スコットランド西部のアーガイル (Argyll) 地方の湖にはちょっと風変わりなレイク・モンスターが目撃されます、ブーブリー (Boobrie) です。
まあレイク・モンスターとはいえ水棲ではなく、湖 (loch) もしくはその周辺に棲息しているという意味で、その姿は一般的には水鳥で、特にハシグロアビ (Gavia immer) を巨大化させたよう、と形容されます。
(ハシグロアビ)
獰猛な性質で、その巨体を保つために食欲は旺盛、ヒツジやウマといった家畜を襲って食べるといわれています。
とはいえ、シェイプシフターという時点でもはや実在する生物とは考えにくく、あくまで民間伝承上の生物です。
しかしこの生物はUMAとしても魅力的な一面を持ちます。
UMAの正体のひとつとして絶滅動物の生き残り説があります。
その多くは恐竜であったり、同時代の大型海生爬虫類や翼竜、その後に現れた太古の哺乳類と敷居の高すぎるものが多い中、ブーブリーのそれはついこの間、19世紀半ばまで実在した生物、オオウミガラスです。
一般的にブーブリーはオオウミガラスの生き残りとは考えられていませんが、この水鳥が元になっているといわれています。
オオウミガラス (Pinguinus impennis) はペンギンによく似たウミスズメ (Alcidae) の仲間で体長は80センチ、5キロもあり空を飛ぶことはできませんでした。
(おそらくオオウミガラスの絶滅前に描かれたと考えられている絵)
(image credit by Wikicommons)
数百万羽ととてつもない数が棲息していましたが、ドードー (Raphinae) さながら人間に対する恐怖心を全く持たず、また飛べないことからヨーロッパ人たちに狩られまくり瞬く間に数を減らしていきました。
人間の手の届く範囲にいるオオウミガラスはすべて狩られましたが、四方が絶壁で波が強く人間が近づくことのできないゲイルフグラスケル島 (Geirfuglasker) のオオウミガラスたちだけはなんとか生き残りました。
しかしここでも彼らは運がありませんでした、海底火山の噴火により島が沈んでしまい、近くのエルデイ島 (Eldey) に「強制移住」することを余儀なくされたのです。
しかしここは人間の手が届く島でした。
(ドードー)
とはいえ、最後の最後まで保護の手を差し伸べられることはありませんでした。
現在であれば保護する立場にあるべき博物館もその希少性から高値で標本の取引をもちかけ、オオウミガラスの絶滅へ拍車をかけました。
一攫千金とエルデイ島に群がるヨーロッパ人たち。
残念ながらまだそういう時代だったということ。
絶滅した日がはっきり判明している生物も稀にありますが、オオウミガラスはその最期の個体を「狩った」人物たちの名がわかっている珍しいケースです。
シーグルズル・イスレイフソン (Sigurður Ísleifsson) 氏とジョン・ブランソン (Jón Brandsson) 氏、そしてケイティル・ケティルソン (Ketill Ketilsson) 氏の3人のアイスランド人船乗りたちです。
1844年6月3日、抱卵中だった最期のつがいはシーグルズル氏とジョン氏によって絞め殺され、卵はケイティル氏によって踏み潰されました。
後にシーグルズル氏とジョン氏は武勇伝さながら自慢げにインタビューに答えてしまったため、歴史にその名を遺しました。
まあ最期はたまたま彼らが殺したというだけで、特別に悪いというわけではないのですけどね。
とはいえ、今では地球上でもっとも自然に優しく動植物にフレンドリーな国のひとつであるアイスランドですから、果たしてかれらのことをどう思っていることやら。
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