アメリカ、ワシントン州のセント・ヘレンズ山 (Mount St. Helens) は1980年5月18日に大噴火を起こしました。
標高2,950メートルから2.549メートルと一気に約400メートルも山頂部分は吹き飛び、山の形が変形してしまったほどのとてつもない大爆発でした。
9時間に及ぶ大噴火により、高速道路298キロ、線路24キロに渡って破壊される甚大な被害をもたらしましたが、噴火直前の避難勧告が功を奏し、これだけ広範囲にわたって被害をもたらした割には死者・行方不明者が57人と最少人数といっていいほどに抑えられました。
しかし避難勧告など通じない野生の動物たちはその限りではありません。
犠牲となったクマやシカといった大型哺乳類が7,000匹前後、魚類に至っては12,000万匹を超えたと推定されています。
こういった大きな天災が起こると、不謹慎ながら、被災した地域に訪れようとする輩が増えるのは古今東西、不変のようです。
つまりは、この大噴火後にセント・へレンズ山付近に野次馬が増えました。
犠牲者も出ていることからおそらく若い世代を中心に「肝試し」的な要素が高かったことも推測されます。
心霊体験を味わいたくて廃墟、特に廃病院や廃校等へ友達同士で夜に車を走らせるのと同じです。
そういった若い世代の野次馬たちが増えると、セント・へレンズ山付近で「怪物」の目撃情報が散見されるようになるのは、もはは「必然」といっても差支えないでしょう。
噴火後、セント・へレンズ山近郊にはなにか超自然的な生物が生息していると噂が立ちます。
(オオコウモリの一種 (Cynopterus brachyotis) の赤ちゃん)
(image credit by Wikicommons)
しかし、その謎の生物に長い間、名前を付けられることはありませんでしたが、噴火から10年以上経過した1994年4月、決定的な目撃情報が得られます。
ブライアン・キャンフィールド (Brian Canfield) 氏による「怪物」の目撃、バッツカッチ (Batsquatch) です。
キャンフィールド氏の運転するトラックが不意に故障し、立ち往生したときのことです。
車から降りて修理しようとボンネットを開けると突然の衝撃音が響き渡ります。
車の上に見たこともない化け物がドーン!と降り立ったのです。
身の丈は9フィート (約2.7メートル) もある青白い体毛を持つ巨大な生物、コウモリのような翼をもっていたといいます。
場所はワシントン州のピアース郡 (Pierce County) であり、実際のところセント・へレンズ山とは地理的に少し離れていますが、バッツカッチはセント・へレンズ山のUMAと呼ばれています。
前述の通り、その生物はバッツカッチと命名されますが、コウモリ (bat) のような翼を持つサスカッチ (Sasquatch) を合成した造語です。
日本語では「バツカッチ」と発声したほうがサスカッチ的でいいと個人的に思うのですが、バッツカッチで広まってしまったので当サイトでもそれに従います。
サスカッチとは一般的に現カナダ領域のネイティブたちが呼ぶ謎の獣人系生物の呼称で、一般的にはビッグフット (Bigfoot) と同義と考えられています。
名前の一部こそサスカッチから授かっていますが、頭部は一般的なそれとは異なり、狼男的だったともいいます。
全体的な印象もコウモリよりも翼竜的だったという証言もありますが、コウモリが大きいと翼竜的なので、全体的な印象としては大して変わりないと思います。
2.7メートルという体高はUMAとしては特に大きくないですが、飛翔系の生物としてはとんでもない大きさです。
証言では翼開長 (翼を広げた時の大きさ) が50フィート (約15メートル) とも。
しかも鳥のような華奢な体格の生物であればともかく、ビッグフットにたとえられるほどの体躯を誇る2.7メートルの生物が空を舞うにはいったいどれだけ大きな翼を持てばいいのでしょう。
これ以降、バッツカッチらしき生物の目撃情報は数度ありますが、基本的にはキャンフィールド氏の目撃が唯一のバッツカッチ目撃事件といえます。
さすがに飛翔系UMAにしてはあまりに大きすぎることから、荒唐無稽であり、キャンフィールド氏のつくった完全なデマであるという見方も根強いUMAですが、その正体について考えてみましょう。
UMAファンとすれば一番の理想はキャンフィールド氏の目撃したような生物が実在するということです。
次が翼竜の生き残りといったところでしょう。
理想は理想として、もう少し現実的に考えてみましょう。
まず50フィート (約15メートル) の翼開長は厳しいです。
(キリンよりも背の高い翼竜、ケツァルコアトルスの実寸大モデル)
(Original image credit by Wikicommons)
史上最大の翼竜。ケツァルコアトルス (Quetzalcoatlus) ですら一般的に翼開長は10~12メートル、ロマンを求める最大見積りで18メートルぐらいといわれているぐらいです。
思いがけない車の故障、そして夜であったこと、それだけで気を動転させているはずで、神経が普段以上に鋭敏になっており恐怖が増して実際よりも大きく見えた、と考えてみたいと思います。
翼開長を無視したにしても体長9フィート (約2.7メートル) はかなり厳しい要件ですが、倍以上に見えたと仮定して実際は4フィート (約1.2メートル) 前後、と考えれば大型の鳥類であったり、大型のコウモリであったりとかなり範囲は広がります。
さらに、本当に降り立つところを見たのか、それとも車の上に乗っかているところをみて、上空から舞い降りてきたものと勝手に判断したのか、という点まで疑れば、そこそこ大柄な野生動物であれば、候補はかなり広がります。
とはいえ、有翼であることからやはり飛翔系の生物がいいでしょう。
キャンフィールド氏の証言がまったくのデタラメでなかっとしたら、サスカッチ (もしくはビッグフット) よりも狼男に似ているということからも、やはりその正体はオオコウモリである可能性が高いといえます。
Grey-headed flying fox (Pteropus poliocephalus)
(image credit by Wikicommons)
オオコウモリは英語でフライング・フォックス (Flying fox) 、つまり「空飛ぶキツネ」と呼ばれる程で、大柄であれば、バッツカッチの顔が「オオカミと似ている」という哺乳類的なのも理解できます。
但し、北米ワシントンにオオコウモリはもちろん生息せず、目撃するとすれば動物園や個人でペットとして飼っていたオオコウモリが逃げ出したもの、というかなり限定的なものになります。
但し、バッツカッチの目撃情報がキャンフィールド氏以外 (3例程度)、ほぼほぼないのも、アクシデントで逃げたたった一匹のオオコウモリをたまたま見たから、という解釈をすれば、好都合ではあります。
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