2019年9月28日土曜日

アンドリュー・クロスのダニ発生器


アンドリュー・クロスの不思議なダニ

アンドリュー・クロスの不思議なダニについて話す前に、この話を理解したもらう都合上、どうしても生命誕生の神秘を理解してもらう必要があります。

なんとか我慢して読んでください。

地球という惑星が誕生して間もないころ、生命の源となる「有機物」は地球上に存在していませんでした。

当初、有機物は生物しかつくれない化合物と考えられていましたが、1955年、シカゴ大学のユーリー  (Harold Urey) とミラー (Stanley Miller) による実験で、自然下でも無機物から有機物がつくられることが実証されました。

ユーリーたちの実験同様、雷や隕石の衝突、海底の熱水噴出等、莫大なエネルギーによって分子間の化学反応が促進され、原始地球に有機物が誕生します。

この生命の源ともいえる有機物から、地球最初の生命、単細胞生物が生まれます。

この時点で地球誕生から5億年ほどの年月を費やしており、この単細胞生物だけの時代は、この後、約25億年という気の長い年月を延々と続けます。

そして、はじめて多細胞生物が現れるのは、地球が生まれて30億年目、多細胞生物っつっても、まだまだ原始的で単純な構造の生物ばかりです。

今回の主役であるダニが含まれる節足動物が現れるのはまだまだ先の時代ですです。

節足動物が現れるのは、アノマロカリスやオパビニアなどでおなじみの、いわゆる「カンブリア大爆発」と呼ばれる時代まで待たなければいけません。

カンブリア大爆発が起きたのは今から5億7千万年前、つまり、地球が誕生してから約40億年目、生命が誕生してから約35億年目です


やっと本題に入れます。

1784年、イングランドのサマセット (Somerset) に生まれたアンドリュー・クロス (Andrew Crosse) は、幼少より好奇心が強く、幾多の科学実験をして少年時代を過ごしまが、正式に科学を学んだ経験はなく、いわゆるアマチュア・サイエンティストというやつです。

マッド・サイエンティストとして描かれる傾向のあるクロスですが、それは後世、オカルト系の雑誌や本などで勝手につくられたイメージといえるでしょう。

彼の運命を変えた実験は、1836年、クロス52歳の時に行われました。

クロスはそのとき、燬焼 (きしょう) フリントと炭酸カリウムでつくったガラスを、塩酸で溶かした液体に電気を流し、人工ガラスの結晶を得ようとする実験をしていたといいます。

実験を開始して14日目、電気を通している石に白くとても小さな突起物を数個発見しました。

その白い突起物は日に日に成長しているようで、実験を開始して26日目、ついに完全な「虫」の形を形成し、その数日後、この「虫」たちは自由に動き回り始めました。

すなわちそれはダニ (コナダニ) だったというのです。

クロスはガラスの結晶を得る実験は成功しませんでしたが、思いもかけず「ダニの創造」、つまり生命の創造に成功しました。

ダニは節足動物であり、いうまでもなく、単細胞生物よりもずっとずっと複雑な体の構造を持つ多細胞生物です。

冒頭で原始地球の歴史で読んでもらったとおり、単細胞生物から始まり、地球誕生から40億年という長い進化の旅をを経て、節足動物が誕生しました。

ユーリーらの実験で、原始大気から「生命の源となる有機物」をつくるのに成功したことはすでに書きましたが、「生命」を誕生させる実験は成功していません。

もし、実験で生命が誕生するとすれば、やはり単細胞生物の中でも原始的な細胞を持つ生命体 (原核生物) であり、節足動物が突如出現するということはあり得ません。

しかし、クロスの場合、有機物どころか、単細胞生物のステージもすっ飛ばし、一気に「節足動物の創造」に成功したことになります。

これは無茶な話ですが、自然発生説もまだ信じられていた時代で、かつダーウィンの「種の起源」が発表されるのはもう少し先ですから、クロスを責めるのは酷というものです。

ふつうに考えて、実験に使った器具に最初からダニの卵が付着していたか、もしくは実験途中でダニが紛れ込んだかのどちらかしかありません。

もちろんクロスもそう考えなかったわけではありません。

クロスは、ダニが絶対に紛れ込まないよう細心の注意を払い、再度の実験を試みました。

しかし、2度目の実験でもまたもダニが創造されたのです!

これは明らかに実験器具の洗浄の失敗等によるものでしょうが、クロスはそうは考えませんでした。

2度の実験で自信を得たクロスは、この「事実」をレポートにまとめ「電気学会」に送付しました。

この時代といえども、いぶかしく思われたであろうクロスのレポートですが、却下されることはなく、建築家ウィリアム・ヘンリー・ウィークス (William Henry Weeks) によってクロスの実験は検証されることになりました。

当然、ダニが創造されるはずはないのですが、悲しいかな、ウィークスの検証にてもまたもダニが発生しました!

また、当時は少ないながらもクロスの実験結果を支持する科学者もおり、その中には「ファラデーの法則」で著名な科学者、マイケル・ファラデーもいました。

科学の教科書にも載っているファラデーなら大丈夫でしょう、クロスが間違っていることを証明する最後の砦です。

しかしです、ファラデーも実験の結果、

クロスの偉大なる発見を確認した

との発表をしました。

すなわち、ファラデーをして、またもダニが発生したというわけです。

クロスが偶発的に考案したこの「生命創造装置」、とにかくダニばっかり発生するため「ダニ発生装置」というべきかもしれません。

しかし、ダニが紛れ込まないよういくら細心の注意を払っても、この実験を行うと誰がやっても必ず侵入する恐るべき「クロスのダニ」、装置よりもむしろこのダニが神秘的であるといえるでしょう。

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