いっぽう魚は鱗で覆われており、寒いからと毛皮を纏うわけにもいきません。
寒冷地に生息する魚としてはやはりコオリウオの仲間 (Channichthyidae) が有名ではないかと思います。
南極収束線より南に生息する魚は270種類以上、そのうちの95%はコオリウオの仲間が属するノトテニア亜目 (Notothenioidei) です。
コオリウオはヘモグロビンを持たないため血液が透明なことで知られています。
英名でもホワイト・ブラッディド・フィッシュ (white-blooded fish 「白い血液を持つ魚」) と呼ばれます。
ノトテニア亜目の血液を凍らせるとマイナス0.8度で融解しますが、凍らせるにはマイナス2度まで下げる必要があります。
この融解温度と凍結温度の差が存在する現象を熱ヒステリシスと呼ばれますが、これは炭水化物がタンパク質に繋がっている糖タンパク質と呼ばれる血漿中の高分子によるものです。
この不凍性を付与する糖タンパク質はノトテニアに属する魚の血液の4%を占めるといわれています。
結果としてノトテニア属の魚たちはマイナス2度まで凍結に耐える血液により、マイナス1.9度以下に下がらない南極海においてこの魚たちの血液は凍ることがなく悠然と泳いでいられるというわけです。
さて、このような長ったらしい解説を1秒で粉砕させる魚のUMA、ファー・ベアリング・トラウト (fur-bearing trout, 「毛皮を身につけたマス」の意) の紹介です。
ファー・ベアリング・トラウトは北米やカナダ、アイスランド等、北半球の特に寒冷な地域で目撃・捕獲されるUMAです。
不凍タンパク質を血漿中にどうのこうの、そんな面倒くさい方向への進化を拒否し、その名の通り冷たい水温に耐えるため毛皮を全身に纏う方向に進化しました。
このUMAの素晴らしいところは幾度と捕らえられ、UMAでありながら標本も多数存在するという点です。
捕獲されている時点で未確認ではないためUMA (未確認生物) の資格を失うはずですがそこらへんはまあまあ、いいじゃないですか。
一説にはミズカビ (Saprolegnia) に冒された魚類説もありますが、捕獲された標本や写真などを見れば一目瞭然、そんな病気チックなものではなく、金持ってそうな優雅な魚です。
そもそもミズカビにより全身が冒された状態で生きていけるわけもありません。
ただし、ミズカビの増殖により死亡した魚の死体に、死後もミズカビが増殖し続けることにより全身がミズカビで覆われてしまうということはあり得るかもしれません。
そういった死体が水辺を漂ったり岸に打ち上げられたりしたものが目撃されることによりファー・ベアリング・トラウトが誕生したのかもしれません。
実際、標本はどうなのかというとマスにウサギの白い毛皮を巻きつけたものでありフェイクです。
UMAの中でもとりわけ都市伝説的傾向がかなり強い部類で、ヘアコンディショナーを浴びた魚が変異を起こした等、ジョーク的な存在です。
以前に紹介したティジー・ウィジー、ディンバット、ビーバーシャーク等と同じ立ち位置のUMAといえるでしょう。
(参考文献)
極限環境の生命 (D.A.ワートン著)
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そもそも水の中でも毛皮ふさふさの方が温かいのかな?ラッコぐらいあれば良いのか?
返信削除まったく効果なさそうですよね。
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