■足と肉がなく空気から栄養を栄養摂取する鳥 ~ ゴクラクチョウ (フウチョウ)
今から500年ほど前の16世紀、ヨーロッパの人々が「天の使い」と「本気で」信じられていた鳥がいます、ゴクラクチョウ (極楽島) ことフウチョウ (風鳥) です。
フウチョウという呼び名は15属42種存在するフウチョウ科の総称であり、単に「フウチョウ」という呼び名の鳥は存在しません。
ここではUMA的な響きをもつ「ゴクラクチョウ」という呼び方で統一します。
世界周航を成し遂げたことで有名なフェルディナンド・マゼラン (Ferdinand Magellan) ですが、実際は航海半ばに戦死しています。
マゼランの意思を継いだヴィクトリア号の船長フアン・セバスティアン・エルカーノ (Juan Sebastián Elcano) により世界周航を成し遂げます。
このエルカーノこそゴクラクチョウをヨーロッパに紹介した人物です。
エルカーノは立ち寄ったモルッカ諸島の酋長から香辛料と鳥の剥製を手渡されます。
酋長によればこの鳥はモルッカ諸島に生息する鳥ではなく、誰も知らない「テラ・オーストラリス・インコグニタ」という大陸の近くで獲れたということでした。
そうです、この手渡された謎の鳥こそゴクラクチョウです。
そしてこれはおそらくコフウチョウ (Paradisaea minor) でした。
美しい鳥ですが鳥であることに変わりはありません。
しかしヨーロッパに持ち帰られたこのゴクラクチョウは驚きを持って受け止められました。
この鳥は「空気の精」であり「神の鳥 (マヌコディアータ)」であると。
コンラート・ゲスナー (Conrad Gesner) の著書「動物誌」において「モルッカ諸島の住民はこの非常に美しい鳥が天国で生まれ地上には降りず、他のいかなるものにも止まらないと証言している」と記載されました。
そしてゲスナー自身も「この鳥には天の露以外の食事は不要」と言ってのけました。
美しいにしてもここまで神聖視されるのはなぜか?
エルカーノが酋長から受け取ったこのゴクラクチョウには肉も骨もそして足もありませんでした、つまりは巧妙に加工されていたのです。
足がないということは「すべてのことを飛翔しながら済ませる」はずと推測するものもいれば、長い尾羽根でぶら下がるのだろうと推測するものもいました。
博物学者フランシスコ・ローペス・ゴーマラですら剥製のトリックを見抜けず
「この鳥は香料の木の露や花の蜜を食べていると思われる。たがしかし腐ったりすることはないと断言できる」
そうコメントし、つまり肉や骨がないことを鵜呑みにしたのです。
動物学者の中にも「他の生物のように地に降りる必要のない高等動物」と考えるものもいたほどです。
マゼランの探検隊にも加わった博物学者アントーニョ・ピガフェッタのように「モルッカ諸島ではこの鳥の骨や足を取り除く風習がある」と見抜くものも存在しましたが一蹴されました。
驚くべきことに18世紀に入ってもなおゴクラクチョウの伝説は続きました。
なにせあの「分類学の父」カール・フォン・リンネ (Carl von Linné) すら、オオフウチョウの学名をパラディセア・アポダ (paradisaea apoda)、つまり「足のないゴクラクチョウ」と命名したほどです。
その後もカタカケフウチョウ (Lophorina superba)、カンザシフウチョウ (Parotia sefilata) 等、次々とゴクラクチョウはヨーロッパに持ち込まれますがすべて剥製であり、当然のように肉も骨もそして足もありませんでした。
ただしこの頃になると、天の使いであるゴクラクチョウへの幻想を抱きつつも、疑念を持つものもチラホラと出始めます。
しかしエルカーノがゴクラクチョウの剥製をヨーロッパに持ち込んで300年、いまだに生きた姿を目撃したヨーロッパ人はいませんでした。
そして19世紀なかば、ついにヨーロッパ人の前に生きたゴクラクチョウが現れます。
目撃したのは船上薬剤師ルネ・プリムヴェール・ルソン。
行方不明となった冒険家ラ・ペルーズ捜索隊の乗組員となり、立ち寄ったニューギニアで木立を塗って飛ぶゴクラクチョウを目にし、あの謎の剥製の作成方法までも見せたもらったのです。
ゴクラクチョウを天の使いに変えてしまうのは簡単そうだったといいます。
厚い皮膚の所々にナイフを入れ羽毛をつけたまま皮を剥ぎ取り、木灰をすり込んで棒に巻きつけます。
こうすることにより肉も骨もないのに鳥の形を維持します。
この状態で煙に燻 (いぶ) して乾燥させると皮が固くなり、棒を抜いても鳥の形が維持されるわけです。
これにて「天の使い」の作成完了です。
ルソンはゴクラクチョウの姿、鳴き声、求愛ダンス、そして「天の使い」の作成方法など、自身の航海を一冊の本にまとめ上げた「世界一周の素敵な航海日誌」に載せました。
本の出版から3年後、ついにハイデルベルク出身のザロモン・ミューラーが足を切り落とす前のゴクラクチョウの死骸を手に入れヨーロッパに持ち帰ります。
ヨーロッパの人々にゴクラクチョウの本当の姿が伝わった日です。
それは「天の使い」の幻想が崩れさった日でもあります。
真実を知ることはときに痛みを伴いますが、真のゴクラクチョウの美しい姿を目にすればそんな気持ちもきっと吹き飛んだことでしょう。
(参考文献)
「世界動物発見史」(ヘルベルト・ヴェント著)
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