(original image credit by G H Ford)
■魚に催眠術?魚がヘビの口に飛び込んでくる ~ ヒゲミズヘビ
今回はヒゲミズヘビ (Erpeton tentaculatum)。
吻部に「ヒゲ」のような突起を一対もつ水生のヘビです。
英語圏ではこの「ヒゲ」を「触手 (テンタクル)」と見立て「テンタクルド・スネーク (Tentacled snake「触手を持つ蛇」) と呼びます。
体長は通常50~90センチ、大きくても1メートルほどしかない小柄なヘビです。
東南アジアのタイ・カンボジア・ベトナムの流れの緩やかな川や湖、池に生息しますが、汽水域や海水にも侵入することがあります。
完全水生のヘビで陸に上がることはなく、一度の息継ぎで30分も潜っていられます。
ヒゲミズヘビは魚食性ですが、非常に優れたハンティング能力を持ち合わせていることで有名です。
動きが俊敏だから?
確かにそれもありますが、人間にとっては目にも止まらぬヒゲミズヘビの動きも魚にしてみれば実はどうということはありません。
(image credit by Vanderbilt University)
魚類や両生類には通称Cスタート (C-start) と呼ばれる逃避反射を持ち合わせているからです。
Cスタートとは側線 (魚の体の両側面にある感覚器) で水流の乱れ (以下、便宜上これを「擾乱 (じょうらん)」と呼ぶことにします) を感じ取ると、魚の上方から見て体をアルファベットの「C」 のような形に曲げ、擾乱を受け取った側の反対方向に向かって逃避・急加速を行うことです。
この逃避反射は凄まじく、逃避に0.01~0.02秒、加速に0.02~0.03秒しかかからないため、ヒゲミズヘビはCスタート以下の俊敏性しか持ち合わせておらず、数字上、魚を捕まえられないことになってしまいます。
魚専門のヒゲミズヘビにとってこれは致命的であり、エサを獲れず滅んでしまうはずですが実際そんなことはありません。
それどころか外来種としてアメリカの淡水にも生息域を広げているほどです。
怪我したり病気の魚専門に食べているのでは、、、そんなセコいことしてません、ヒゲミズヘビは有能なハンターですから。
そういった運任せの食事では安定した繁栄を築くのは困難です。
では一体どうやって魚を捕まえているのか?
この謎をヴァンダービルト大学 (Vanderbilt University) の生物学者ケネス・カターニア (Kenneth Catania) 教授が解明しました。
捕食の瞬間をスローで見れば分かりますが、不思議なことにエサである魚がヒゲミズヘビの頭部に向かって泳いできます。
偶然でしょうか?
しかし120回の試行実験で78%が魚自らヘビの口中に入っていったことが分かっており、とても偶然で片付けられる数字ではありません。
実はヒゲミズヘビ、上記で説明した魚類最大のディフェンス能力、Cスタートを逆手に取っているのです。
ヒゲミズヘビは待ち伏せする際に、尾を起点に体をまっすぐに伸ばし、首付近から先を緩やかに尾の方向に曲げます。
いわゆるアルファベットの「J」のようなシルエットです。
獲物を捕らえることができるハンティングエリアは頭部から僅かに下方の範囲、つまり口元付近だけです。
しかしその極端に狭いハンティングエリアに魚自ら突っ込んでくるのですから痛快です。
それはなぜか?
ヒゲミズヘビの口に向かって泳いでくるようにするには、魚を起点にその反対側に擾乱を起こせばいいことになります。
そう、ヒゲミズヘビは待ち伏せ状態になり魚が近くを泳ぐと、体をわずかに揺らして擾乱を起こし魚が逃避反射させることで口の中に突っ込んでくるように仕向けているのです。
Cスタートは反射でありスタートすると自分の意志で途中で撤回することはできず気づいたときにはヒゲミズヘビの口の中というわけなんですね。。
(参照サイト)
PHYS.org
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