数ある恐竜の中でも別格の存在であるティラノサウルス・レックス (Tyrannosaurus rex) ことT.レックス
恐竜に微塵の興味もない人でもT.レックスを知らない人はいないでしょう。
最大体長14メートル、体重10トン前後、獣脚類最大級の体躯を誇り、映画の中でも人間を襲うトップ・プレデターの地位を築き上げた大スターです。
そんなスターの頭骨が今から40年以上も前の1976年、すでに日本でも発掘されていたと聞いたら驚く人も多いかもしれません、その名はエゾミカサリュウ (Taniwhasaurus mikasaensis) です。
この名は発掘された北海道の三笠市 (みかさし) に由来します。
三笠市では恐竜のスターが発掘されたとあって大賑わいし、町興しにも利用されたといいます。
しかしエゾミカサリュウが恐竜界のスターであるティラノサウルス類であるにも関わらず、全国的に見てその知名度は決して高いものではありません、これはどうしたことでしょう?
本来であれば各地の恐竜イベントに引っ張りだこ、もうエゾミカサリュウはいいよ、と食傷気味になっていてもいいはずです。
これにはわけがあります。
発掘当初、まだ完全なクリーニングを施す前の鑑定で「ティラノサウルス類の可能性」が示唆されたものの、クリーニング作業が進行すると共にどうもこの化石はティラノサウルスではないようだとの見解が広まります。
ぱっと見こそティラノサウルスの頭骨に似たシルエットをしているものの、不自然に吻部が大きく欠落しており、前歯から奥歯にかけて生える均等な大きさの歯はティラノサウルスのそれとは異なる印象です。
そして発掘から10年近くにもなってからエゾミカサリュウは正式にティラノサウルス類ではないとの鑑定結果が下ります。
さらに悪い (?) ことに、ティラノサウルス類どころか恐竜ですらないことも分かりました。
エゾミカサリュウはモササウルスの仲間、つまり海生爬虫類だったのです。
恐竜とは乱暴な表現をすれば「陸生かつ直立歩行できる爬虫類」であり、竜盤目と鳥盤目の爬虫類のみを指します。
ワニやトカゲのように体から横に足が張り出しているのではなく、恐竜は体から地面に垂直に足が出ている爬虫類といったほうがイメージとしては分かりやすいかもしれません。
こういった点からも海生爬虫類が恐竜の仲間でないことは一目瞭然です。
エゾミカサリュウになんの罪もありませんが「日本初のティラノサウルスの化石」で町興しをはじめた三笠市にとってこれは大誤算です。
三笠市はエゾミカサリュウを海生爬虫類とは書かず「肉食爬虫類の化石」と苦渋の表現に変更し展示していたことからもその落胆振りが伺えます。
マスコミの手のひら返しも容赦なく「エゾミカサリュウはただのトカゲだった」等、揶揄 (やゆ) されたといいます。
ただのトカゲって、、、
モササウルスの仲間、特にモササウルス・ホフマニ (Mosasaurus hoffmanni) にいたっては最大全長18メートル、体重14トンにも達し、ただのトカゲどころか恐竜に劣らぬ魅力的な巨大生物です。
そして2008年、長きに渡って避けられ続けてきたエゾミカサリュウの再調査が行われました。
その結果、エゾミカサリュウはモササウルスの仲間であるタニファサウルスの新種ということが判明し、タニファサウルス・ミカサエンシス (Taniwhasaurus mikasaensis) という学名が与えられ現在に至ります
人間のエゴに振り回された悲劇の恐竜エゾミカサリュウ、地味な存在であることは否めませんがこんな悲劇を知れば応援のひとつもしたくなるでしょう。
(関連記事)
0 件のコメント:
コメントを投稿