■あのステラ―が記したもうひとつの未確認生物 ~ ステラー・シー・ウルフ
史上最大のカイギュウ、ステラー・カイギュウ (Hydrodamalis gigas) の発見したことで有名な博物学者ゲオルク・ヴィルヘルム・シュテラー (Georg Wilhelm Steller)。
シュテラーが発見しシュテラーの名を冠した生物は他にステラー・シー・ライオン (Steller sea lion) ことトド (Eumetopias jubatus) がいます。
でもって、シュテラーが日記に記しその正体が分からないものが2つあり、ひとつは以前に紹介したステラー・シー・エイプ (Steller sea ape) ことステラー・ウミザル、そして今回紹介するのがステラー・シー・ウルフ (Steller sea wolf) です。
ステラー・ウミザルは実際にシュテラー本人の目で観察し日記に残したのに対し、ステラー・シー・ウルフは航海中に立ち寄ったロシアの地元住民から聞いたものです。
「もうひとつの巨大海生哺乳類はクジラに似ているがやや小型で、体の外周ももっとほっそりしている。
ロシア人はこれを『シー・ウルフ』と呼んでおり、イテリメン族は "plebun" と呼び、カムチャッカ川で目撃されるものについては "tsheshshak" と呼びわけているようだ。
残念ながらわたしの滞在中、その生物にめぐり合う機会はなかった。
この生物の肉や頬や顎、舌の部位、そして腸は食用として利用できるが、油脂はランプ等の燃料にしかならない。
この生物の油脂は水銀のようなもので食すと激しい下痢に襲われるからだ。
しかしイテリメン族はその油脂の性質を利用し、ひどい便秘の時にあえて摂取したり、時に楽しみのためそれを知らない人々にわざと食べさせたりしているという」
「シー・ウルフ (海のオオカミ)」の響きからくるオオカミ的な風貌の魚ではなさそうで、おそらくは未知・既知を問わず、クジラかイルカ、いずれにしてもクジラ類を指しているように感じがします。
「油脂を食すと下痢になる」という点から、マッコウクジラを筆頭にハクジラ類の脳油 (鯨蝋) を食すと下痢を引き起こすこと、またイテリメン族がそのシー・ウルフを "plebun" と呼んでいましたが、現在ロシア語で "plebun" はマッコウクジラを指すといったことからマッコウクジラ (Physeter macrocephalus) の可能性が考えられます。
しかし、シー・ウルフが他のクジラより「小型」でほっそりした胴回りというのはハクジラ類最大のマッコウクジラに当てはまりません。
その大きさはいくつかのヒゲクジラ類には負けてもハクジラ類では最大種でありオスは18メートル、最大個体であれば20メートルを超すとまで言われています。
「小型」と呼ぶにはあまりに大きすぎます。
脳油の取れる他のハクジラの仲間かつ生息域から、アカボウクジラ (Ziphius cavirostris)、ツチクジラ (Berardius bairdii)、コマッコウ (Kogia breviceps)、オガワコマッコウ (Kogia sima) らも候補に入れておきましょう。
(参考文献)
An Introduction to Marine Mammal Biology and Conswervation
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