■シュテラーもうひとつの大発見 ~ ステラー・ウミザル
今回は、あまりにも有名な絶滅動物の影に隠れた、もうひとつの「発見」についてです。
― 巨人の海獣、ステラーカイギュウ ―
最大で体長9メートル、体重10トンに達したといわれる巨大なカイギュウ目、ステラーカイギュウ(Hydrodamalis gigas)。
この動物を発見したのは、名にそのまま自身の名を残す、ドイツの医師であり博物学者、ゲオルク・ヴィルヘルム・シュテラー(Georg Wilhelm Steller)でした。
同じカイギュウ目のジュゴンですら体長3メートル、体重450キログラム前後であることを考えると、ステラーカイギュウがいかに異様な巨体だったかが分かります。
ステラーカイギュウはしばしば「人類の残酷さ」を象徴する存在として語られます。
― 発見から絶滅まで、わずか27年 ―
シュテラーがこの巨大生物を発見したのは1741年。
その報告が本国に伝わるや否や、毛皮や肉を求める人々が一斉にベーリング海へと押し寄せました。
もともと個体数は2000頭前後と少なく、乱獲に耐えられる種ではありませんでした。
そして発見からわずか27年後の1768年、ステラーカイギュウはあっけなく絶滅してしまいます。
― 日誌に残された「別の生物」 ―
しかし、シュテラーの名が刻まれた発見は、それだけではありませんでした。
実はステラーカイギュウを発見した同じ1741年、彼の日誌にはもうひとつ、不可解な生物の記述が残されています。
ステラー・シー・エイプ(Steller’s Sea Ape)。
日本では「ステラー・ウミザル」と呼ばれる存在です。
― ステラー・ウミザルの特徴 ―
目撃地点は、アラスカ州シュマージン諸島(Shumagin Islands)近海。
体長はおよそ1.5メートル。
尾に向かって先細りになる、太く細長い体型をしていました。
頭部は犬に似ており、垂れ下がる長い髭と尖った耳を持っていたといいます。
四肢はなく、尾ビレはサメのような形状。
海面に浮かぶ海草をくわえては、まるで猿のようにそれを弄ぶ仕草を見せ、船の下に潜って左右を行き来するなど、非常に好奇心旺盛な様子だったと記されています。
こうした行動から、シュテラーはこの生物を「シー・エイプ(海の猿)」と呼びました。
― 捕獲は失敗に終わる ―
シュテラーは約2時間にわたってこの生物を観察した後、標本として持ち帰るため撃ち殺そうと何度か試みます。
しかし、いずれも逃げられてしまいました。
もしこの時、捕獲に成功していれば、UMA史はまったく違うものになっていたかもしれません。
― 学名が与えられなかった存在 ―
ステラー・シー・エイプは後年、新種の海生哺乳類として、
シミア・マリナ(Simia marina)、
シレン・シノセファラ(Siren cynocephala)、
トゥリケクス・ヒドロピセクス(Trichechus hydropithecus)、
マナトゥス・シミア(Manatus simia)
と、実に4度も記載が試みられています。
しかし現在では、その正体はキタオットセイ(Callorhinus ursinus)の誤認であろう、という説が一般的です。
― それでも残る違和感 ―
この定説に異を唱えたのが、生物学者アンドリュー・ターラー(Andrew Thaler)博士でした。
ここで、シュテラーが置かれていた状況を振り返る必要があります。
― ベーリングとの確執 ―
シュテラーが乗船していたのは、冒険家ヴィトゥス・ヨナセン・ベーリング(Vitus Jonassen Bering)率いる聖ペトロ号。
両者の関係は、もともと良好とは言えませんでした。
医師でもあったシュテラーは、壊血病で次々と倒れる船員たちに対し治療案を提案しますが、それらはすべて無視されます。
やがてベーリング自身も壊血病で病に伏すと、シュテラーの「下船して調査したい」という願いは完全に退けられるようになりました。
ステラー・シー・エイプが目撃されたのは、まさにこの関係が最悪に近づいていた時期だったのです。
― 海猿は「創作」だったのか ―
ターラー博士は、ステラー・シー・エイプを実在の生物ではなく、シュテラーの鬱憤が生み出したジョーク、あるいは風刺だった可能性を指摘します。
この生物は、何かの比喩ではなかったのか。
その疑問を裏付けるような記述が、シュテラーの日誌には残されています。
― 「デンマークの海猿」 ―
ステラー・シー・エイプという名称は、実はシュテラーの死後につけられたものです。
彼自身は日誌に、この生物を
「ダニッシュ・シー・エイプ(Danish Sea Ape)」
――「デンマークの海猿」と記していました。
しかし、目撃地点はアラスカ近海。
聖ペトロ号はデンマーク近海を航行したことすらありません。
不思議です、この謎の生物にも、そしてこの航海にもデンマークは無縁のように感じられるからです。
ああ、そういえば……
聖ペテロ号にただひとりデンマーク生まれの人物が乗船しているのを忘れていました――
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