2022年8月19日金曜日

シェークスピアにも登場する首無し民族 ~ ブレムミュアエ

(original image credit by Wikicommons)

■シェークスピアの「オセロ」にも登場する首無し人間 ~ ブレムミュアエ

"それからまた、互いに食い合う食人種、
アンスロポファジャイ族や首が肩の下についている
土人の話などいたしました。こうした話を
デズデモーナはいつも熱心に聞きたがりまして、"

(ウイリアム・シェークスピア『オセロ』の第一幕、第三場「会議室」より)

この一説は三上勲さんによる翻訳版からのもので、不適切用語 (差別用語) が含まれていますが、原文のまま載せます。

訳注に「『アンスロポファジャイ族』とはギリシア語源で人食いのこと。」とあり、プリニウスの「博物誌 (Naturalis historia)」から引用した旨が記載されています。

今日のお題はこのアンスロポファジャイ族 (Anthropophagi) こと「ブレムミュアエ (Blemmyae)」の話です。

ブレムミュアエとは簡単に言うと「首がなく、顔が胸にある民族」のことで、トップ画像のようものが典型的な姿です。

(original image credit by Wikicommons)

ブレムミュアエの元となったのはヘロドトス (紀元前五世紀) の「歴史 (Histories)」に登場する "Androphagi" と考えられ、上記の通りプリニウス (紀元前一世紀) に受け継がれますが、このことからも紀元前から伝わる、それこそ歴史のある「謎の民族」であることがわかります。

ブレムミュアエは、英語で「ヘッドレス・メン (Headless men)」、ギリシア語では「アケパロイ (akephaloi)」と呼ばれ、「頭のない人間 (クビ無し族)」とか「クビのないヤツ」を意味します。

頭 (首から上) こそないものの、顔は人間でいう胸部から腹部の広い領域に存在します。

「耳」はあったりなかったりで、多くのバージョンでは耳を持たず、それゆえ、ブレムミュアエは耳が聞こえない、もしくは大変耳が悪い、と形容される場合もあります。

紀元前から特に中世にかけて、文献やアートにおいて多くのブレムミュアエが登場し、毛深いものや身長が10フィート (約3メートル) あるもの、好戦的であるもの等、性格やその姿にばらつきはあるものの、とにかく「頭がなく胸に顔がある民族」というのがひとつの決まり事といえます。

ブレムミュアエはシェークスピアのように「人食い」であり、野蛮な人種として描かれることが多いですが、とてもジェントルマンであり、礼儀正しく、いかなることにも怒りを露わにしないため、それゆえ搾取される存在である、という正反対の特性を持つものもあります。

(original image credit by Wikicommons)

古来より特に中世には広くその存在がある程度信じられていた民族ですが、過去も現在も、そんな民族が存在したという明確な証拠はありません。

ブレムミュアエの存在は、そのほとんどが実際に見たものではなく伝聞によるものであり、つまりは現在でいう都市伝説的に近い存在といえます。

現在でも何らかの不思議なものを「目撃した」という噂を聞きつけると、「それ」が存在しなくても「思い込み」により目撃情報が爆発的に増えるのとあなじ現象でしょう。

ブレムミュアエ目撃される (された) 地域はアフリカ (古代リビア、エチオピア) が主であるものの、南アジア (インド、パキスタン) から南米まで広く分布します。

ブレムミュアエの存在は、一部を除いてそのほとんどが西欧の人々によって語られ、言い方を変えれば西欧にのみ存在していない、つまり自分達以外の民族と言えるかもしれません。

これは中世の西欧民族が抱いた未踏の地域に住む民族への侮蔑・偏見や畏れ、そして無知が創り出した民族ともいえます。
  
ブレムミュアエの正体として挙げられるのは、なんら自分たちと変わらぬアフリカの部族たちです。

肩を怒らせ頭部を下げて前進する様や、顔を模した縦を前面に構えていたり、もしくは胸部・腹部に顔の模様をペイントしている姿を、そういった民族が存在する、という先入観からブレムミュアエとして誤認したのではないか、との説もあります。

また、首が肩の高さよりも下げる (猫背になる) ことができる類人猿も候補に上がります。

(チンパンジー (Pan troglodytes))
(image credit by Wikicommons)

上述した通り、ブレムミュアエにはバラエティがあり、例えば毛深いもの、そうでないものがあるように、類人猿の誤認であったり、部族の誤認であったりと、その正体も同一でない、もしくは複合されている可能性も考えられます。

そんなただの部族や類人猿をブレムミュアエと見間違えることがありえるのか?と思もかも知れませんが、ダイオウイカカスザメが擬人化されたこともある中世であれば、十分その可能性もありえるのではないでしょうか。(「ポーランド王に謁見した謎の司教と魚のハイブリッド生物 ~ ビショップ・フィッシュ」参照ください)

(その正体はカスザメか?ダイオウイカか?ビショップ・フィッシュ)

いずれにしても現代においてブレムミュアエの伝説は消えてしまいました。

首無しの人類、消えてしまうのも当然と言えば当然、必然とも言えます。

とはいえ、魅力に溢れるブレムミュアエ、その存在がそのまま消えてしまったのはとても残念なことです。

しかし、今でも似たようなものがアメリカでときおり目撃されます、有翼である点は異なりますが、そう、それはみなさんご存じのモスマンなんかも形を変えたブレムミュアエといえるかもしれません。

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