2020年3月9日月曜日

尾で人間を持ち上げる? ~ クスクスがUMAだったころ


■尾で人間を持ち上げる? ~ クスクスがUMAだったころ

クスクスはご存じですか?

料理のクスクスじゃなくて動物の方です。

オーストラリア、ニューギニアそしてインドネシアに生息する有袋類です。

かわいい顔をした「有袋類のナマケモノ」といった感じの生物で、「巨大なスローロリス」と言ったほうがイメージしやすいかもしれません。

その多くは樹上棲でナマケモノよろしくのんびり葉っぱを食べています。

こんな平和を絵に書いたような生物が、かつてUMA (未確認生物) だったころは危険な生物とみなされていました。

オランダの博物学者フランソワ・ファレンティン (François Valentijn) 曰く、

「イタチの一種でマラヤ人 (マレー人のこと?) がクスクスと呼んでいる動物は奇妙な動物の中でも最も奇妙な動物だ。

この類の大型種は大変獰猛で危険である、誰かが尾を引っ張って木から引き離そうとすると、その人間を空中に引き上げて落とすのである。

手足には鋭い鉤爪があり、裏側には毛がなくてまるで子供の手のようだ。

彼らは手足をサルのように使う。

尾の先にもやはり毛がなくて巻いており、尾を使ってしっかり枝にしがみついているので、枝からはなすのは大変難しい。

後肢の間には袋がありその中に二匹から四匹の子を入れて運ぶ。

見つかるメスのほとんどすべてが袋の中に子を入れていることから、彼らはいつも妊娠しているに違いない。

原住民たちはクスクスを御馳走だと考えており焼くとウサギのような味がするという」

ひとえにクスクスといっても多くの種類がいますが、最大種のひとつはニューギニアに生息するクロフクスクス (Spilocuscus rufoniger) で体長が120センチ (そのうち尾は50センチ) もあります。

(クロクスクス)
(image credit by Sakurai Midori/Wikipedia)

次いでクロクスクスの仲間2種クロクスクス (Ailurops ursinus) とタラウドベアクスクス (和名が分からないので英名 Talaud bear cuscus をそのままカタカナ表記) (Ailurops melanotis) がクスクスの中の大型種といえます。

しかし、当然ながら大型のクスクスといえどファレンティンがいうような怪力を持ち合わせているわけもなく、未確認状態の生物にありがちな誇張された表現です。

こういったことからも報告されるほとんどのUMAが大柄かつ非常に危険な生物として描かれるのは理解できます。

しかしこのような誤った知識はときに思いがけない悲劇を生み出すことがあります。

世界動物発見史 (ヘルベルト・ヴェント著) によれば、19世紀に活躍した著名なイギリスの鳥類学者ジョン・グールド (John Gould) は、あろうことか移民目線でオーストラリアに生息する有袋類すべてを敵視してしまったのです。

「たとえばタスマニアデビルは獰猛で非常に凶暴だ。

それは少しでも破壊の衝動を満たす機会があればところかまわず羊の囲いを破り養鶏場を襲う」

「カンガルーは牧場を荒らす」

「フクロオオカミ (タスマニアタイガー) はオーストラリア産の全哺乳類中、最も危険だと言わねばならない、移民たちの家禽や家畜を台無しにしてしまうからだ。

必ず夜中に襲撃するので家畜を守るのは難しい。

その惨状があまりにひどいのでフクロオオカミは開拓者の最大の敵という評判をとっている。

だがそれを完全に撲滅するには多年を要するだろう」

この有袋類に対する容赦ないグールドの言葉は、もともとオーストラリアの野生動物に手を焼いていた「開拓者 (移民)」たちの不満を爆発させる要因の一つとなってしまいます。

結果としてタスマニアタイガーの末路はご存じの通り。

1906年の一年間だけで虐殺されたオオカンガルーは25万頭にも及び、信じられないことに、人畜無害に見えるコアラクスクスもそれぞれ20万頭、300万頭虐殺されたといいます。

その殺戮は凄惨で動物たちの飲水に青酸カリを、群れをなす動物たちには機関銃を浴びせたといいます。

ひどい話ですが、規模こそ違えどニホンカワウソニホンオオカミ等、日本でも同様の歴史が存在します。

さてそれから100年以上も経った現在、野生動物の保護も活発で安泰、、、たしかに多くの有袋類は保護の甲斐あって生息数も安定してきており、クスクスも同様です。

しかし上記に挙げたクスクスの大型種、特にインドネシアの諸島に生息するクロフクスクスタラウドベアクスクスはいずれも生息数がクリティカルで、まさに絶滅寸前です。

禁猟等、保護に動いているものの開発による生息地の減少ならびに食用としての密猟に歯止めが効かず、お手上げ状態のようです。

恐るべきUMAから実在の生物へ、そしてまたUMAへと還ってしまうかもしれません。

(参考文献)
世界動物発見史 (ヘルベルト・ヴェント著)

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1 件のコメント:

  1. 不思議の島のフローネに出てきたメルクルはクスクスだったのかな?子供心に謎生物だったなあ。サルだと思ってたな。

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