■湖底に眠る財宝のガーディアン ~ チチカカオレスティア (Titicaca orestias)
アステカ帝国がエルナン・コルテス (Hernan Cortes) 率いるスペイン人の侵略を受け滅亡してまもなく、インカ帝国も同じくスペイン人、フランシスコ・ピサロ (Francisco Pizarro) の侵攻を受け滅亡しました。
ピサロはインカの皇帝、アタワルパ (Atahualpa) を人質に取り身代金として国中の金銀を要求し、また強奪の限りを尽くした末にアタワルパを殺害します。
伝説によれば、このときにスペイン人の手に渡った財宝は、実は僅かなもので、残りは聖なる湖、チチカカ湖 (Lago Titicaca) の湖底深く沈めたといわれています。
さて、このチチカカ湖、標高3800メートル以上という恐ろしく高いところに位置しながら南米最大の湖でもあります。
富士山よりも高い標高に海のように広がる巨大な湖が存在するのはとても不思議な光景です。
この特異な環境のため、この湖固有の生物は少なくありません。
今回はその中のチチカカオレスティア (Orestias cuvieri) を取り上げます。
チチカカオレスティアはこの湖やボリビアの一部の淡水湖にのみ生息するオレスティアと呼ばれるカダヤシの一種です。
カダヤシと聞くとメダカサイズのものを思い浮かべると思いますが、チチカカオレスティアはカダヤシとしては規格外の30センチ近くまで成長しました。
上向きの大きな口に体長の1/3近くを占める大きな頭部、やや奇妙な姿をした魚ですが魅力的なのはその体色です。
緑味を帯びた美しい黄金色、若魚のころは黒い斑点があるものの成長と共に消えうせ、成魚となると鮮やかな黄金色に輝いたと形容されます。
インカ帝国の莫大な金銀財宝が眠るといわれるチチカカ湖に、全身黄金色の魚が泳いでいるというのはロマンチックです。
しかしかつてこの地にスペイン人が突如侵攻してきたようにチチカカオレスティアにも悲劇が訪れます。
1937年、アメリカ政府がレイクトラウト (Salvelinus namaycush) をチチカカ湖に放流してしまったのです。
体長にしてチチカカオレスティアの3倍以上に成長するレイクトラウト、閉ざされた湖に、在来種よりも遙かに大柄な魚を放流すれば結果がどうなるかは火を見るよりも明らかです。
チチカカオレスティアの運が悪かったのはそれだけではありません。
レイク・トラウトの生息域はチチカカオレスティアと同じ、比較的深い水深 (水深30メートル前後) を好むことだったからです。
チチカカオレスティアは今まで見たこともない巨大な魚と生存競争を強いられることになったのです。
が、勝負はあっけないものでした。
レイクトラウトの放流からわずか10年足らずでチチカカオレスティアはもうほとんど見られなくなったからです。
おそらく1940年代後半~1950年代の初め頃に絶滅もしくはそれに近い状態であったと推測されています。
そして1962年、チチカカ湖で行われた大がかりな調査の甲斐虚しく、チチカカオレスティアはただの1匹も捕獲されることはなく正式に絶滅が確認されました。
一説には500万年もの間この地で繁栄していたといわれる黄金の魚は、外来種の放流からたったの10年あまりでチチカカ湖から、そして地球上から完全に姿を消してしまいました。
(参考文献)
失われた動物たち
(参照サイト)
The Extinction Website
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