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2020年2月22日土曜日

長江の女神はまだ絶滅していないか ~ ヨウスコウカワイルカ


■長江の女神はまだ絶滅していないか ~ ヨウスコウカワイルカ

2006年、旧サイトで「ヨウスコウカワイルカが絶滅」という記事を書きましたが、これは長江全域の大掛かりな調査でヨウスコウカワイルカがただの一頭も発見されなかったことから絶滅が宣言されたからです。

しかし、翌年、ヨウスコウカワイルカとおぼしき生物が撮影され、絶滅を免れている可能性が示唆されました。

ヨウスコウカワイルカ (Lipotes vexillifer) とは揚子江 (長江) に生息する淡水性のイルカです。

カワイルカは他にインドのガンジス川やインダス川に生息するインドカワイルカ (旧サイトでガンジスカワイルカインダスカワイルカを別種にしていましたが1種とします)、アマゾン川流域に生息するアマゾンカワイルカ (ピンクイルカ)、ラプラタ川流域に生息するラプラタカワイルカが存在します。

ラプラタカワイルカは汽水域や海洋にも出ますが、他のカワイルカは一生淡水の河川で過ごします。

(ヨウスコウカワイルカ (奥) とスナメリ (手前))
(image credit: Wikicommons)

逆に、コビトイルカがアマゾン川に、スナメリが揚子江に、カワゴンドウ (イラワジイルカ) がガンジス川に、といったように海洋性のイルカが河川に住み着くものもいます。

カワイルカの仲間の外観的特徴はいずれも細長い口吻 (こうふん) を持つことでしょう、ラプラタカワイルカに至っては体長の15%が口吻で占められるほどです。

また生息する河川は濁っていることが多いため、目は退化し非常に小さいという特徴もあります。

また、シロイルカ (ベルーガ) やカワゴンドウなど、一部の鯨類 (イルカとクジラは同じです) を除き、頸椎 (けいつい) が融合しているため、鯨類は首を自由に動かすことが出来ませんが、カワイルカの仲間はすべて頸椎が融合していないため、他の哺乳類同様、自由に首を動かすことが出来ます。

さて主役のヨウスコウカワイルカ、中国も1980年代から保護に動いていたものの、1990年代で既に500頭以下、21世紀に入るとその数は100頭以下というか数十頭と推測され、生息数の減少に歯止めがかからなくなっていました。

近年の中国の急激な経済発展に伴う長江流域の水質汚染、チョウザメ漁の混獲による巻き添え、急増した船舶との衝突等、数えるほどしか生息していないヨウスコウカワイルカにとってこの状況はかなり厳しい状況です。

ここに出てくるチョウザメ漁ですが、こちらのシナヘラチョウザメ (Psephurus gladius) もつい先日絶滅が宣言されたばかりです。

(シナヘラチョウザメの記事はこちらをどうぞ)

こうなってくるとヨウスコウカワイルカを救うために人間ができる残された手段は人工繁殖しかありませんが、生態がよくわかっていないこともあり飼育は困難を極め、幾度と挑戦しましたがすべて繁殖に至ることはありませんでした。

そして2006年の絶滅宣言に繋がるというわけです。

2007年、そして2016年と絶滅の宣言以後も長江のヨウスコウカワイルカらしき生物が目撃されています。

仮にそれらがヨウスコウカワイルカであったとしても、これほど目にする機会が減ってしまったことを考えれば種を維持するには絶望的に数が少いであろうことは明らかです。

まとまった数の目撃がない限りヨウスコウカワイルカの絶滅は免れることはないでしょう。

中国の民間伝承によれば、強欲な祖父と暮らす若く美しい女性が、彼女の人身売買を企む祖父の手から逃れようと長江に身を投げヨウスコウカワイルカに生まれ変わったといわれています。

それ故、ヨウスコウカワイルカは「長江の女神」と謳われ平和と繁栄の象徴的存在を担ってきました。

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