「M. デュプイ氏の誠実さに疑いの余地はありませんし、なんならこの冒険録すべての責任を彼は負うことでしょう。確かに驚くべき事実ではありますが、既知の科学と照らし合わせて何ら矛盾はないのですから」
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「、、、(中略) 凶暴な動物といえば、、、この前のクリスマスイブに十人の先住民族たちとわたしが、あのパートリッジ・クリークの恐ろしい怪物に再び遭遇したと告白したら、果たしてあなたはわたしのことを信じて頂けるでしょうか?
凍てつく寒さで毛皮が霜で覆いつくされた怪物は、黄昏時の燃え滾る太陽の如くギラギラとした目で、なにかを、おそらくはカリブー (注:トナカイのこと) をくわえているように見えました。
その日の気温は氷点下四十五度、怪物は時速十キロほどで歩いており、やがて私たちの視界から消えました。
間違いありません、リーモア、バトラー、あなたを含めわたしたち四人がヘラジカ狩りの時に目にし怪物です」
(1908年に雑誌に掲載されたパートリッジ・クリークの怪物の挿絵)
UMAの中で恐竜系のものは少なくありませんが、ラプトルのような小型獣脚類系のUMAを除けば、その多くはアフリカ大陸で目撃されたものです。
モケーレ・ムベンベ (Mokele-Mbembe) を筆頭に、エメラ・ントゥカ (Emela-ntouka)、ムビエル・ムビエル・ムビエル (Mbielu Mbielu Mbielu)、カサイ・レックス (Kasai Rex)、ムフル (Muhuru) 等、特に大型の恐竜系UMAはアフリカ大陸の独断場といって過言ではありません
恐竜ではありませんが、ンデンデキ (Ndendecki)、ングマモネネ (Nguma-monene)、マハンバ (Mahamba)、コンガマトー (Kongamato) 等、恐竜と時代を共にした大型の海生爬虫類や翼竜等の特徴を持つUMAの目撃を含めれば膨大な数に上ります。
それを踏まえると、今回紹介する「パートリッジ・クリーク (Partridge Creek) の怪物」は、とてもとても珍しい、アフリカ大陸以外で目撃された大型恐竜系のUMAです。
パートリッジ・クリークとは、カナダのユーコン準州にあるパートリッジ川 (Partridge river) 沿いにある渓谷です。
この怪物は、実際に目撃したフランス人作家、ジョルジュ・デュプイ (Georges Dupuy) 氏が、イギリスの大衆月刊誌「ストランド・マガジン (The strand magazine)」に1908年に寄稿したことにより、世界に広く知れ渡ることになったものです。
冒頭のデュプイ氏の誠実さについての記載は本文が始まる前のストランド・マガジンによるもので、続く怪物の話はラヴァニュー氏がデュプイ氏に宛てた手紙の内容の抜粋です。
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デュプイ氏と狩猟仲間で銀行家のジェームズ・ルイス・バトラー (James Lewis Buttler) 氏、炭坑夫であるトム・リーモア (Tom Leemore) 氏の3人がパートリッジ・クリークにヘラジカ狩りに来ていました。
(現在のケラトサウルスの復元図)
(image credit by Wikicommons)
獲物であるヘラジカを探していると、泥でぬかるんだ場所に大きな3頭のヘラジカが苔を舐めているのを発見し、物陰に隠れて機会を窺っていたその時です、一頭のオスが襲われたり致命傷を負ったときにのみに出すヘラジカ特有の唸り声をあげ、はじかれたように3頭は南の方へと逃げ去っていきました。
何が起きたのか?
デュプイ氏ら3人は、ヘラジカたちがいた場所に近寄ってみると、そこには深さ2フィート (約60センチ)、長さ30フィート (約9メートル)、幅12フィート (約3.6メートル) もある巨大な窪み、そしてこれが巨大な生物によるものであることを示唆する、4つの巨大な足跡も残されていたのです。
明らかにできて間もない痕跡であり、ヘラジカが怯えたのはこの怪物に違いありません。
デュプイ氏ら3人はその怪物の姿を目にしていませんでしたが、得体のしれない巨大な生物がいることは確かであり、翌日、地元の警察にその話をし、同行してくれるよう依頼しましたが、信じてもらえずまったく取り合ってもらえなかったといいます。
パートリッジ・クリークに不慣れな3人は、この巨大生物を捜索するにあたり、現地で布教活動を行っていたフランス系カナダ人宣教師、ピエール・ラヴァニュー (Pierre Lavagneux) 氏と5人の先住民族、クラヤクク族 (Klayakuk)の計6人に同行を依頼します。
一日中、かなり広範囲にわたって捜索したものの成果はまるでなく、日も沈み始めるころ、疲弊した一行は峡谷の頂上付近で一休みすることにしました。
明日また頑張ろう、怪物探索の緊張も和らぎ、茶を飲もうと焚火で湯を沸かしていました。
湯がグツグツと沸騰しはじめ、各々がブリキのカップにお茶を注ごうかと思ったその時です、巨大な岩が転がり落ちる音に静寂は切り裂かれました。
耳をつんざく不快な轟音が辺りに響き渡ります。
気が付くと、彼らの目の前には真っ黒な巨体がそびえ立っていました、朝から探していた「あの」怪物です。
怪物の口から血が滴っていましたが、その持ち主はわかりません。
バトラー氏は一目散に崖を駆け下りましたが、取り残されたデュプイ氏、リーモア氏、ラヴァニュー氏らはあまりの恐怖に悲鳴すらあげる余裕もなく、無意識のうちにただただお互いの腕を掴み合うほかありませんでした。
同じく恐怖にかられたクラヤクク族の5人は、地面を向いて震え続けていただけだといいます。
ラヴァニュー神父は震えながらつぶやきました。
「恐竜だ! 北極圏に生息する恐竜だ」(「恐竜だ!」の部分は「ケトラサウルスだ! (Ceratosaurus)」のバージョンもあり)
(ケラトサウルスの20世初頭に描かれた復元図)
なにせジョルジュ・デュプイ氏の本業は作家ですから。
もともとデュプイ氏が「フィクションとして寄稿したものを、雑誌社によってノンフィクションとして掲載されたもの」とも言われています。
そうだとしたら今でいう「モキュメンタリー (ドキュメンタリー風フィクション)」といえます。
とはいえ、現在から100年以上も前の20世紀初頭の話であり、デュプイ氏が創作と認めた経緯があるわけでもありませんし、デュプイ氏は他界して久し、真実を知る術もありません。
そうそう、当時の挿絵 (冒頭の画像) を見ればわかりますが、現在のケトラサウルスの復元との相違も興味を惹かれますよね。
パートリッジ・クリーク・モンスターもクラシックUMAのひとつとして是非覚えておいてください。
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