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2023年1月31日火曜日

たった一週間だけの蛮行 ~ ブラデンボロのビースト (B.O.B)


■一週間だけの蛮行 ~ ブラデンボロの野獣 (B.O.B)

アメリカ、ノースカロライナ州にある小さな町、ブラデンボロ (or ブレイデンボロ, Bladenboro)。

現在でも人口は1万人に満たない、どころか1600人程度、今回の舞台である1950年代はさらにその半分、800人ほどしか住んでいませんでした。

そんな小さな小さな町で起こった奇妙なUMA事件、ブラデンボロのビースト (Beast of Bladenboro) です。

1958年12月29日、まもなく新年を迎えるブラデンボロの隣町、クラークトン (Clarkton) から物騒な噂が流れてきました。

猫に似た5フィート (約1.5メートル) もある黒光りする獣が飼い犬を襲って殺したというのです。

もちろん捕まえて体長を測ったわけではないですから誇張されている可能性はあるにしろかなり大きな生物の可能性があります。

町と町の境界線があるわけではありませんが、隣町とはいえブラデンボロの住民はおそらく他人事 (ひとごと) に感じていたことでしょう。

しかしそれから2日後、12月31日、ブラデンボロの住民の飼い犬2匹が何者かに惨殺されます。

飼い主であるジョニー・ヴァース (Johnny Vause) 氏はこういいます。

「犬たちはよく戦ったと思います。

ポーチは至るところが血にまみれ、大きな血溜まりもできていました。

唾液すら溜まっていました。

それは午前10時半のことで死んだわたしの犬はポーチにそのまま横たわっていました。

父はブランケットで亡くなった犬をくるみました。

しかしヤツは戻ってきたようです、くるんでいた犬がいなくなっていたのです、その後、その飼い犬を二度と目にすることはありませんでした。

そして夜中の午前1時半、ヤツはまたも来たのです、もう一匹の犬が連れ去られてしまいました。

連れ去られてから3日後、生垣で死体を見つけましたが酷いものでした。

頭頂部は引きちぎられ、まるで体全体が咬み砕かれたように潰れ、そして唾液でびしょ濡れだったのです」

どうやらヤツがブラデンボロに乗り込んできたようです。

新年を迎えた1959年の1月1日に2匹、3日に1匹の飼い犬の惨殺が報告され、5日にはペットのウサギが殺されているのが発見されました。

犬は首が引きちぎられていました。

しかし正体は分かりません。

この町の人口の少なさも影響しているのでしょう、騒がれた割には目撃情報が乏しいのです。

小さな町で起きたセンセーション。

ローカル新聞は大げさに書き立てることによりブラデンボロのビーストの噂は全国区へと広がっていきます。

人口の少ない小さな町ではビーストの恐怖よりも町が注目を浴び人が集まってくることに注力を注いだようです。

マスコミは実際の目撃証言にはなかったような特徴、例えば死体には血が残っていなかった、というようなパラノーマルな特徴を加えたりしたともいわれています。

とはいえ「注目を浴び人を集める」ということには成功したようです。

ブランデンボロには連日人口以上のハンターたちが集まったからです。

1月だけでものべ数千人 (もしかすると数万人) のハンターがブランデンボロに集結していたようです。

但しその余波で無意味な野生動物の殺傷も行われていたようですが。

目撃情報はあるものの襲っているところを見たという人は少なく、またその目撃証言に共通天が少ないことから犬たちを襲った生物の種類を特定することができず、ハンターたちが「ブラデンボロのビースト」を狩ったといって持ち込む動物がその正体である可能性を確かめる術がありません。

(ボブキャット)
(image credit by Wikicommons)

ブラデンボロのビースト (Beast of Bladenboro) の頭文字をとってB.O.B (ビー・オー・ビー、「ボブ」) という別称を持ち、名前の類似性からも北米全域に生息するボブキャットもその正体として候補に上がりました。

ボブキャットはオオヤマネコの仲間の中型ネコ科動物 (体長最大1メートル) で大きさ以上の獰猛さを兼ね備えており、実際に人間の子供も殺されたこともあることからその正体としては筆頭候補ですが、犬の頭部を丸呑みして砕いたり首を引きちぎったり、といったような芸当はその体格からできるはずもなくおそらくは違うでしょう。

マスコミが書き立てブラデンボロのビーストが全国区となって盛り上がったころにはすでにその姿はなく、「猫に似た」という目撃情報も頼りなく現在に至るまでその正体は全くの不明です。

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2023年1月30日月曜日

ベトナム近海のシーモンスター ~ コン・リット (ムカデクジラ)


■ベトナム近海のシーモンスター ~ コンリット (ムカデクジラ)

今回はベトナム近海で目撃の多いシー・モンスター (海の怪物) のコン・リット (Con rit)。

コン・リットとはベトナム語 (con rết) で単に「ムカデ」を意味します。

シー・モンスターなのにムカデ?と不思議に思うでしょう。

実際はムカデのようなシーサーペントという意味で、コン・リットはメニー・フィンド・シー・サーペント (「たくさんのヒレを持つシーサーペント」Many-finned sea serpent) の一種となります。

ちなみに日本ではコン・リットと同義で「ムカデクジラ」という呼び名もあります。

(中世に描かれたシーサーペントは体節のようなものも確認できるものもあります)

シーサーペントとは巨大海蛇を意味し、あまりヒレが確認されることはありません。

稀にウナギのように背ビレや尾ビレがあることもありますが、それはリュウグウノツカイの誤認であったりします。

それではコン・リットは一体どのようなUMAなのか?

コン・リットはシー・サーペントですから細長い体型をしています。

但し、ムカデ (con rết) と呼ばれるだけあって足はありませんが、その代わりに体の左右側面にたくさんのヒレが並んでいるといいます。

UMAファンの方であればスカイフィッシュを想像していただければ分かり易いでしょう。

実在する (した) 生物であればイメージ的にはアノマロカリス (Anomalocaris) が一番近いかなぁ?

(アノマロカリス)
(image credit: Wikicommons)

目撃は19世紀からはじまり、もっとも古い記録は1833年のものです。

砂浜に打ち上げられたコン・リットの死骸は全長60フィート (約18メートル)、幅3フィート (約90センチ) と体長に対し体幅が狭くかなり細長い生物であることがわかります。

目撃者は実際に死骸に触れたとまでいわれていますが、極度に腐敗していたということでその姿をそのまま生前の姿と当てはめるのは少々ギャンブルかもしれません。

砂浜に打ち上げられ腐敗が進んだクジラや巨大なサメの死体 (いわゆるグロブスター) は脂肪分がまるで「足 (コン・リットでいえばヒレ)」のようなシルエットを形成する場合も少なくないからです。

(グロブスターのひとつ)
(image credit: Wikicommons)

但し、それを否定する「生きているコン・リット」の目撃もあります。

ベトナム近海ではなく北アフリカのナイジェリア、ケープ・ファルコン近くを航行しているときのことですが、イギリスの軍艦、1899年HMSナルキッソス (HMS Narcissus) がの乗員によってコン・リットが目撃されました。

別のイギリスの軍艦、HMSダイダロス (HMS Daedalus) も1848年にアフリカ沖でシーサーペントを目撃しており、「イギリス海軍とシーサーペント」というなかなか興味深い構図です。

搭乗員はなんと30分もの間シー・サーペントを目撃したといいます。

体長は信じがたいことに135フィート (約40メートル超)、軍艦と並走できるほどの遊泳力を有しており、夥 (おびただ) しいほどのヒレが確認できたといいます。

コン・リットの正体は何か?

目撃証言通りであれば似たような生物が現生どころか過去にもいないことから正体の候補すら浮かびません。

考えられるとしても弱ったリュウグウノツカイが海面近くで目撃された際に、横になったリュウグウノツカイの背ビレを胸鰭と勘違いした、ぐらいがせいぜいです。

面白いものとしては「装甲クジラ説」があります。

ムカデやヤスデなどは足が多いことがもっとも顕著な特徴といえますが、もう一つの特徴として体節が刻まれ硬いクチクラに覆われた体表です。

足はともかく、体の表面がムカデのような装甲 (プロテクター) で覆われた細長いクジラがいたとしたらそれこそコン・リットではないか?というのです。

細長いクジラはUMAファンの間ではおなじみのバシロサウルス (Basilosaurus) がいます。

(模式種バシロサウルス・ケトイデスBasilosaurus cetoides))

バシロサウルスを含め肝心の装甲を纏 (まと) ったクジラは発見されていませんが、20世紀初頭のころは化石の取り間違え、誤認等により、バシロサウルスのような絶滅種のクジラの仲間には装甲を纏ったクジラがいたという説も唱えられていたほどです。

あの巨体に装甲を纏えば向かうところ敵なしといった感じですが少なくとも現時点でそのようなクジラ類は発見されていません。

しかし未発見のクジラや巨大ザメにそのようなものが存在したらそれがおそらくコン・リットの正体と言えるでしょう。

(サメとは思えないラブカの体型は大きさはともかくシーサーペントとして申し分ありません)
(image credit: Wikicommons)

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2023年1月28日土曜日

実在した3メートルの超巨大ヤスデ ~ アースロプレウラ

(original image credit by Wikipedia)

■3メートルの巨大ヤスデ ~ アースロプレウラ (アルトロプレウラ)

足の多い生物、ムカデやヤスデの不人気ぶりは気の毒になるほどです。

既にもう名前を聞いただけでからだがゾワゾワしている人もいるかもしれません。

まあ自分も特に好きではないですけどねw

ムカデもヤスデも名前が違うだけでおんなじやん!

そう思う人もいるかもしれませんが見た目の顕著な違いは体節ひとつにつきムカデは1対、ヤスデは2対足を持つことで、単純に同じ長さで体節数も同じであればヤスデのほうが2倍足が多いということになります。

英語でムカデはセンチピード (centipede)、ヤスデはミリピード (millipede)、ラテン語で「センチ (centi)」は100、「ミリ (Milli)」は1000を意味する接頭語ですから、単純に訳すとそれぞれ「百の足」「千の足」となりヤスデの足の多さここでもがわかると思います。

また例外もありますが、ヤスデは真横から見ると背中がぷっくり丸く盛り上がっており (つまり切断面が円形)、それに動作もモゾモゾして遅い傾向があります。

(アフリカオオヤスデ)
(original image credit by Wikicommons)

現生最大のヤスデはアフリカオオヤスデ (Archispirostreptus gigas) の33.5センチメートル、次いで正式な和名はよくわかりませんがチョコレートミリピード (Ophistreptus guineensis) の25センチメートル。

さて今日はそんな人気者、ヤスデ史上、というよりも節足動物史上、最大級の大きさを誇るアースロプレウラ (Arthropleura) です。

あまり耳にすることはありませんが、和名はコダイオオヤスデです、そのまんまですね。

アースロプレウラが生息していたのは恐竜が現れるはるかはるか昔の石炭紀~ペルム紀の約3億4500万年~2億9000万年前です。

体長は驚愕の2メートル超、最大種のアースロプレウラ・アルマータ (Arthropleura armata) に至っては2.5メートルと見積もられ、体幅は40~45センチ、と知らない人が聞いたら「UMAではなく現存した生物です」と言ってもにわかにその存在は信じられないかもしれません。

体重も50キロ超と見積もられ、足跡化石も発見されていますがその体重から地中に刻まれた足跡は深さ3センチにも及びます。

体型的にはムカデのように上下に扁平で大きさこそ違えど現生のヒラタヤスデ (Platydesmida) に良く似たシルエットをしていたと考えられます。

(ヒラタヤスデの仲間)
(image credit by Wikicommons)

アースロプレウラはヤスデ (に近縁の仲間) なのでもちろん節足動物です。

節足動物ということは成長する (大きくなる) には脱皮する以外に方法はありません、当然、この巨体にして脱皮を行うことになります。

実はアースロプレウラの良好な化石はすべて抜け殻、つまり脱皮化石ではと推測されています。

これだけの大きさをしていたのだから向かうところ敵なし、獰猛に同時代の生物を襲っていたのか?と期待が膨らむかもしれません。

肉食のムカデと異なりもともとヤスデは落ち葉や腐葉土のような腐植食性で、襲われたとしても丸くなって身を守ったり刺激臭の分泌物を放つ等、動物を襲う性質はありません。

頭部が発見されておらず食性も分かっていませんがそれでも植物食であったと現時点では考えられています。

それ故、アースロプレウラはその大きさから成体になれば襲われるようなことはかなり少なかったと推測されますが、それでもその食性から自発的に他の生物を襲うようなことはなかったことでしょう。

(タマヤスデの一種 (Sphaerotheriida)、ダンゴムシのように丸くなれることからタマヤスデの仲間は英語圏では「丸薬ヤスデ (Pill millipede)」と呼ばれ日本では「メガボール」の名で流通しています)
(image credit by Wikicommons)

これほど怪物然として魅力的な生物でありながら意外にもアースロプレウラがUMAとして登場したり、UMAの正体であったりということはほとんど聞きません。

というわけで最後にヤスデのUMAの話をしましょう。

アランと名乗る男性がアメリカ、2018年ミネソタ州の真夏のハイウェイを車で疾走していたところ巨大な茶色のヤスデを目撃したと主張しています。

「自分が実際に見たものすら疑うほどの懐疑論者と自認する」アラン氏が掛け値なしで大きかったと証言しています。

体長は4フィート (約1.2メートル)、アースロプレウラには遠く及ばないにしろ、現世のヤスデ (ムカデも含めて) と比べたら桁違いの大きさ、しかも直径は3インチ半 (約9センチ) もある円筒形。

平べったいアースロプレウラとは異なりますが、典型的なヤスデのシルエットです。

残念なことに足は見えなかったといいますが、ネズミが全速力で駆けるぐらいのスピードで移動していたと証言しています。

ダクト (のようなもの) 等建築資材がが転がっていただけでは?

アラン氏は絶対に違うと主張しています。

なぜならその「巨大ヤスデ」は横に転がったりすることはせず、前進し続けていたからです。

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