■淡水に生息する頭足類か? ~ ウィラメットバレー・スクーカム
今回は、ウィラメットバレー・スクーカム(Willamette Valley Skookum)。
旧サイトでは、スクーカム(Skookum)には大きく分けて二つのタイプが存在すると説明しました。
ひとつはビッグフットのような獣人タイプ、そしてもうひとつが、湖や河川などに生息するとされる水棲生物タイプです。
全く異なるタイプの生物が、なぜ同じ「スクーカム」と呼ばれているのでしょうか。
実は、これには理由があります。
もともと「Skookum」は特定のUMAを指す固有名詞ではなく、ノースウエストの先住民族の言葉に由来し、「強い」「巨大な」「怪物」「悪霊」など、かなり広い意味を持つ言葉です。
そのため、特定の生物の名前というよりも、UMA・パラノーマル的な存在や現象を形容する言葉として使われている場合のほうがむしろ一般的です。
つまり、「スクーカム」という名称だけでは、それが獣人なのか、水棲生物なのかを判断することができません。
この二つは非常に混同されやすいため、本サイトでは今回紹介する水棲タイプをウィラメットバレー・スクーカム、そしてビッグフットタイプをセントヘレンズ・スクーカム(Mount St. Helens Skookum)(11月29日に公開予定)と呼び分けることにします。
― 淡水に生息する頭足類 ―
頭足類のUMAは非常に多いですが、そんなUMAの世界でも、淡水の頭足類系のUMAは多くはありません。
なんでもありのUMA界ですら、淡水での頭足類は非常に敷居の高い存在となっていることが分かります。
では、なぜ頭足類はこれほどまでに淡水へ進出しにくいのでしょうか。
― なぜ頭足類は淡水へ進出しなかったのか ―
ここで興味深いのが、このUMAの「生物学的な可能性」です。
地球上に頭足類が登場してから約5億年の歴史において、イカ・タコ・アンモナイトの仲間が淡水環境、つまり川や湖へ完全に適応し、そこに定着したことは一度も確認されていません。
化石記録を見ても、完全に淡水で暮らしていたと考えられる頭足類は知られておらず、現生種も基本的には海洋生物です。
同じ軟体動物の仲間であるシジミやドブガイ、カタツムリなどが淡水や陸上へ大きく進出しているのに対し、知能も運動能力も高い頭足類が、なぜ淡水へ進出できなかったのか。
その理由として、まず大きな壁となるのが「浸透圧」です。
頭足類は海水に適応した身体の仕組みを持っているため、淡水に入れば体内と外界との浸透圧の差によって大量の水が体内へ入り込み、正常な生命活動を維持することが困難になります。
さらに、卵や幼生も海洋環境に適応しているため、成体だけでなく繁殖や発生過程まで含めて淡水に対応する必要があります。
古代の頭足類が持っていた殻を失い、現在のイカやタコが高い運動能力を獲得したことも、こうした環境適応を考えるうえで興味深い点です。
いずれにしても、頭足類にとって淡水は、単に「海とは違う場所」ではありません。
約5億年の進化史の中で、いまだに本格的な進出を果たせていない領域なのです。(今後淡水性の頭足類の化石・現生種が発見されないとは言い切れませんが)
だからこそ、もしウィラメットバレー・スクーカムが本当に淡水で暮らす頭足類だったとすれば、それは単なる「珍しいタコ」ではありません。
現在知られている頭足類の進化史そのものに、一石を投じる存在ということになります。
― ウィラメットバレー・スクーカム ―
さてさて前置きが長くなってしまいました。
それではウィラメットバレー・スクーカムを見ていきましょう。
このUMAについては、驚くほど情報が残されていません。
海外の未確認生物データベースなどを探しても、具体的な目撃証言として確認できるのは、ほぼ一件のみです。
舞台となったのは、オレゴン州ウィラメットバレーにある、とある湖。
ただし、その湖の具体的な名称すら分かりません。
ウィラメットバレーは広大な地域ですが、平野部には大きな自然湖がそれほど多くなく、川の流れが取り残されてできた三日月湖や湿地帯などが点在しています。
実は、オレゴン州には「スクーカム湖(Skookum Lake)」という名前の湖も実在します。マウント・フッド周辺の山岳地帯にある湖で、ウィラメットバレーの東側に位置しています。
もちろん、今回の目撃場所がこの湖だったというわけではありません。
前述した通り、「スクーカム」という単語は先住民族によって広義に使われていた名詞・形容詞であるため、怪物とは無関係に湖の名称に使われることはなんら不思議なことではないからです。
ただ、UMAの名前と同じ湖が実在するというのは、それだけでもなかなか興味深いところです。
ウィラメットバレー・スクーカムが目撃された湖の名前は、もともと記録されていないか、あるいは途中で記録から失われてしまったようです。
そんな正体不明の湖で、一人の男性が奇妙な水生生物を目撃しました。これがウィラメットバレー・スクーカムです。
そしてその姿は、一般的な「タコ」からはかなりかけ離れたものでした――
― オレンジ色の空気袋と2本の触手 ―
(頭足類ではなく腹足類だった?)
目撃者が見たのは、オレンジ色をした胴体を持つ生物でした。
その身体は通常の動物のような筋肉質のものではなく、まるで「空気袋(air-sack)」のような質感だったといいます。
そして、その身体から伸びていたのが、2本の長く細い黒い触手です。
つまり、証言だけを素直に図式化すれば、オレンジ色の袋状の身体に、2本の黒い触手が伸びている。それが、この奇妙な生物のほぼすべての情報です。
触手がどれほど長かったのか、身体の大きさはどの程度だったのか、泳いでいたのか水底にいたのか、あるいは目や口があったのか。
そうした基本的な情報すら残されていません。
それでも、この外見から海外のUMA研究者たちは、いくつかの可能性を考えています。
もっとも単純なのは、その「長い触手」に注目し、淡水性の未知の頭足類と考えるものです。
確かに、タコやイカのような頭足類は水中生活に適応した軟体動物であり、奇妙な水生生物の正体としてはイメージしやすい存在でしょう。
しかし、今回の証言を改めて見ると、頭足類と判断するには少々材料が足りません。
タコには8本、イカには10本の腕や触腕がありますが、目撃されたのはわずか2本の細長い突起だけです。もちろん、ほかの腕が見えていなかった可能性もありますが、頭部の形状や吸盤の有無など、頭足類を裏付ける特徴は何も記録されていません。
むしろ、同じ軟体動物の仲間で考えるなら、カタツムリやナメクジといった腹足類のほうが、外見上の特徴には近いかもしれません。
腹足類には頭部から2本の触角を伸ばす種類が多く、長い突起を持つという点では、今回の証言とも共通しています。
もちろん、陸上生活に適応したナメクジのような生物が、そのまま巨大化して淡水に進出したと考えるのも大きな飛躍です。
しかし、少なくとも「2本の突起を持つ袋状の軟体動物」という外見だけを見れば、未知のタコを想像するよりも、巨大な水生ナメクジを想像するほうが自然ではないでしょうか。
いずれにしても、具体的な証拠があるわけではありません。わずか一件の目撃証言から、これだけ想像を広げるしかないこと自体が、このUMAの情報の少なさを物語っています。
― なぜ「幻のUMA」になったのか ―
それにしても、なぜウィラメットバレー・スクーカムについては、これほどまでに情報が少ないのでしょうか。
その理由のひとつとして考えられるのが、「スクーカム」という名称の混同です。
2000年、ワシントン州でサスクワッチのものとされた泥の石膏型、「スクーカム・キャスト(Skookum Cast)」が発見されました。
この出来事によって「スクーカム」という名称はUMAメディアで広く知られるようになり、現在では「スクーカム」といえば、ビッグフット系の存在を連想する人が圧倒的です。
そのため、今回のような水棲タイプのスクーカムは、名前そのものが別系統のUMAと混同され、情報の中に埋もれてしまった可能性があります。
もうひとつ考えられるのが、地域の伝承そのものが失われていったことです。
ウィラメットバレー周辺で使われていたチヌーク・ジャーゴンや先住民の言語は、19世紀以降の入植や同化政策などによって急速に衰退しました。
もし水辺の怪物について、より具体的な伝承や呼び名が存在していたとしても、それを記録する機会が失われていった可能性があります。
そう考えると、現在残されている「オレンジ色の空気袋」と「2本の黒い触手」という奇妙な証言は、かつて存在したかもしれない水辺の怪物伝承の、ごく断片だけが現代まで漂着したものなのかもしれません。
約5億年もの間、海から出ることのなかった頭足類が、実はオレゴンの湖でひっそりと独自の進化を遂げていた。あるいは、巨大な腹足類が水底を這い回っていた。
そんな生物が本当にいたのなら、たった一人の目撃証言だけで忘れ去られてしまうには、あまりにも惜しい話です。


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