■砂漠のオアシスに潜む異形 ~ カラマ・クリーチャー
今回はカラマ・クリーチャー(Calama Creature)。
カラマ・クリーチャーとは単一のUMAの呼称ではなく、チュパカブラの亜種、あるいはチリ・カラマ周辺で目撃されたチュパカブラ系生物の総称として用いられることもある呼称です。
曖昧な存在ではありますが、チュパカブラとは別物という視点で見ていきましょう。
― カラマ・クリーチャー ―
まずこのカラマ(Calama)とは、チリ北部アントファガスタ州に位置する都市です。
世界で最も乾燥した地域の一つとして知られるアタカマ砂漠の中央にあり、年間降水量はわずか数ミリメートルほどしかありません。
それにもかかわらず、市内を流れるロア川によって古くから砂漠のオアシスとして栄え、現在では世界最大級の露天掘り銅鉱山「チュキカマタ(Chuquicamata)」の拠点都市として知られています。
昼は灼熱、夜は冷え込み、どこまでも荒涼とした砂漠が広がるその景観は、未知の生物が現れても不思議ではないような独特の空気を漂わせています。
― チュパカブラ騒動の中心地 ―
カラマの名がUMA史に刻まれることになった最大の理由は、2000年頃から発生したチュパカブラ騒動です。
プエルトリコで誕生した吸血UMA「チュパカブラ」は、その後中南米各地へと噂が広がりました。
なかでも最も大規模なウェーブが起きたのが、このカラマでした。
2000年4月頃から2002年末にかけて、周辺の農場では羊やヤギ、ニワトリなど100頭以上の家畜が不審な死を遂げたといわれています。
現場では、肉が食い荒らされているわけではなく、小さな穿刺創(せんしそう:針で刺したような小さな穴)だけが残され、血液が抜き取られたように見える死骸が相次いで発見されました。
UFO関連事件ではキャトル・ミューティレーションと呼ばれる現象です。
その特徴は、プエルトリコで報告されたチュパカブラ事件とよく似ていたため、地元メディアは「チリにもチュパカブラが現れた」と大々的に報じます。
やがて「NASAが調査に乗り出した」といった根拠不明の噂まで飛び交い、街は一種のパニック状態となりました。
― 1999年の異形の目撃者 ―
こうした騒動が起きる少し前の1999年9月15日、カラマ市内のビジャ・サン・ラファエル地区にて、きわめて奇妙な生物の目撃談が残されています。
夜の11時頃、エンリケ・ファウラー(Enrique Fowler)氏と13歳の孫であるジャン・ファウラー(Jean Fowler)少年がトラックで帰路についていた時のことでした。
車のヘッドライトに照り出された道路の真ん中に、突如としてその姿が現れたのです。
二人との距離は、わずか4メートルほどしか離れていませんでした。
直立したその生物の身長は約1メートル。全身は薄汚れた灰色の長い体毛に覆われており、ずんぐりとした胴体に短い首がついていました。
胸元には、まるでカンガルーのように極端に短い腕がぴったりと寄せられています。
皮膚と同じ灰色の顔には、大きく不気味に発光するアーモンド形の目。そして小さな口は、まるで力尽きかけているかのように、あえぐような動きを延々と繰り返していました。
頭部からは乱れた毛の束と長いあごひげが垂れ下がり、その両手には3本の指と灰色の鋭い鉤爪が備わっていたといいます。
さらに二人の恐怖を煽ったのは、その足先でした。
足の爪がまるで呼吸でもしているかのように、規則正しく伸び縮みを繰り返していたというのです。
― 人間離れした動き ―
クリーチャーは当初、目撃者に背を向けて立っていました。
しかし次の瞬間、胴体だけを180度ねじるように回転させ、首をほとんど動かすことなく二人を見つめたといいます。
その動きは人間や動物の関節では到底不可能と思えるほど不自然なものでした。
そして再び背を向けると、一気に約3メートルも跳躍し、近くの木立の中へ姿を消しました。
あまりの出来事にエンリケ氏は15分近く車から降りることができなかったといいます。
さらに不可解なことに、遭遇後まもなく二人とも重度の皮膚アレルギーを発症しました。
直接的な因果関係は証明されていませんが、海外では「未知の生物が何らかの刺激物質を放出したのではないか」という憶測まで語られています。
なお、エンリケ氏は翌2000年、60歳という若さで心臓発作により亡くなっていますが、この出来事との関連性を示す証拠はありません。
― 正体は既知の動物だったのか ―
(ダーウィンレア)
ファウラー親子が目撃した生物は、実在する動物を見誤ったものだったのでしょうか。
候補のひとつとして考えられるのが、南米に生息する飛べない鳥、ダーウィンレア/チョイケ(Rhea pennata)です。
ダーウィンレアは、長い羽毛に覆われた身体と、退化した小さな翼を持つ二足歩行の鳥です。
種類や地域によって体格は異なりますが、背の高さや灰色がかった羽毛、胸元に寄せられた小さな翼などは、夜間にヘッドライトで照らされた場合、奇妙な人型生物のように見えた可能性があります。
また、脚には3本の指があり、目撃証言に登場する「3本の指」とも部分的に一致します。
親子が目撃したのは「3本の指を持つ手」といわれていますが、暗闇と極限のパニックのなか、鳥類特有の頑強な『足先』を奇妙の手として認識してしまった可能性は十分に考えられます。
さらに、クリーチャーが「胴体を180度ねじってこちらを見た」という不自然な動きも、鳥類の生態で説明がつきます。
鳥類は眼球を動かせないため、背後を凝視する際は首だけを急激に真後ろへ回転させる習性があります。
車のライトに浮かび上がったその瞬間的な大回転が、人間の関節では不可能な『胴体のねじれ』として網膜に焼き付いたのかもしれません。
もちろん、これらもあくまで仮説の域を出ず、ダーウィンレアが有力な正体だと断定することもできません。
しかし、証言の一部が既知の動物の特徴と不気味なほど重なる点は、非常に興味深いところです。
もうひとつ興味深いのが、チリヤマビスカッチャ/チリヤマビスカーチャ(Lagidium viscacia)です。
(チリヤマビスカッチャ)
(image credit: Tristan Jobin / CC BY 4.0)
南米アンデスの岩場に生息するチンチラ科のげっ歯類ですが、長い耳と大きな後ろ脚を持ち、その姿はまるでウサギ。
ネズミの仲間でありながら、初めて見た人ならウサギの一種と思っても不思議ではありません。
危険を察知すると後ろ脚で立ち上がることも多く、小さな前肢を胸元に寄せた姿は、どこかカンガルーを思わせます。
灰色がかった毛並みも含め、暗闇で突然姿を現したなら、見慣れない生き物として強い印象を残した可能性はあります。
ただし、チリヤマビスカッチャの身体は小さく、体長は尾を除けば数十センチ程度。ファウラー親子が証言した約1メートルという大きさとは、かなりの開きがあります。
一方、疥癬にかかって毛が抜け落ちたキツネや野犬も、異様な外見の動物を目撃したという証言を説明する候補になります。
実際、チュパカブラの目撃談では、皮膚病にかかったイヌ科動物との見間違いが有力な説のひとつです。
しかし、これらの動物であっても、ファウラー親子が語った独特の姿や動きをすべて説明できるわけではありません。
もちろん、いずれもファウラー親子の目撃個体を特定する証拠はありません。
ダーウィンレアが有力な正体だと断定することもできませんが、証言の一部が既知の動物の特徴と重なる点は興味深いところです。
― 奇妙な「テレパシック・フットボール」 ―
カラマでは、さらに別の異形の生物も報告されています。
2002年、市内でヘビを探していた2人の少年は、犬たちが一斉に遠吠えを始めた直後、不思議な生物と遭遇しました。
その姿は「足の生えたラグビーボール」としか表現できない奇妙なものでした。
ブルドッグのような頭部、赤みを帯びた目、イノシシのような剛毛、ヤギに似た脚、そしてアヒルのような水かきを備えていたとされます。
目撃者は近づいた瞬間、胃のあたりへ電流が走るような感覚を覚え、「テレパシーのような力を受けた」と証言しています。
この奇妙な目撃例は、海外では「テレパシック・フットボール(Telepathic Football)」という名で現在も紹介されています。
― 科学的に見ると ―
その後、チリの野生動物当局や専門家による調査が実施されました。
現場に残された足跡や体毛などを分析した結果、一連の家畜被害は野犬、あるいは野生化した犬同士の交雑個体による襲撃である可能性が高いと結論づけられています。
また、カラマ周辺は野犬が非常に多い地域としても知られており、夜間には群れで行動する姿も珍しくありません。
海外の懐疑派研究者ベンジャミン・ラドフォードらも、チュパカブラ騒動はメディア報道による集団心理や、疥癬にかかった動物、野犬などへの誤認が重なった結果と考えています。
― 砂漠が生んだもう一つのチュパカブラ伝説 ―
とはいえ、カラマは現在でも南米におけるチュパカブラ伝説の重要な舞台として語られています。
乾ききった砂漠、夜空を覆う満天の星、そして工業都市の灯りの向こうから響く野犬の遠吠え。
そんな現実の風景は、ときに人々の想像力を刺激し、未知の怪物を生み出します。
カラマ・クリーチャーとは、1匹の怪物の名前ではありません。
それはチュパカブラ騒動をはじめ、砂漠の街で語り継がれてきた数々の異形の目撃談が重なり合い、生まれた「カラマという土地そのものが育てた怪物」なのかもしれません。
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