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2026年10月31日土曜日

コンゴで射殺された謎の巨大齧歯類 ~ アフリカン・カピバラ


■コンゴで射殺された謎の巨大齧歯類 ~ アフリカン・カピバラ

「私はかつて、生後6ヶ月の豚ほどの大きさと外見をした、まぎれもない齧歯動物を射殺したことがある。しかし、それを自著で詳しく説明することはなかった。なぜなら、中央アフリカにそのような生物が存在することを証明する手段がなかったからだ。科学者によれば、そのような動物は中米にしか存在しないとされている」

――――――――――――――――――

今回はアフリカン・カピバラ(African capybara)。

南米の動物として知られるカピバラ(Hydrochoerus hydrochaeris)。

しかしこのカピバラに酷似した生物が、アフリカ中央部コンゴの密林で目撃されるという事件がありました。

― コンゴの奥地で撃たれた「豚のようなネズミ」 ―


この奇妙な生物の存在を世に示したのは、19世紀を代表する探検家ヘンリー・モートン・スタンレー(H.M. Stanley)です。

スタンレーはコンゴの密林で、幻の動物オカピを追っていた最中、不可解な生物と遭遇しました。

それが冒頭の彼の証言。

スタンレーはその生物を射殺しましたが、標本として持ち帰る術がなかったため、詳細な記録を著書に残すことはありませんでした。

彼自身、次のように述懐しています。

中央アフリカで、そのような生物の存在を証明する手段がなかったからだ、と。

そして科学者たちは、その特徴を持つ動物は中南米、つまり新大陸にしか存在しない、と断じていたのです。

― なぜ「アフリカのカピバラ」なのか ―


この証言から想起される生物は、一択――

カピバラです。

豚のような体型、丸みのある胴体、短い四肢、そして紛れもない現生最大の齧歯類。

しかし問題があります。

カピバラは現在、中央アメリカから南アメリカにかけてのみ分布する動物であり、アフリカには生息していません。

それにもかかわらず、スタンレーは「見間違いではない齧歯類」と断定しています。

この矛盾こそが、アフリカン・カピバラというUMAを成立させる核となっています。

― 正体候補と否定された動物たち ―

(モリイノシシ)
(image credit: Wikicommons)

では、この生物の正体はいったい何だったのでしょうか。

まず挙げられるのが、単純に既知種の誤認です。

アフリカタテガミヤマアラシ(Hystrix cristata)はどうでしょう。

大型の齧歯類という点では候補になりそうですが、体型やサイズはスタンレーの証言とは異なります。

巨大ネズミとして知られるアフリカオニネズミの最大種、サバンナアフリカオニネズミ(Cricetomys gambianus)も考えられます。

しかし、こちらも大きな個体でさえ体長は50センチほど。生後6ヶ月の豚ほどという大きさには及びません。

では、スタンレーが語った「豚」という部分に注目してみましょう。

文字通り「ブタ(ピッグ)」と名の付く動物なら、ジャイアント・フォレスト・ピッグことモリイノシシ(Hylochoerus meinertzhageni)がいます。

実はこの動物、スタンレーの目撃事件から数年後の1904年に実在が確認されたばかりでした。

名前も大きさも、どこか証言に重なるものがあります。

ただし、モリイノシシは齧歯類ではなく、イノシシの仲間である偶蹄類です。

― 太古の遺産という仮説 ―


そこで浮上するのが、よりロマンに満ちた説です。

そう、UMAの正体として定番の「絶滅種の生存・進化説」です。

実は、カピバラをはじめとする南米の大型齧歯類の祖先は、遠く離れたアフリカにルーツを持っています。

約4000万年前、手のひらほどの大きさだった彼らの祖先(フィオミス(Phiomys)など)が、植物のいかだに乗って大西洋を渡り、南米で独自に巨大化したのがカピバラの歴史です。

つまり理論上、アフリカには彼らの「共通の祖先」が存在していた過去があるのです。

南米に渡った仲間がカピバラへと大進化を遂げたように、もしアフリカの地に残り、コンゴの深い森林に孤立した系統からも、同じように巨大化の道を歩んだ未知の生物がいたとしたら――

スタンレーが目撃したのは、南米のカピバラと対をなす、アフリカ独自の「もうひとつの進化の結末」だったのかもしれません。

― 記録の断片が生んだUMA ―


このエピソードが公に紹介されたのは、1901年6月19日付のオーストラリアの新聞ザ・テレグラフ紙でした。

「色とりどりの獣:サー・H・M・スタンリーの新動物(Many Coloured Beast: Sir H. M. Stanley's New Animal)」という見出しで、彼の不可解な体験が報じられています。

確たる証拠はなく、後続の目撃例も確認されていません。

それでも、南米にいるはずの動物が、アフリカの森にいたかもしれない、という事実。

発見されたはずなのに、発見されなかった動物――
アフリカン・カピバラとは、そんな奇妙な存在なのです。

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2026年10月30日金曜日

翼竜は死んでいなかったのか ~ ギトモ・バード


■翼竜は死んでいなかったのか ~ ギトモ・バード

今回はギトモ・バード(Gitmo Bird)。

キューバ南東部、グアンタナモ湾にある米軍基地周辺で目撃された、翼竜系UMAです。

グアンタナモ湾にある米軍基地の正式名称は、グアンタナモ湾海軍基地(Naval Station Guantanamo Bay)です。

米海軍の公式な略称として「NS Guantanamo Bay(グアンタナモ湾海軍基地)」、また一般的には「GTMO(通称:ギトモ)」とも呼ばれていることから、この名が付けられました。

― 軍事基地の空に現れた異物 ―


ギトモ・バードの最大の特徴は、その目撃場所にあります。

翼竜といえば、ジャングルの奥地や人里離れた山岳地帯など、太古の生物が生き残っていても不思議ではないような場所を想像するかもしれません。

しかし、ギトモ・バードが目撃されたのは、そうした大自然の中ではありません。

キューバ南東部にある、米軍の軍事基地です。

滑走路や兵舎、軍事施設が並ぶ人工的な空間。その上空を、絶滅したはずの翼竜に似た生物が飛んでいたというのです。

しかも、目撃は夜間や薄明の時間帯に集中しています。

― 皮膜の翼と歯のあるくちばし ―

(ランフォリンクス)
(image credit: Oleg Kuznetsov / CC-BY-SA-4.0 / Cropped)

ギトモ・バードの翼開長はおよそ1.2~3メートル。

翼は羽毛ではなく、コウモリのような皮膜状で、光を鈍く反射していたといいます。

頭部の後方には細長いトサカ状の突起を有し、くちばしの内部には、針のように細い歯が並んでいた、という非常に具体的な証言も複数存在します。

さらに特異なのが尾です。

細長い尾の先端に、菱形、あるいはスペード型のフラップがついていたと語られており、これは恐竜時代初期の翼竜、ランフォリンクス類(Rhamphorhynchus)に極めて近い特徴です。

― 少女と海兵隊員の証言 ―


最初に広く知られるきっかけとなったのは、1965年の目撃談です。

当時基地内に住んでいた少女パティ・カーソンは、弟と帰宅中、草むらから「人間ほどの大きさの翼竜」が姿を現したと証言しています。

距離はおよそ10メートル。

歯の生えた口、皮膜の翼、長い尾――その描写はとても具体的でした。

1971年には、米海兵隊員エスキン・クーンが、兵舎近くで2体の「翼竜のようなもの」が低空飛行するのを目撃しています。

彼は後にスケッチを残しており、その姿は図鑑でみる翼竜と酷似していました。

― 現生動物による誤認説 ―

(ハシジロキツツキ)
(image credit: Arthur A. Allen / CC BY 3.0 US / Cropped)

翼竜生存説はUMAでは定番、とても魅力的ですが現実的にはなかなか厳しい。

有力な誤認候補として挙げられるのは、グンカンドリやペリカンなどの大型鳥類の誤認です。

特にグンカンドリは、長い翼と二股の尾を持ち、上昇気流に乗って滑空する姿が翼竜と誤認されることがしばしばあります。

しかし、羽毛のない皮膜翼や、歯のある口といった特徴をグンカンドリで説明するのは困難です。

グンカンドリ以外では、近年絶滅したと考えられているハシジロキツツキ(Campephilus principalis)の生存説も候補に挙がります。

ハシジロキツツキはテイオウキツツキ(メキシコハシジロキツツキ / Campephilus imperialis)に次ぐ、キツツキ科最大級のキツツキです。

滅多に目にすることができない大型のキツツキなだけに、目撃者が奇妙な生物と誤認したのではないか?というものです。

ただし、サイズ(ハシジロキツツキの体長は55センチ)と飛行様式が決定的に一致しません。

― なぜ「翼竜」に見えたのか ―


さて、翼竜説が人気なのは理由があります。

もともと中南米ではUMAの正体として恐竜や、恐竜と時代を共にした翼竜や海生爬虫類が人気があり、また、キューバでも実際に白亜紀後期の翼竜化石が発見されている事実があるからです。

「化石が発見された――、ならまだ生き残っているのではないか?」

その思いが、記憶の輪郭を翼竜の形へと補正してしまったのかもしれません。

― 閉鎖空間が生んだ幻影? ―


加えて、軍事基地特有の夜間照明、監視灯、極度の緊張感。

これらが大型鳥類を、まるで別の生物のように見せたのではないか?という説もあります。

つまりは誤認――

しかし、スケッチに残されたディテールの一致率は、単なる錯覚として片付けるには少々出来過ぎています。

― 空に残る、時代錯誤の影 ―


ギトモ・バードは、本物の翼竜だったのでしょうか。

それとも、人間の記憶が生み出した「翼竜らしい幻影」だったのでしょうか。

その正体は分かりません。

しかし、もし目撃者たちが見たものが本当に翼竜だったなら、それは太古の生物が現代に迷い込んだということになります。

軍用機が飛び交い、監視灯が夜を照らす近代的な軍事基地。その空を、絶滅したはずの翼竜が飛んでいた。

現代の風景の中に、太古の生物だけが紛れ込んでいる。

そう考えると、ギトモ・バードの目撃談は、なんとも奇妙で、そして魅力的なものに思えてきます。

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2026年10月29日木曜日

中世に描かれたジェットパックを背負うネコ ~ ロケット・キャット


■中世に描かれたジェットパックを背負うネコ ~ ロケット・キャット

生身の人間でも、ジェットパックを背負えば空を飛べる時代になりました。

古くから研究はあるものの、実際に実用化されたのは1980年代。現在でも手軽なものではなく、訓練を受けなければ容易に手を出せるものではありません。

そんなジェットパックですが、ジェットパックなど思いもつかなかったであろう16世紀に、ジェットパックらしきものを背負った猫の絵が描かれています。

オカルト的な解釈をすれば、16世紀にはすでにジェットパックが開発・実用化されており、今日に至るどこかでその技術を失った――つまり、ロストテクノロジーに違いない、ということになります。

キャプションを無視し、この絵だけを切り取ってしまえば、それこそオーパーツ(OOPArts)として成り立ちます。

オーパーツとは「場違いな工芸品」(Out-Of-Place Artifacts)の略で、未確認動物学者アイヴァン・T・サンダーソン(Ivan T. Sanderson)氏による造語(オカルト用語)です。

その時代には存在するはずのない工芸品を指す言葉ですが、16世紀にジェットパックを背負った猫が描かれていたとなれば、まさにオーパーツです。

(実際のロケット・キャットの挿絵)
(image credit : Wikicommons)

― ロケット・キャットの正体 ―


では、この絵を詳しく見ていきましょう。

この絵はフランツ・ヘルム(Franz Helm)氏の著作に登場する挿絵で、この絵もフランツ氏によるものです。

フランツ・ヘルム氏はドイツ生まれの砲兵の指導・戦術家で、大砲の製作・砲術に精通しており、神聖ローマ帝国軍としてオスマン帝国と戦った経験もあります。

そして彼が遺した著作に、ジェットパックを背負った猫、通称「ロケット・キャット(Rocket Cat)」が登場します。

彼の肩書きから薄々気付いていた方もおられると思いますが、猫が背中に背負っているのは推進装置のジェットパックではありません。

その正体は焼夷装置(しょういそうち)であり、この焼夷装置を背負った猫を敵陣へ放って火災を起こさせるという、動物爆弾だったのです。

― 猫を火攻め兵器にする ―


彼のアイデアは、敵の町で猫を捕獲し、燃焼物を詰め込んだ袋を猫の背中にくくりつけるというものでした。

背中の袋に点火して猫を放します。

猫は帰巣本能によって敵陣に戻り、パニックを起こして火が燃え移りやすい納屋などに逃げ込む。

これによって大規模な火災を引き起こそうというのです。

フランツ・ヘルム氏は、なんて残酷な戦術を思いついたことでしょう。

もっとも、この戦術が実際に使われたかどうかは分かっていません。

少なくとも現時点で確認できる公的資料には、実際に試みられた記録は見当たりません。

そもそも、背中の袋に火をつけられた猫が、帰巣本能で敵陣に戻るはずだというのは、あまりに都合の良すぎる解釈です。

火をつけられた猫が敵陣に戻る保証などありません。

パニックを起こして自陣に向かってくることすら考えられます。

冷静に考えてみると、現実的な兵器だったかは甚だ疑問です。

とはいえ、フランツ氏は単なる空想家ではなく、戦術を指導する立場にあった人物です。

著作に記しただけでなく、指導の場でもこのアイデアを紹介していたかもしれません。

実際に試した兵士がいたとしても、不思議ではないでしょう。

― 16世紀の「猫兵器」は現存する ―


しかも、このロケット・キャットには、もうひとつ面白いところがあります。

フランツ・ヘルム氏の手稿『火砲の書(Book of Artillery)』は、現在もドイツのヴォルフェンビュッテルにあるアウグスト公図書館に現物が保存されています。

つまり、猫の背中に火を背負わせて敵陣へ放つという、16世紀のとんでもないアイデアを描いたページが、数百年後の現在まで実物として残っているのです。

皮肉なことに、第二次世界大戦になると、今度は猫ではなく、犬の命を犠牲にして戦車を破壊する「対戦車犬」(11/29公開予定)がソ連軍で実戦配備されました。

16世紀には猫で考えられ、数百年後には犬で実行された――人類、こういうところだけは妙に実行力があるようです。

(参照サイト)

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2026年10月28日水曜日

【未解決事件】タマム・シュッド事件 ~ ソマートン・マン(セクション3)


■74年間、誰も正体を知らなかった男 ~ ソマートンマン(セクション3)

セクション2の続き。

― 論理の男、死を詠んだ男 ―


カール・ウェッブは電気技師でした。

機械や電気を扱い、計器を製作する。

数字と構造と論理の世界です。

ところが、私生活のウェッブは、かなり違った顔を持っていました。

彼は詩を愛していました。

しかも、自ら詩を書いていました。

妻ドロシーの証言によれば、その詩の多くは「死」を題材にしていたといいます。

そして、ここで思い出されるのが、サマートン・マンのポケットに残されていた一冊の本です。

『ルバイヤート』。

その最後のページから切り取られていたのが、

「TAMÁM SHUD」

という言葉でした。

意味は、

「終わった」

です。

そして、身元がほぼ特定された男は、生前から死を題材にした詩を書いていた。

もちろん、これだけで事件の意味が説明できるわけではありません。

しかし、スパイ説や暗号説が作り上げた「謎の男」のイメージとは、かなり違います。

そこにいたのは、国家機密を握った超一流の工作員ではなく。

電気技師として働き、詩を書き、家庭では問題を抱え、精神的にも不安定になっていた、一人の男だった可能性が高い。

1946年には、ウェッブはエーテルを大量摂取して自殺を図っています。

妻は、その後も彼の性格が荒れていったことを証言しています。

1946年、妻は彼のもとから逃げました。

1947年にはウェッブは家を離れ、その後の消息が途絶えています。

こうして見ていくと、1948年のサマートン・ビーチで発見された男は、突然現れた謎の人物ではなかったのかもしれません。

その前には、すでに何年も続いていた人生があった。

ただ、それを知る者がいなかっただけです。

そして、もう一つ。

ウェッブの身元が明らかになったことで、あの「暗号」にも、思いがけない現実的な解釈が浮かび上がってきます。

― 暗号の正体は…… ―

(実際のメモの画像)
(image credit: Wikicommons/Public Domain)

サマートン・マン事件で最も有名なもの。

それは、

WRGOABABD

MLIAOI

WTBIMPANETP

MLIABO AIAQC

ITTMTSAMSTGAB

と続く、あの文字列です。

70年以上もの間、これを解読しようとする人々がいました。

スパイの暗号。

軍事情報。

一回限りの暗号鍵。

秘密結社のメッセージ。

様々な説が生まれました。

では、現代のコンピュータにこの文字列を入力すれば、何か分かるのでしょうか。

実は、そう簡単にはいきません。

暗号解読では、文字の出現頻度や並び方、繰り返されるパターンなどを分析します。

例えば、単純な換字式暗号なら、同じ文字がどの程度の頻度で現れるか、どのような文字列が繰り返されているかといった特徴が手がかりになります。

しかし、このメモは全部でわずか50文字。

通常の文章を暗号化したものなのか、単語や固有名詞の頭文字を並べたものなのか、それすら分かりません。

暗号の方式も、解読に必要な鍵も不明です。

コンピュータは膨大な組み合わせを試すことはできますが、そもそも何を探せば正解なのか分からなければ、答えを一つに絞ることはできません。

では、何の予備知識もなく、この文字列だけを見せられたら、何を推理するでしょうか。

まず考えたいのは、これが何かの長い文章から切り取られた一部分なのか、それとも、この文字列自体で意味を持つものなのかという点です。

仮に後者だとすれば、自分なら、何らかの単語や固有名詞の頭文字を並べたものではないかと推測します。

なぜなら、50文字では意味のある文章を構成するには短すぎますが、それぞれが単語の頭文字だとすれば、50個の単語からなる記録として読むことができるからです。

人名、地名、商品名、あるいは何かのリスト――。

個々の文字が、それぞれ別の単語や名前を表しているのかもしれません。

もちろん、普通の文章を暗号化したものという見方もできます。しかし、文字列だけでは、どちらなのか判断できません。

つまり、これは暗号解読というより、何かの記録を探し出すための手がかりに近いのかもしれません。

しかし、その記録が何なのか、文字列だけから突き止めるのは困難です。

やはり解読は不可能なのか――。

ところが、カール・ウェッブという男の人生を調べていくと、この文字列を読み解くための意外な手がかりが浮かび上がってきます。

― 暗号の正体は…… ―


彼は――

競馬が好きだった。

そして、賭け事も好んでいた。

これは単なる後世の推測ではありません。

2022年にウェッブの身元が調査された際、当時の離婚関連の法的文書なども詳しく調べられ、その中に彼が競馬や賭け事を好んでいたことを示す記述が見つかっています。

すると、あの文字列が急に現実的なものに見えてきます。

競走馬の名前。

賭けの組み合わせ。

自分だけが理解できる略号。

そして、ここで浮上するのが、アボット教授らが提示した一つの仮説です。

あの50文字は、競走馬の名前の頭文字を並べたものではないか。

つまり、誰もがスパイの暗号や軍事機密を疑っていた文字列が、実は競馬に関する個人的なメモだったのではないか、というのです。

そんな、あまりにも拍子抜けする結末です。

しかし、その方がこの事件には不気味さがあるかもしれません。

国家機密ではない。

ソ連のスパイでもない。

秘密組織から送られた暗号でもない。

一人の男が、自分にしか意味の分からない文字を、本の裏表紙に書き残していただけ。

そして、それを70年以上後の人間が、

「何か重大な意味があるはずだ」

と必死になって解読していた。

それは、死者が残した謎というより、

生きている人間が勝手に謎を作り上げてしまった

ともいえるからです。

― タマム・シュッドという「終幕」 ―


こうして事件を最初から振り返ると、サマートン・マン事件は、少しずつ違う姿へ変わっていきます。

1948年。

海岸で死んでいた、名前のない男。

ポケットに残された、

「終わった」

という一片の紙。

その紙を切り取った『ルバイヤート』。

裏表紙に残された意味不明の文字列。

電話番号。

動揺した看護師。

謎の石膏マスク。

スパイ説。

暗号説。

そして74年後。

そこから浮かび上がったのは、

カール・チャールズ・ウェッブ

という一人の男でした。

電気技師。

計器製作者。

詩人。

競馬好き。

そして、人生の中で精神的に大きく追い詰められていた人物。

もちろん、死亡原因についてはまだ完全に決着したわけではありません。

研究者側からは、過去の自殺未遂や精神状態、解剖結果などから、自ら毒物を摂取して死亡した可能性が指摘されています。

しかし、当時の検査で決定的な毒物が確認されていない以上、死の真相までは分かっていません。

それでも、74年前には名前すら分からなかった男の人生が、少しずつ具体的な姿を見せ始めたことは確かです。

そして最後に残るのが、あの言葉です。

TAMÁM SHUD――

「終わった」

かつては、これは何者かへの暗号なのではないかと考えられました。

殺人者からのメッセージなのか。

スパイの最後の通信なのか。

死を予告する秘密の言葉なのか。

しかし、もしそこにいたのがカール・ウェッブだったとすれば。

詩を愛し、死について詩を書き、ギャンブルを好み、家庭を失い、最後には誰にも知られない場所で死んだ一人の男だったとすれば。

この言葉は、もっと単純なものだったのかもしれません。

「終わった」

国家も、暗号も、スパイも必要ない。

一人の人間の人生が、そこで終わった。

そして、その人生を知らなかった私たちが、残された断片から巨大な物語を作り上げていたのです。

そう考えると、この事件で最も不気味なのは、最後まで解けなかった暗号ではありません。

74年もの間、世界中の人間が探し続けていた「謎の男」が、少しずつ生身の人間へと近づいていったことです。

海岸で発見されたあの日。

彼は何を考えていたのか。

なぜアデレードへ来たのか。

なぜ『ルバイヤート』を持っていたのか。

そして、あの文字列に何を書いたのか。

それらすべてが解明されたわけではありません。

けれど、彼にはもう、「サマートン・マン」という仮の呼び名ではない、本当の名前があります。

カール・チャールズ・ウェッブ。

1948年12月1日。

サマートン・ビーチで、一人の男の人生が終わりました。

そして74年後。

ようやく、その男の名前が戻ってきたのです。

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2026年10月27日火曜日

【未解決事件】タマム・シュッド事件 ~ ソマートン・マン(セクション2)


■74年間、誰も正体を知らなかった男 ~ ソマートンマン(セクション2)

セクション1の続き。

― 看護師の動揺 ―


女性の名前はジェシカ・トムソン(Jessica Thomson)。

事件当時、彼女は看護師として働いていました。

警察は彼女にサマートン・マンの写真を見せます。

しかし彼女は、男を知らないと答えました。

ところが、警察が男の顔を再現した石膏製のデスマスクを見せた時。

彼女の反応が変わります。

男の顔を見た瞬間、彼女は強い動揺を示したといわれています。

そして、二度とそのマスクを見ようとはしなかったと。

なぜ、そこまで動揺したのか。

この不可解な反応は、後世の研究者や事件を追う人々の関心を引き続けることになります。

さらに奇妙だったのは、ジェシカ・トムソンと『ルバイヤート』との関係です。

彼女はかつて、この本を所有していました。

そして1945年頃、アルフ・ボクソール(Alf Boxall)という陸軍中尉に同じ本を渡していたことが分かっています。

しかし、後に発見されたボクソールの本には、最後の「Tamám Shud」のページがそのまま残っていました。

つまり、サマートン・マンの紙片は、ジェシカがボクソールに渡した本から切り取られたものではなかったのです。

そして後年、さらに奇妙な一致が発見されます。

ジェシカの息子ロビン(Robin)。

彼の耳の形には、サマートン・マンと非常によく似た特徴がありました。

さらに、上側の前歯2本が先天的に欠損しているという特徴まで一致していたのです。

この2つの特徴は、どちらも一般的なものではありません。

そこから、

「ロビンはサマートン・マンの息子なのではないか」

という疑惑が生まれました。

もしそうなら、サマートン・マンはジェシカの恋人だったのか。

ロビンは彼の隠し子だったのか。

そして、ジェシカは男の正体を知っていたのか。

事件は一気に、スパイ事件から男女関係をめぐる奇妙な物語へ変わっていきます。

さらに、この話には現実とは思えないような後日談があります。

この仮説を調査していたアデレード大学のデレク・アボット教授は、ロビンの娘レイチェル・イーガン(Rachel Egan)と接触。

その後、2人は結婚しました。

アボット教授自身が、この事件を追う過程で「サマートン・マンの孫かもしれない女性」と家族になったわけです。

まるで小説の設定です。

しかし、ここから物語はさらに現実的な方向へ進んでいきます。

― 74年目の現実 ―


2000年代以降、この事件を本格的に再調査した人物の一人が、デレク・アボット(Derek Abbott)教授でした。

彼が注目したのは、古い写真だけではありません。

事件当時に作られた、サマートン・マンの石膏製デスマスク。

そこには、数十年を経てもなお、数本の毛髪が残されていました。

2017年、アボット教授はデスマスクからDNAを抽出できる可能性のある毛髪を発見します。

2018年には、その毛髪からミトコンドリアDNAの解析が行われ、ヨーロッパ人の約1%に見られるハプログループに属することが確認されました。

しかし、これだけでは名前までは分かりません。

そこで登場したのが、遺伝子系譜学でした。

DNAの一致から遠い親族を探し出し、そこから家系図を逆算していく。

それは、70年以上前に身元を消された死者を、現代のDNAデータから少しずつ生きた人間の世界へ戻していく作業でした。

そして2022年。

アボット教授と法医学系譜学者コリーン・フィッツパトリック(Colleen Fitzpatrick)は、サマートン・マンの正体として一人の男性の名前を発表します。

カール・チャールズ・ウェッブ(Carl "Charles" Webb)。

1905年11月16日生まれ。

メルボルン近郊フッツクレー出身。

電気技師であり、計器製作者だった男性です。

DNAから父方、母方それぞれの遠縁の親族を辿っていくと、ウェッブという人物へと繋がっていった。

しかも、ウェッブには1947年以降の行方を示す明確な記録がありませんでした。

そして、彼がその後に死亡したことを示す記録も見つかりません。

「消えた男」

その条件が、サマートン・マンと重なったのです。

さらに、後に発見された写真とサマートン・マンの顔立ちも一致しました。

アボット教授は、未知の一卵性双生児でも存在しない限り、合理的な疑いを差し挟む余地はほとんどないという趣旨の見解を示しています。

もちろん、ここには一つ注意点があります。

2022年の段階で、南オーストラリア州警察はこの身元特定を正式に確定したわけではありません。

法的な意味での最終判断は、研究者の発表とは別の手続きになります。

しかし、事件を記事として扱うなら、

「カール・ウェッブという説がある」

という程度に弱めてしまうのも、現在の状況とは少し違います。

現代の科学捜査と遺伝子系譜学によって、

「サマートン・マン = カール・チャールズ・ウェッブ」

という結論は、極めて強く支持されています。

ただ、公式記録の上では、まだ最後のページが開かれたままなのです。

そして、ここからが、この事件で一番興味深いところです。

ウェッブという男の人生を調べると、あの不可解な文字列まで別の姿を見せ始めます。

セクション3へ続く。

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2026年10月26日月曜日

【未解決事件】タマム・シュッド事件 ~ ソマートン・マン(セクション1)


■74年間、誰も正体を知らなかった男 ~ ソマートンマン(セクション1)

今回はタマム・シュッド事件(Tamám Shud Case)。

1948年、オーストラリア・アデレードの海岸で、一人の男が死体となって発見されました。

身分証はない。

財布もない。

衣服のタグは切り取られ、男が誰なのかを示すものは何一つ残されていませんでした。

そして、その男のポケットから見つかったのは、「終わった」という意味を持つ一枚の紙片。

さらに、その紙片を切り取った詩集の裏側には、誰にも解読できない文字列が残されていました。

この事件はやがて、スパイ、暗号、毒殺、謎の女、国家機密といった様々な物語をまといながら、世界で最も有名な未解決事件の一つになっていきます。

しかし74年後。

その『謎の男』の正体をめぐり、ある一人の人物にスポットライトが当たることになります。

― 浜辺の遺体 ―

(ソマートン・マン)
(image credit: Wikicommons/Public Domain)

1948年12月1日。

オーストラリア南部、アデレード近郊のソマートン・パーク・ビーチ(Somerton Park beach)。

早朝、海岸を通りかかった人々が、防波堤のそばに座っている一人の男を見つけました。

男は壁にもたれかかり、両脚を伸ばしていました。

頭は少し傾き、腕は自然に落ちています。

まるで、海を眺めているうちに、いつしか眠りに落ちてしまったかのようにも見えました。

しかし、男は死んでいました。

前夜にも、同じ場所で男の姿を見た人がいました。

午後7時頃。

近くにいた人物は、男が右腕を動かした後、そのまま動かなくなったと証言しています。

それでも、誰も「死体」だとは思いませんでした。

夜の海岸で、酔った人間が眠っている。

その程度にしか見えなかったのです。

翌朝、警察が現場に到着します。

そこで、前夜から眠っているように見えた男が、すでに死んでいたことが確認されたのです。

男は身長約180cm。

年齢は40~45歳ほど。

身体は鍛えられており、肩幅が広く、腰は細い。

少なくとも、ひどく衰弱しているようには見えませんでした。

むしろ、身体的には非常に良好な男性に見えました。

ところが、身元を調べようとした瞬間から、この事件は奇妙な方向へ進み始めます。

財布がない。

身分証がない。

所持品から名前を特定できない。

衣服についていたメーカーなどのタグも、意図的に切り取られていました。

男は、自分が誰なのかを示すものをほとんど残していなかったのです。

しかも、靴には砂浜を長時間歩き回ったような汚れがほとんどありませんでした。

そのため、捜査官の間では、男が別の場所で死亡した後、誰かによって海岸まで運ばれたのではないかという可能性も考えられました。

さらに、解剖結果が問題を複雑にします。

男の脾臓は異常なほど腫れ上がっていました。

胃には血液があり、毒物による死亡の可能性も疑われました。

ところが、当時の検査では決定的な毒物を検出できません。

外傷も、明確な殺人の痕跡もありません。

つまり、

「死んでいることは確か」

なのに、

「なぜ死んだのか」

が分からない。

そして何より、

「誰なのか」

が分からない。

こうして、男は新聞などで「ソマートン・マン(Somerton Man)」と呼ばれるようになります。

名前のない死体。

それが、この事件の始まりでした。

― 「終わった」という肉声 ―


捜査官が男の衣服を詳しく調べると、ズボンのポケットに小さな隠しポケットがあることが分かりました。

その中には、紙切れが一枚だけ入っていました。

紙には、

TAMÁM SHUD (タマム・シュッド / タマーム・シュッド)

と印刷されています。

これはペルシア語で「終わった」「完了した」という意味の言葉でした。

なぜ、死体のポケットにこんな言葉が入っていたのか。

そもそも、誰が何のために持っていたのか。

警察は、この紙片が本の一部ではないかと考えます。

そして調査の結果、ある詩集へと辿り着きました。

英国の詩人、エドワード・フィッツジェラルド(Edward FitzGerald)による『ルバイヤート』。

紙片は、その本の最終ページから切り取られたものだったのです。

「終わった」

死体のポケットから出てきた最後の言葉。

それだけなら、自殺を暗示する単純なメッセージだったのかもしれません。

しかし、事件はここで終わりませんでした。

警察は、紙片を切り取られた『ルバイヤート』の本そのものを探し始めます。

そして、ついに一冊の本が発見されました。

その本の裏側には、鉛筆で書かれた奇妙な文字列が残されていたのです。

― 破られた詩集と暗号 ―

(実際のメモの画像)
(image credit: Wikicommons/Public Domain)

本の裏表紙には、アルファベットが5行にわたって並んでいました。

WRGOABABD

MLIAOI

WTBIMPANETP

MLIABO AIAQC

ITTMTSAMSTGAB

文章ではありません。

少なくとも、普通の英語として読むことはできません。

しかし、完全なランダムとも思えない――

同じ文字が何度も登場し、一定のパターンを持っています。

まるで何かの規則に従って書かれているようでした。

当然、最初に疑われたのは暗号です。

しかも時代が時代でした。

第二次世界大戦が終わってから、まだ3年しか経っていません。

世界は冷戦へ向かいつつあり、オーストラリアも軍事・諜報活動と無縁ではありませんでした。

そのため、

「この男はスパイだったのではないか」

「文字列は暗号なのではないか」

「何者かから指令を受けていたのではないか」

という説が生まれていきます。

後には、オーストラリアとイギリスが共同で運用していたウーメラのミサイル実験場と結びつける噂まで現れました。

しかし、決定的な証拠はありません。

暗号の専門家が文字列を調べても、確実な答えには辿り着けませんでした。

短すぎるのです。

これだけの文字数では、どのような暗号方式が使われたのかを特定することが極めて難しい。

何らかの暗号なのか。

単なる略語なのか。

あるいは本人にしか意味の分からない記録なのか。

その正体は、70年以上にわたって分かりませんでした。

そして、この本にはもう一つの手掛かりがありました。

電話番号です。

それを辿った先にいたのが、一人の女性でした。

セクション2へ続く。

UMA探しの旅は終わらない (国内外1000体以上のUMAが待っています)


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2026年10月25日日曜日

国境の農場に現れた白いプレデター ~ フアレス・クリーチャー (エル・セル・デル・バジェ・デ・フアレス)

(image credit: NetNoticias.mx / Cropped)

■国境の農場に現れた白い捕食者 ~ フアレス・クリーチャー (エル・セル・デル・バジェ・デ・フアレス)

今回は、メキシコ北部のフアレス渓谷(Valle de Juárez)で目撃された謎の生物、エル・セル・デル・バジェ・デ・フアレス(「フアレス渓谷の存在」の意, El Ser del Valle de Juárez)。

英語圏ではバレー・オブ・フアレス・クリーチャー(The Valley of Juárez Creature)や、フアレス・バレー・プレデター(The Juárez Valley Predator)とも呼ばれます。

いずれにしても日本人にとっては長すぎるので、シンプルにフアレス・クリーチャー(Juárez Creature)と呼ぶことにしましょう。

全身が白く、手足の長い人型の生物で、夜な夜な農場に現れては家畜を襲うという、まるで映画の怪物のような存在です。

その姿は『ストレンジャー・シングス』のデモゴルゴンにも似ており、現地では新たなチュパカブラ(ニュー・チュバカブラと呼ばれる場合も)の出現ではないかと騒がれています。

― 監視カメラが捉えた白い怪物 ―

(image credit: NetNoticias.mx / Cropped)

この生物が大きく注目されたのは、つい先日の2026年10月。

メキシコの著名なUFO研究家、ハイメ・マウサン(Jaime Maussan)氏のチームが、フアレス渓谷で撮影されたトレイルカメラの映像を公開したことがきっかけでした。

そこに映っていたのは、全身が白っぽく、毛のない奇妙な生物。

体長は約1.8メートルといわれ、その半分近くを非常に長い尻尾が占めています。

頭部は人間とも大型のトカゲともつかない形状で、胴体に比べて手足が長く、皮膚は爬虫類を思わせる質感をしています。

その姿だけでも十分に不気味ですが、さらに奇妙なのは移動方法です。

地面を四足で這うだけでなく、時には人間のように二本足で直立して歩き、レンガ造りの壁を垂直に登ったり、木から滑るように降りたりする姿も目撃されています。

― 夜の農場を襲う貪欲な捕食者 ―

(image credit: NetNoticias.mx / Cropped)

地元の農民たちによれば、この生物は夜間に農場へ侵入し、ニワトリや七面鳥、ウサギなどを襲っているといいます。

その食欲は凄まじく、一晩で20~30羽もの家禽を襲ったという話まであります。

しかも、単純に獲物を食い荒らすのではなく、血を吸うかのように家畜を襲うというのです。

この特徴から、海外では早くも新たなチュパカブラではないかという声が上がっています。

チュパカブラといえば、1990年代にプエルトリコで家畜の血を吸う怪物として話題になり、その後は中南米からアメリカ南部にまで目撃情報が広がったUMAです。

今回の生物も、家畜を襲うこと、毛のない不気味な外見という点では、確かにチュパカブラを連想させます。

ただし、今回の怪物には、もうひとつ興味深い仮説が存在します。

― あのメテペック・クリーチャーの成体なのか ―

(メテペック・クリーチャー)

 (image credit: Cryptid Wiki / Cropped)

マウサン氏は、この生物の姿が2007年にメキシコ中部のメテペックで話題になった謎の生命体、メテペック・クリーチャー(Creature of Metepec / El Ser de Metepec)に酷似していると指摘しています。

実は、このメテペック・クリーチャーもマウサン氏が関わった有名な騒動でした。

当時、農場で捕獲されたという小型のエイリアンのような生物が公開され、大きな話題を呼びました。

ところが後年、その正体はリスザルの仲間(Saimiri)、もしくはキイロミミマーモセット(Callithrix aurita)の皮を剥いで加工したものだったことが判明。世紀の発見どころか、かなり悪質な偽物だったのです。

それにもかかわらず、マウサン氏は今回のフアレス渓谷の生物について、あのメテペック・クリーチャーの成体ではないかという仮説を披露しています。

つまり、2007年に発見された個体は赤ん坊であり、今回のものは成長した姿だというのです。

もっとも、メテペック・クリーチャーの正体が判明している以上、なかなか大胆な説ではあります。

― 異次元からやってきたハンター ―


さらにマウサン氏は、この生物が「地球外の生命体」である可能性についても言及しています。

ただし、遠い宇宙からUFOに乗ってやってきたという、一般的なエイリアン像とは少し違うようです。

彼の見解では、この生物は「我々の世界(地球)とまったく同じ空間に重なって存在する、別次元(パラレルワールド)の住人」なのだそうです。

つまり、ふだんは目に見えない次元の壁の向こう側にいる生物が、何らかの理由でこちらの世界へ迷い込み、夜な夜な家畜を襲っているのではないか、という説です。

なんともSFチックで壮大な話ですが、UFO研究家のマウサン氏にしてみれば、あの不気味な映像の正体を説明するには「私たちの常識が通じない別次元のハンター」とするのが一番しっくりくるのかもしれません。

― 行政機関は被害を把握していない ―


オカルト界やSNSでは大きな話題になっていますが、現地の行政機関や警察の反応は実に冷ややかなものでした。

フアレスの市民保護局(Civil Protection)は、家畜が謎の生物に襲われたという被害報告も、不気味な生物を目撃したという正式な通報も、一切受けていないと発表しています。

さらに、国境を挟んだアメリカ側のテキサス州エルパソ警察も、不審な生物や家畜の不審死に関する報告は確認していないとしています。

つまり、農場を襲う怪物の存在を裏付ける公的な記録は、現在のところ見つかっていないのです。

専門家や野生動物の関係者からも、映像に映った生物を未知の動物と判断するには材料が乏しく、既知の野生動物の誤認や映像加工の可能性が指摘されています。

映像のインパクトに対して、肝心の被害実態が追いついていない。どうやら、今回の騒動は少々先走っているようです。

― 正体は毛の抜けた動物なのか ―

(アカハナグマ)
(image credit: Richard Hatakeyama / CC BY-SA 4.0 / Cropped)

一方、現実的な見方をすれば、今回の生物にはいくつかの候補が考えられます。

まず有力なのが、重度の疥癬(かいせん)に感染した既知の野生生物です。

疥癬はダニの寄生によって皮膚に炎症を起こす病気で、重症化すると全身の毛が抜け落ちてしまいます。

痩せ細った体に露出した皮膚、骨格が浮き出た手足。こうした姿は、夜間の赤外線カメラで撮影すると、さらに奇妙に映ることがあります。

完全に毛が抜けてしまうと、見慣れているはずの動物とはかけ離れた姿に変貌してしまうことから、UMA騒ぎに発展することは茶飯事です。

体長や、そのシルエットからフアレス・クリーチャーが、仮に既知の野生動物が正体であったとするなら、コヨーテ(Canis latrans)、アカハナグマ(Nasua nasua)が有力です。

特に、低い姿勢、小さな耳のシルエット、垂直の障害物を登ることができる、といった特徴を考慮すると、後者のアカハナグマに軍配が上がります。

細長い体に非常に長い尻尾を持ち、木登りが得意な動物です。後ろ足で立ち上がることもあり、暗闇の中でその姿を見れば、人型の怪物と誤認する余地はあります。

そして、もうひとつ無視できないのが映像そのものの問題です。

公開されたトレイルカメラの映像は解像度が低く、細部を確認するのが困難です。

さらにCGによる加工や、白い衣装を着た人間による悪戯という可能性も指摘されています。

現時点では、農場を襲う未知の捕食者が本当に存在するのかというところから、検証が必要な状況です。

それでも、2007年のメテペック・クリーチャーを赤ん坊とするなら、今回のフアレス渓谷の生物は実に19年ぶりの成長報告ということになります。

あのときの赤ん坊は、ずいぶんと大きくなったものです。

(参照サイト)

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