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2026年7月31日金曜日

雪男の影が湿地を歩く ~ アボミナブル・スワンプ・スロブ


■雪男の影が湿地を歩く ~ アボミナブル・スワンプ・スロブ

今回はアボミナブル・スワンプ・スロブ(Abominable Swamp Slob)。

ヒマラヤの雪男 (イエティ / Yeti) を英語圏では「アボミナブル・スノーマン(Abominable Snowman)」と呼ばれますが、それををもじった名称です。

ややふざけた略称とは裏腹に、この存在はアメリカの湿地帯を中心に、長年まじめに語られてきた獣人系UMAの一種、いわゆるスカンクエイプの地域変種と考えられています。

― 湿地に棲む、もう一つのビッグフット ―


アボミナブル・スワンプ・スロブは、主に川や沼に隣接した森林地帯で目撃されます。

行動は夜行性で、昼間は湿地の奥深くに潜んでいるとされます。

身長の報告は非常に幅があり、低いもので約135センチ、高いものでは360センチ近いという極端な証言も存在します。

体表は暗褐色から黒に近い体毛で覆われ、湿った苔や泥が絡みつき、不潔で重たい印象を与えると語られます。

その姿はビッグフットに酷似していますが、より痩せ、肩幅が狭く、腕が不自然に長いとされる点が特徴です。

湿地に適応した存在であるかのように、足裏は広く、水を含んだ地面でも沈みにくいと証言されることがあります。

― 耳を裂く叫びと、人を追う影 ―


このUMAで特に恐れられているのが、その鳴き声です。

目撃者は一様に「神経を破壊するような叫び」と表現します。

高く鋭く、長く引き伸ばされた叫声は、森全体に反響し、逃げ場を奪うように響くといいます。

また、アボミナブル・スワンプ・スロブは人間を恐れない存在として知られています。

恐れないだけでなく、目撃者を追いかけたり、威嚇的に接近したりした証言例も報告されており、人間に対しフレンドリーな存在とは言えないようです。

他の獣人系と同様、複数体で行動する報告は極めて少なく、ほとんどの場合、単独で現れる点も特徴です。

― 足跡が語る「不整合」 ―


不可解なのは、その足跡です。

霊長類タイプであるにもかかわらず、指の数が一定しません。

四本、五本、時には六本の指が確認されたという報告まであります。

霊長類やヒト科が基本的に五指であることを考えると、この点は明らかに矛盾しています。

さらに奇妙なのは、環境との関わり方です。

ある時は下草や枝を派手に踏み荒らし、大きな足跡と破壊痕を残す一方で、別の目撃では、密集した藪の中を音も立てずに通過し、枝一本折らずに足跡だけを残したと語られています。

この「存在感の強弱」は、生物としての一貫性を欠いています。

― UFOと並んで現れるもの ―


さて、ここからはさらにパラノーマル感が一気に増すのですが、UFOとの関連性も示唆されています。

アボミナブル・スワンプ・スロブが目撃された地域では、同時期に奇妙な発光体や低空飛行する飛行物体が報告されることが少なくありません。

とはいえ、実際に円盤から出入りする姿が確認された例はありません。

しかし、目撃地点付近に飛来・着陸したとされる事例が重なり、何らかの関連性が示唆されてきました。

単なる偶然と切り捨てるには、少々乱暴と言えるかもしれません。

― 生物か、それとも「抜け落ち」か ―


アボミナブル・スワンプ・スロブは、獣人系UMAとして分類される一方で、その挙動には、物理的存在として説明しきれない揺らぎもあります。

確かに足跡を残し、叫び、人を追う。

しかし同時に、環境に干渉しない影のように振る舞う瞬間がある。

まるで「そこにいるはずの何か」が、時折、現実との接続を失っているかのようです。

湿地という、人が近づくことも少なく認識が曖昧になりやすい場所で語られてきた理由も、偶然ではないのかもしれません。

霧、水面の反射、音の歪み。

そのすべてが重なった時、アボミナブル・スワンプ・スロブは、生物と異常の境界からこちらを覗いているのではないでしょうか。

それは未知の獣なのか。

それとも、この世界の綻びが、湿地という場所を選んで形を取ったものなのか。

夜の沼地で響く叫び声は、今もその答えを曖昧なまま、森に溶かし続けています。

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2026年7月24日金曜日

ポーランド版ネッシー ~ ゼグジェ湖のパスクダ


■ポーランド版ネッシー ~  ゼグジェ湖のパスクダ

今回はゼグジェ湖のパスクダ(Paskuda z Zalewu Zegrzyńskiego)。

1970年代後半、ポーランドで話題となった湖のUMAで、通称「ポーランドのネッシー」と呼ばれることもあります。

その存在は、ラジオ番組「Lato z Radiem(夏のラジオ)」の放送によって広く知られるようになりました。

番組内では、数年間にわたり目撃されたとされる怪物の情報や、目撃者へのインタビューが紹介されました。

― 汚れた湖の影に ―


ゼグジェ湖は濁った水を湛えており、その深い水面の下で何かが蠢いているのではないかという想像が、人々の関心をかき立てました。

一部では、パスクダの食性は湖の汚染物質や下水を食べて生きているという噂まで流れました。

漠然とした黒い影や、水面に揺れる異様な波紋が、人々の記憶に神秘的な存在感を刻みました。

― 人々を楽しませた都市伝説 ―


1976年には、歌手エドワード・フレウヴィチ氏によってパスクダを題材にした歌も作られ、都市伝説としての人気を確立しました。

2007年には、風刺雑誌「Twój Dobry Humor」がパスクダをテーマにした風刺画コンテストを開催し、ユーモアを交えた創作が行われました。

さらに2021年には、地元の消防士や住民が冗談半分に湖でソナー探索を行い、湖の怪物伝説を楽しむ文化が今も続いています。

― 嘘から生まれたUMA ―


実は――
パスクダはラジオ局によって「創られた」UMAでした。

しかし、人々の想像力と、濁った湖の不気味さが結びつくことで、真実のUMAのように語られ続けました。

もちろんその姿は確認されていませんが、ゼグジェ湖の影の奥には、今日も何か得体の知れない存在が本当は潜んでいるのではないか?という感覚が、町の人々の記憶と笑いの中にひそやかに残されています。

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2026年7月19日日曜日

羊ほどの大きさを誇る黒い怪鳥 ~ バッジズ・ブラック・バード


■羊ほどの大きさを誇る黒い怪鳥 ~ バッジズ・ブラック・バード

今回はバッジズ・ブラック・バード(Bagge's Black Bird)。

アフリカ・ウガンダの霧深い高山で目撃された、羊ほどの大きさを持つとされる謎の巨鳥です。

目撃例はただの1度だけですが、その舞台や目撃者の信頼性も相まって、現在でもアフリカの未確認生物の1つとして語り継がれています。

― スティーブン・ソールズベリー・バッジ ―


この怪鳥の名は、イギリス人行政官スティーブン・ソールズベリー・バッジ(Stephen Salisbury Bagge)に由来します。

バッジは1890年代、イギリス保護領となったウガンダの行政官として赴任し、後には地方行政長官なども務めた人物です。

現地住民との関係を重視した誠実な官僚として知られ、引退後には考古学者として大英博物館へ数多くの遺物を寄贈したことでも知られています。

怪鳥を直接目撃したのは彼自身ではありません。

1898年、ルウェンゾリ山脈を調査中、同行していた現地ガイドが奇妙な巨大鳥の群れを目撃し、その報告が記録として残されたことから、この名で呼ばれるようになりました。

― 「月の山脈」と呼ばれる秘境 ―


目撃地点はウガンダ西部、ルウェンゾリ山脈のスペケ山南麓にあるブジュク湖付近。

標高約4000メートル近い高山地帯です。

この一帯は「月の山脈」とも呼ばれ、年間を通して濃い霧に包まれています。

氷河が削り出した谷には湖や湿原が点在し、巨大ロベリアや巨大キオンといった数メートルにも達する奇妙な高山植物が生い茂る、まるで異世界のような景観が広がっています。

現在でもアフリカ屈指の秘境として知られる場所です。

― 羊ほどもある黒い怪鳥 ―


現地ガイドが目撃した怪鳥には、いくつかの特徴が伝えられています。

全身は漆黒の羽毛に覆われ、体の大きさは羊ほど。

さらに危険を察知すると、牛がうなるような低く重い警戒音を発したといいます。

しかも目撃されたのは単独ではなく、複数羽の群れでした。

これ以降、公的な目撃報告は確認されておらず、その正体は現在も謎のままです。

― 正体はシロエリオオハシガラスか ―

(image credit: Wikicommons

バッジズ・ブラック・バードについては現生鳥類でいくつかの候補が挙げられています。

一例を挙げれば、カンムリクマタカStephanoaetus coronatus)やゴマバラワシPolemaetus bellicosus)、そしてシロエリオオハシガラスCorvus albicollis)等です。

その中で最も有力視されているのがシロエリオオハシガラスです。

この大型のカラスはウガンダの高山地帯に普通に生息し、ルウェンゾリ山脈も分布域に含まれています。

群れを作る習性もあり、標高約2700メートル付近で複数羽が確認されたという証言とも一致します。

実際の体長は50センチほどですが、濃霧や急峻な谷では距離感が狂いやすく、翼を広げて飛ぶ姿は実際以上に巨大に見えることがあります。

また、シロエリオオハシガラスは非常に太く低い鳴き声を持ち、遠くから聞けば牛のうなり声のように感じられた可能性も考えられています。

アフリカではカラス類は知恵や祖先の使者として語られる地域も多く、不気味さと神聖さを併せ持つ存在として扱われてきました。

― 未知の猛禽類だった可能性 ―


もちろん大型のワシ類が誤認された可能性もあります。

カンムリクマタカやゴマバラワシらもアフリカを代表する巨大猛禽で、特にゴマバラワシは翼開長2メートルを超えることもあります。

しかし、いずれも生息環境や行動には目撃証言と一致しない点があります。

カンムリクマタカは森林性で、高山の岩場で群れることはほとんどありません。

一方、ゴマバラワシはサバンナを主な生息地としており、霧に包まれたルウェンゾリ山脈の高地で見られることは極めて稀です。

そのため現生鳥類で説明するならハジロガラスが最有力候補ですが、証言のすべてを完全に説明できるわけでもありません。

霧に閉ざされた「月の山脈」のどこかに、まだ人類の知らない大型猛禽類がひっそりと生き残っている――

そんな想像をしてしまうのも、このバッジズ・ブラック・バードというUMAならではの魅力なのかもしれません。

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2026年7月18日土曜日

コンゴの湖に潜む巨大な怪物 ~ アンビゼ


■コンゴの湖に潜む巨大な怪物 ~ アンビゼ

今回はアンビゼ(Ambize)。

アフリカ、コンゴの湖に潜むとされる巨大な水棲UMAです。

その姿は魚の体に、豚あるいは牛の頭を持ち、平たく丸い尾びれを揺らすといいます。

最も奇妙なのは、鰭の代わりに人間のような手を備えているという点です。

地元では非常に珍しい存在で、捕まえることは困難とされます。

しかし、食材としての価値も高く、伝統的には珍味として扱われてきたという、摩訶不思議な存在です。

― 初期の目撃 ―


アンビゼの初期目撃は、16世紀にアフリカを探検したヨーロッパの航海者たちによって報告されました。

彼らの記録には、深い湖面に浮かぶ奇怪な生物の姿が詳細に描かれています。

地元住民も同様の目撃を語り、湖の奥深くで人知を超えた存在が棲息していると信じられています。

― 奇妙な身体構造 ―


アンビゼの体は巨大で、魚類的な滑らかな体躯を持ちながら、頭部は豚または牛に似ています。

尾は丸く平らで、水面を揺らすたびに不自然な音を立てるといいます。

鰭の代わりに人間の手が付いている描写は、捕獲の困難さを強調するだけでなく、人間に近い知性や異形の印象を与えます。

この特徴から、一部の研究者はアンビゼを、未知の大型マナティの亜種ではないかと推測しています。

― 証拠の存在 ―


しかし、現在に至るまで物理的な証拠は確認されていません。

存在を示すのは、航海者の記録と地元住民の証言のみです。

そのため科学的には未確認の存在ですが、湖の奥深くに潜む異様な姿は、目撃者たちの記憶に強烈な印象を残し続けています。

― 湖に潜む、人知を超えた生物 ―


アンビゼの奇怪な外見や行動は、単なる伝承とも解釈できます。

しかし、魚の体に人間の手、豚の頭という異様な姿は、人間の想像力の範囲を超えています。

実在したとしてもおそらく形容されるような姿ではないでしょう。

しかし、逆にこの突飛な姿で伝えられることから、何かしら得体のしれない生物を目撃した可能性も捨てきれません。

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2026年7月17日金曜日

神話の森に潜む白い鹿の精霊 ~ ホワイト・スタッグ


■神話の森に潜む白い鹿の精霊 ~ ホワイト・スタッグ

今回はホワイト・スタッグ(White Stag)。

ヨーロッパや北米の伝承に登場する、神秘的な白い鹿の精霊です。

その姿は単なる鹿ではなく、背筋を伸ばして歩く二足歩行のような動作や、忽然と姿を消す能力を持つとされます。

ディアーマンディア―ウーマンも彷彿させますね。

神話や目撃談の中では、彼らは異界の気配を知らせる存在として描かれています。

― ケルトの森に現れる異界の使者 ―


ヨーロッパのケルトや前インド・ヨーロッパの文化圏では、白い鹿は神聖視され、狩猟生活の中で象徴的な存在でした。

とりわけケルトの神ケルヌンノスの姿は、人間の身体に鹿の角を生やした形で描かれ、鹿が自然と人間の世界をつなぐ存在であることを示しています。

伝承によれば、白い鹿は禁忌を侵した者の前に現れることがあります。

例えば、伝説のプリュエルがアラウンの狩場に足を踏み入れた時、あるいはペレデュールが奇跡の城に侵入した時などです。

またアーサー王伝説では、白い鹿は森の中で騎士たちの前に姿を現し、神や妖精との冒険へと駆り立てる役割を果たします。

白い鹿を追うことは、人間の精神的な探求の象徴でもあったのです。

― 北米先住民の白い鹿 ―


北米の先住民の間でも、白い鹿は神秘的な存在として語られています。

チカソー族の伝説には「白鹿の幽霊」、レナペ族の伝説には「二頭の白鹿が揃って現れると、世界の民が知恵を持って導かれる」という予兆の話があります。

セネカ族、ロアノーク族、アルゴンキン族、ナンティコーク族、ポコモーク族も、偉大な白鹿の目撃を伝えています。

これらの伝承は、白い鹿が単なる動物ではなく、世界の秩序や人々の行動に影響を及ぼす存在として認識されていたことを示唆します。

― 異形の体色と希少性 ―


現実の生物学で言えば、アルビノの鹿は色素を欠き、全身が白く、瞳や鼻、蹄は淡いピンク色をしています。

ピエボールド(まだら模様の鹿)は比較的多く、一説には千頭に一頭程度の割合で生まれるといわれます。

しかし完全なアルビノは非常に稀で、三万頭に一頭ほどしか確認されないといいます。

白い鹿の目撃が神秘視される背景には、この稀少性が大きく影響しているのはほぼ間違いありません。

― 森に潜む、未知なる存在 ―


ホワイト・スタッグの存在は、単なる伝承とも現実の希少個体とも解釈できます。

しかし、森の中で忽然と現れ、二足歩行のような動きで消える姿は、人間の知覚の限界を揺さぶります。

ヨーロッパの古い森や北米の原生林では、今日も白い鹿の気配が、人々の記憶と神話の影にひそやかに残されているのです。

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2026年7月11日土曜日

南アフリカの山岳地帯に潜む幻の毒蛇 ~ ダス・アダー


■南アフリカの山岳地帯に潜む幻の毒蛇 ~ ダス・アダー

今回はダス・アダー(Das-Adder)。

南アフリカのドラケンスバーグ山脈には、地元住民の間で恐れられてきた奇妙な蛇の存在が伝えられています。

その名は「ダス・アダー」、岩場に住む小型哺乳類ケープハイラックスに由来し、姿かたちはアフリカマムシに似ていることから付けられました。

しかしその頭部には、驚くべきことに岩ヒヒに似た小さな顔が付いているといいます。

― 岩ヒヒの頭を持つ、奇怪な蛇 ―


目撃証言によれば、ダス・アダーは全身がアフリカマムシのような鱗に覆われていますが、頭部は岩ヒヒにそっくりで、愛らしい印象を受ける一方で、この頭は極めて毒性が強いと伝えられます。

さらに、見つめられるだけで人間を催眠状態にする力があるとも言われ、地元住民はその恐ろしさを語り継いできました。

尾には鮮やかな赤と黄色の縞模様があり、捕食者に対しての警告、あるいは催眠の警告の意味が込められているのではないかと考えられています。

耳の開口部は不思議なことに折りたたまれて冠のようになり、全体として奇妙で異質な印象を与えます。

ある住民は、実際には体長60センチ程度の小型トカゲが岩の間に潜んでいるだけではないかと語っており、正体不明の恐怖心が物語を大きく膨らませた可能性もあります。

― 目撃情報と伝承の狭間 ―


この生物に関する記録は散発的で、博物館関係者が標本を求めても発見には至らなかったと伝えられています。

目撃者の語る話と、科学者の調査の間には大きな隔たりがあり、実際のところ、ケープロックモニターVaranus albigularis)が脚を隠して蛇のように見えただけではないかという説もあります。

それでもなお、地元ではダス・アダーの話は生き続け、人々の注意を促す警告の物語として語られています。

― 幻想と現実の間に ―


結局のところ、ダス・アダーの正体は不明のままです。

岩場に潜むトカゲ、マムシの奇形個体、あるいは住民の恐怖心と想像力が生み出した幻影なのかもしれません。

それでも山を歩く際に、岩の影や尾の鮮やかな縞模様を見かけると、つい振り返ってしまうのも無理はありません。

ダス・アダーは、現実と伝承の境界線上に潜む、南アフリカのもうひとつの未知として、今も人々の心に棲んでいるのです。

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2026年7月10日金曜日

オーストラリア南東部に伝わる“水辺のエミュー” ~ ガウアージ


■オーストラリア南東部に伝わる“水辺のエミュー” ~ ガウアージ

今回は、オーストラリア南東部に伝わる謎の生物、ガウアージ(Gauarge)。

この存在は、近代的なUMA目撃談というよりも、先住民神話と未確認生物研究の境界に位置する、やや異質な存在として知られています。

― “水エミュー”と呼ばれる異形 ―


ガウアージの最も特徴的な呼び名は、「ウォーター・エミュー(水エミュー)」です。

外見は、エミューに似ているものの、羽毛がほとんど、あるいは全くない、異様に大きな鳥状生物として描写されます。

体高や体長の正確な数値は伝えられていませんが、「通常のエミューより明らかに大きい」「不自然なほど重厚」といった印象的な表現が多く見られます。

そして最大の特徴は、その生息域です。

ガウアージは森や草原ではなく、水場、特に水穴(ウォーターホール)や湿地帯の周辺に現れる存在とされています。

― 渦を起こし、人を溺れさせる存在 ―


ガウアージは、単に姿を見せる生物ではありません。

伝承によれば、この生物は水辺で遊ぶ人間や水浴びをする者を、水中に引きずり込み、渦を起こして溺れさせるとされます。

これは噛みつく、引き裂くといった直接的な捕食ではなく、「水そのものを使って人を殺す」という点で、極めて象徴的な存在です。

この性質から、ガウアージはしばしば、オーストラリア各地に伝わる水棲怪物「バニープ(Bunyip)」と混同、あるいは同系統の存在として扱われることもあります。

― 先住民神話における位置づけ ―


ガウアージは、ユワラライ(Yuwaalaraay)族の神話体系の中で語られる存在とされています。

詳細な神話構造は断片的ですが、「水辺に潜む危険」「人間が近づいてはならない領域」を象徴する存在として機能していた可能性が高いと考えられています。

つまり、純粋な怪物譚というよりも、自然環境に対する警告装置としての役割を持っていたのかもしれません。

― 恐竜生存説という解釈 ―


未確認生物研究の分野では、ガウアージはしばしば「恐竜生存説」と結び付けられてきました。

未確認動物学者ベルナール・ユーヴェルマンス博士は、この「羽毛のない巨大エミュー」という描写から、オルニトミムス類Struthiomimus など)のような獣脚類恐竜を連想させると述べています。

ユーヴェルマンス博士は恐竜生存説が好きですからね。

ただし、現在の化石研究では、これらの恐竜は羽毛を持っていた可能性が高く、また半水棲であった証拠は見つかっていません。

― “雷鳥”ミヒルングとの関連 ―


あくまでUMA的、ということでは、より現実的 (?) な仮説として挙げられるのが、オーストラリアにかつて実在した巨大な飛べない鳥、ミヒルングDromornithidae)との関連です。

中でも身長最大2.5メートルの「ゲニオルニス・ニュートニGenyornis newtoni)」は、更新世後期まで生存していたことが知られており、人類とギリ時間を共有しています (が、共存していた証拠はありません)。

もし、このような大型鳥類の記憶が神話として変質・誇張されたのであれば、「巨大で、水辺に関わるエミュー状生物」というイメージが生まれたとしても不思議ではありません。

― 未知の生物か、環境の記憶か ―


ガウアージは、現在の基準で見れば、目撃証言も物証も存在しません。

しかし、完全な創作とも言い切れない、奇妙な現実味を帯びています。

それはおそらく、この存在が「かつて実在した生物」「危険な水環境」「人間の記憶と恐怖」といった複数の要素が重なり合って形成された存在だからでしょう。

ガウアージは、UMAのロマンである生き残った恐竜ではないかもしれません。

しかし、人類が忘れきれなかった“何か”の痕跡かもしれません。

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2026年7月8日水曜日

人間の影を落とす異形の魔獣 ~ ペリトン




■人間の影を落とす異形の魔獣 ~ ペリトン

今回はペリトン(Peryton)。

鹿と鳥が融合した奇妙な姿を持ち、「人間の影」を落とすという、世界中の幻獣の中でもひときわ不可解な存在です。

もっとも、この生物は古代神話に登場する伝説の怪物ではありません。

その正体は、20世紀の文学が生み出した「現代の神話」でした。

それでは見ていきましょう。

― 鹿と猛禽が融合した異形 ―


ペリトンは、アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)が1957年に刊行した『幻獣辞典(Book of Imaginary Beings)』で紹介した幻獣です。

頭部や首、前脚には立派な枝角を備えた牡鹿。

一方で胴体の後半は巨大な猛禽類そのもので、全身は濃い褐色から黒褐色の羽毛に覆われ、翼を広げると数メートルにも達するとされています。

嘴は持たず、顔立ちはあくまで鹿そのもの。

しかし巨大な翼を羽ばたかせながら空を舞うその姿は、自然界のどの動物とも一致しません。

AI画像を生成するなら、黒曜石のような光沢を帯びた角、鷲のように厚く重なった羽毛、筋肉質な鹿の前半身、鋭く湾曲した猛禽の鉤爪を備えた後脚が特徴となるでしょう。

現実には存在し得ない組み合わせでありながら、不思議と「どこか本当にいそう」と思わせる絶妙なデザインこそ、ペリトン最大の魅力です。

― 人間の影を落とす怪物 ―


この幻獣を有名にしたのは、その奇妙すぎる性質でしょう。

ペリトンは、自分の姿とはまったく関係のない「人間の影」を地面へ落とします。

空を飛んでいるのは翼を持つ怪物であるにもかかわらず、地面には歩く人間の影だけが映し出されるのです。

しかし、それは永遠には続きません。

伝承によれば、ペリトンは人間を殺害した瞬間、初めて自分本来の影を取り戻すとされています。

海外では、この設定にさらに悲劇的な解釈が加えられることがあります。

ペリトンとは、異郷で命を落とした旅人たちの魂が変じた存在。

本来なら影すら持たない霊魂ですが、人間の心臓を奪うことで神々の赦しを得て、自らの影を取り戻し、ようやく魂として完成する――そんな物語が語られることもあります。

公式設定ではありませんが、この解釈によってペリトンは単なる怪物ではなく、どこか哀しみを背負った存在として語られるようになりました。

― アトランティスから飛来した魔獣 ―


ボルヘスの著書では、ペリトンはかつて伝説の大陸アトランティスに棲んでいたとされています。

しかし文明を滅ぼした大地震によって故郷を失い、生き残った個体は翼で世界各地へ飛び去ったと伝えられています。

さらに古代ローマには、ペリトンが帝国滅亡を招くというシビュラの予言まで残されていたと記されています。

カルタゴ戦争では、ローマ艦隊を襲撃したという逸話まで登場しますが、実はこれらは歴史上の記録ではありません。

ボルヘスが実在する歴史へ巧妙に怪物を紛れ込ませた、文学的な演出だったのです。

― 実在しない古文書 ―


ボルヘスは、この幻獣をまるで実在する伝承のように見せるため、さらに巧妙な仕掛けを用意していました。

彼は「16世紀にモロッコ・フェズのラビが著した、現在は失われた古文書から引用した」という体裁を取ります。

もちろん、その古文書自体が存在しません。

実在する歴史、存在しない文献、そしてもっともらしい学術的な文章。

それらを違和感なく混ぜ合わせたことで、多くの読者はペリトンを本当に中世から伝わる幻獣だと信じてしまいました。

現代における「創作された神話」の代表例として、今なお文学史の中で語り継がれています。

― 文学から現実へ飛び出した怪物 ―


興味深いことに、ペリトンはその後、多くのファンタジー作品へ取り入れられました。

『ダンジョンズ&ドラゴンズ(Dungeons & Dragons)』では、人間の心臓を喰らう凶悪なモンスターとして定着し、ゲームや小説でもたびたび姿を見せています。

さらに2010年代には、オーストラリアの電波望遠鏡が観測した正体不明の電波パルスへ、研究者たちが冗談交じりに「ペリトン」と名付けたこともありました。

未知の宇宙現象かと思われたその信号は、後に研究員が電子レンジの扉を途中で開けたことで発生したノイズだったと判明します。

実在しない怪物の名を与えられた現象が、結局は実在しない謎だったという結末は、どこかボルヘスの悪戯を思わせます。

ペリトンはUMAでも、古代から語り継がれた幻獣でもありません。

しかし、あまりにも巧妙に組み上げられた虚構は、やがて現実の文化へ溶け込み、人々の記憶の中で本物の伝承へと姿を変えていきました。

もしかすると、本当に恐ろしいのは翼を持つ鹿ではなく、人間が「本物らしい嘘」を信じてしまう、その想像力なのかもしれません。

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