけるや上空から飛びかかり尾を打ち付けて気絶させる、ビルダッドは有毒と考えられており肉を食べた人物は気分が悪くなり目は虚ろ、家から飛び出すとビルダッドさながらに跳ね回る、といった感じです。
しかしこういった生態を無視すればその姿はビーバーに似ており、おそらくビーバーを基に考えられたUMAであるか、もしくはビーバーを誤認したもの、といった考えが合理的に思われます。
ここでビーバーより似ている生物がいるのでは?と思った人も多いかもしれません。
そう、オーストラリアにしか生息していないカモノハシ (Ornithorhynchus anatinus) です。
(カモノハシ)
カモノハシの体はビーバーに似ており尾もオール状です。
猛禽類のクチバシとは言いませんが、カモのようなクチバシを持っています。
そして哺乳類でありながら強力な毒を持つのも特徴です。
後肢は特に発達していませんが、ビルダッドの特徴はビーバーよりもカモノハシのほうがより近いといえます。
そもそもカモノハシ自体、発見当初はビルダッドのようにハイブリッド生物として扱われた過去があります。
はじめてイギリスに送られたカモノハシの剥製は「ミズモグラ」と呼ばれ、どうせいろいろな生物を縫い合わせて作ったフェイクであろうと学者たちにまともに扱われることすらありませんでした。
しかしいくら入念に調べてもつぎはぎ等、細工の痕跡は見つけられず、どうもこの生物は実際に存在するらしいと、この生物が実在することを認めざるを得ない状況になっていきます。
そしてオーストラリアに動物学者が渡り実在することを突き止めます。
しかし実在する生物とわかっても混乱は収まりませんでした。
むしろ実在することにより混乱は深まったと言ってもいいかもしれません。
フランスの博物学者ジョルジュ・キュヴィエはかつて分類のよく分からないナマケモノ、センザンコウ、ツチブタ、ハリモグラといった生物を「貧歯類」に入れていましたが、めでたくカモノハシもここに分類したほどです。
当初の学名はジョージ・ショウによるプラティプス・アナティヌス (Platypus anatinus「カモに似た扁平足」)、しかしこれに異を唱えたヨハン・フリードリヒ・ブルメンバハによりオルニトリンクス・パラドクサス (Ornithorhynchus paradoxus「パラドックスの鳥の嘴」) を提唱。
真っ向から対立したものの、結局後者の属名と前者の種小名を合わせたオルニトリンクス・アナティヌス (Ornithorhynchus anatinus「カモに似た鳥の嘴」) に落ち着きます。
随分と話が逸れてしまいました。
さて、要はハイブリッド的姿の生物 (UMA) は安易に「既知動物を継ぎはぎして創造された生物」ばかりではなく、実際にそういった姿で実在する場合もある (あった)、ということを言いたかっただけです。
ビルダッドはあくまで民間伝承の生物ですが、北米大陸初の未知種の単孔類 (カモノハシ・ハリモグラ) が基になっているかも!?という夢のあるUMAでもあるんですね。
(参照サイト)
Strange New England
(参考文献)
世界動物発見史 (ヘルベルト・ヴェント著)
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