アメリカ、ユタ州にあるパウエル湖 (Lake Powell) にはレイク・モンスター、スキン・フィン (Skin Fin) なる怪物が棲んでいるといわれています。
からだはゾウのようにどっしりとした巨体、その背にはサメを思わせる大きな背ビレ、またマナティのようなウチワ状の大きな尾ビレを持ちます。
これぐらいの特徴であれば良かったのですが、やっかい (?) なのはもうひとつの特徴、獣脚類 (ディプロドクス、アパトサウルス等) を思わせる長大な首と頭部を持つということです。
ゾウの体にサメの背ビレとマナティの尾ビレをつけ、獣脚類の首、なんていうと随分と珍妙な姿になってしまいます。
おそらくはバラバラに目撃した複数の証言をひとつの生物として特徴を付け加えていったためハイブリッド化してしまったのでしょう。
さてスキン・フィンの有名な目撃事件を見ていきましょう。
1958年8月、11歳のエリック・パジェット (Eric Padgett) 少年が父ハワード・パジェット (Howard Padgett) さんの運転するボートにけん引され水上スキーを楽しんでいたときのことです。
後ろを振り向いては息子の位置を確かめながらボートを運転していた父親の視界に奇妙なものが紛れ込んできたのです。
息子の背後に現れた「それ」は流木や岩といったものではなく、間違いなく生き物、そうスキン・フィンだったのです。
しかも悪いことにスキン・フィンは少年を猛追しているように見えました。
慌てたハワードさんはボートの進路を変え、息子をスキン・フィンから引き離そうとしましたが、うまくいきません。
怪物は大きく口を開け鋭い歯を見せながら同じく進路を変えて執拗に追いかけます。
当の本人であるエリック少年はスキン・フィンに全く気付いていなかったといいます。
しかし尋常ではない父親の運転にただならぬ気配を察知し、自分がいま危険な状態であることに気付きました。
父親は息子と怪物の間に割って入るようにボートを急旋回させ、ロープを引いて急いで息子をボートに乗せました。
怪物はボートの手前までくるも、「獲物」が視界から消えてしまったためか、そのまま湖に沈んでしまいました。
いったいなんだったのか?
スキン・フィンの特徴のひとつである「長い首」というのを除けばマナティーのような気がします。
(マナティー)
(original image credit by Wikicommons)
しかし実際のところユタ州の河川にアメリカマナティー (Trichechus manatus) は生息しておらず、今回の大口を開け鋭い歯を見せながら泳ぐ、というのもマナティーにできる芸当ではありません。
それでは別のめぼしい候補は?
エリック・パジェット少年がスキン・フィンに襲われた数か月後の1959年2月、見慣れない奇妙な生物の死骸がパウエル湖の湖岸に打ち上げられていました。
体長4フィート (約1.2メートル)、体重40ポンド (約18キロ)。
鑑定のため、スミソニアン博物館に送ったところ、なんとその生物はブラックティップ・シャーク (Blacktip shark) と鑑定結果が出ました。
ブラックティップ・シャークとはメジロザメ科のツマグロ (Carcharhinus melanopterus) の英名です。
ツマグロの成体の体長はせいぜい1.6メートルほど、公式的な最大記録は2メートル、13.6キロというのがありますが、恐ろしく稀なようです。
さて問題はツマグロは北米沿岸には生息していないということ。
(カマストガリザメ)
(image credit by Wikicommons)
おそらくはもうひとつのブラックティップ・シャーク、カマストガリザメ (Carcharhinus limbatus) のことを指していると思われます。
こちらもメジロザメ科のサメで通常では大きくても2メートルぐらい、最大2.86メートルという記録があります。
さすがメジロザメ科のカマストガリザメ、淡水に強い!と思う人もいるかもしれませんが、オオメジロザメ (Carcharhinus leucas) こそ淡水である川や湖を自由に行き来できるものの、メジロザメ科ならなんでも淡水オッケーではありません。
(完全淡水性のガンジスメジロザメ)
(image credit by Wikicommons)
他に完璧に淡水に順応したガンジスメジロザメ (Glyphis gangeticus) や成体になるまでは汽水や川で生息するノーザン・リバー・シャーク (ギャリックガンジスメジロザメ, Glyphis garricki)、スピアトゥース・シャーク (Glyphis glyphis) がいるものの、こちらはむしろ特異体質。
ガンジスメジロザメはインドの北東部の河川に生息し最大2メートルに、ノーザン・リバー・シャーク、スピアトゥース・シャークはオーストラリア北部およびパプアニューギニアの河川や沿岸部に生息しそれぞれ最大2.5メートル、2.6メートルとかなりの大きさに成長します。
ツマグロにしてもカマストガリザメだとしてもやはり生息域は汽水域程度までで湖まで遡上できるものなのかと疑問ではあります。
てか、この親子の話、全部でっち上げじゃないの!?そもそも親子は実在するの!?という疑いもあるかもしれません。
実はこの親子は完全に実在し、事件から約50年経った2005年、58歳になったエリックさんはこの事件についてインタビューを受け回想しています。
「昨日のことのように覚えてますとも。
父が『怪物が口を開けて追いかけてきてるぞ!』と叫んでいたので、ボートに引き上げられるまで後ろを振り向くことはできませんでした。
ボートに乗ってはじめてヤツの方を振り向いたのです。
真っ黒でヌメヌメしていたのを覚えています。
その後、謎の生物が岸に打ち上げられ、スミソニアン博物館がカマストガリザメと鑑定したのは知っています。
博物館がそう鑑定するのだからスキン・フィンの正体はそうなのかな、最初はそう思いました、でもそれはどうなんだろうって思っているんです。
わたしを追いかけてきたのは哺乳類だったと思ってるんです、そしてそれはおそらくカワウソであったとわたしは確信しています」
(遊泳中のカワウソ、口を開けていると怖いです)
しかしその後成人し警官となったエリックさん、子供時代の思い出は大きくなるどころかしぼんでしまい「常識的」で「合理的」な思い出に変貌してしまったようです。
水面上に頭部を出し口を開いたままサメが泳ぐとは思えませんし、エリックさんの言うようにカワウソだったかもしれません。
しかし水上スキーを追いかけるほどカワウソが速く泳げるのか?というと少々疑問では残ります。 (カワウソの遊泳速度は10~12キロほど)
(参照サイト)
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