■2分だけ先に現れた「ルーシー」 ~ 現実は読み込み中だったのか
今回はグリッチ・イン・ザ・マトリックス。
グリッチ・イン・ザ・マトリックスとは、この「現実」と思って暮らしている世界が、実は何らかの情報処理の上に成立しており、ときにその読み込み順序が狂うことで、説明のつかない現象が起きるのではないかという仮説です。
これは偶然の話かもしれません。
しかし私には、そう片付けられない違和感が残っています。
― バス停での待ち時間 ―
一年前の夜でした。
私は買い物を終え、郊外のバス停で帰りのバスを待っていました。
周囲にはほとんど人がいません。
街灯も少なく、時間はすでに22時を回っていました。
静かで、少しだけ不気味な空気でした。
スマートフォンを見て時間を潰していると、遠くの角から一人の女性が歩いてくるのが見えました。
距離はおよそ50メートル。
最初に目に入った瞬間、私は思わず息を止めました。
その横顔が、4年以上会っていない中学時代の友人にそっくりだったからです。
ルーシー、と呼んでいた友人です。
一瞬、確信に近い感覚がありました。
「まさか」
そう思いながら見続けていました。
しかし距離が近づくにつれて、違和感が増えていきます。
髪型も違う。
歩き方も違う。
服装も記憶の彼女とは一致しない。
私は自分の勘違いだと判断しました。
その女性はそのままバス停を通り過ぎ、何も起きませんでした。
私は少しだけ安心し、再び待ち時間に意識を戻しました。
― 2分後に現れた「本物」 ―
それから僅か数分後のことです。
同じ角から、もう一人の女性が現れました。
今度は一目で分かりました。
中学時代のルーシーその人でした。
4年以上前の記憶と一致する姿で、こちらへ歩いてきます。
私は呆然として見ていました。
さっきの女性とは明らかに別人です。
しかし、奇妙なことが起きました。
ルーシーが私の横を通り過ぎる瞬間、彼女は小さく首を傾げたのです。
まるで、何かを思い出そうとしているような表情でした。
そして彼女は、すれ違いざまにこう言いました。
「……ねえ。」
私は振り返ります。
彼女は少し困ったように笑っていました。
「変なこと聞くけど。」
「さっき、ここで私を見なかった?」
私は答えられませんでした。
見た。
確かに見た。
しかしそれは彼女ではなかったはずです。
― 記憶のズレ ―
その後の会話はほとんど覚えていません。
ただ一つだけ、はっきり残っている言葉があります。
ルーシーが去り際に言った一言です。
「私もね。」
「来る途中で、あなたに似た人を見た気がする。」
私は冗談だと思いました。
しかし、その言葉が妙に引っかかっていました。
― もう一人の女性 ―
後日、私はその日のことを思い返していました。
最初に見た女性。
ルーシーに似ていたが、別人だった女性。
その存在だけがどうしても説明できません。
顔は違うのに、なぜか「ルーシーだ」と認識してしまった感覚。
そして、その認識が、わずか数分後に現実によって上書きされたような感覚。
まるで現実が、遠くから順番に読み込まれているようでした。
低解像度の影が先に表示され、その後に本体が確定するように。
― 考察 ―
もしあの時見たものを整理するなら、こうなります。
最初の女性は「誤認」だった。
数分後に現れたルーシーが「正しい現実」だった。
しかし、それでは説明できない点があります。
なぜ私は最初の女性を、あれほど強くルーシーだと感じたのか。
なぜルーシー自身が、同じ時間帯に「私に見られた気がする」と語ったのか。
現実は常に一つのはずです。
しかしあの夜だけは、まるで二つの現実が数分だけずれて存在していたように感じました。
今でもバス停を見るたびに思い出します。
もしあの時、最初に見た「ルーシーではないルーシー」が本物だったとしたら。
その後に現れた彼女は、一体何だったのでしょうか。
あるいは――
私たちが見ている現実のほうが、いつもほんの少し遅れているだけなのかもしれません。
(参考・参照サイト)
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