■猛毒伝説は本当か? ~ セアカゴケグモ
独りの女性がひどく落ち込んだ様子で公演のベンチに座っています。
少しやつれてはいますが目鼻立ちの整った若く美しい女性です。
心配になり思い切って話しかけてみると、つい先日結婚したばかりなのに旦那さんに先立たれてしまったというのです。
それは落ち込むはずです。
おそるおそる旦那さんの身になにが起きたのか尋ねてみると、空腹のあまりついつい殺して食べてしまったというのです。
さて今回はセアカゴケグモ (Latrodectus hasseltii)。
ヒアリに続けとばかり、猛毒の外来種でマスコミがバンバン取り上げたおかげで一般的にもかなり浸透しました。
タランチュラコモリグモの記事でも少し触れましたが、セアカゴケグモという和名はこのクモの英名レッドバック・ウィドウ・スパイダー (Redback widow spider) を直訳したもので、「旦那さんに先立たれてしまった背中の赤いクモ」の意味です。
ちなみに英語圏では単にレッドバック・スパイダー (Redback spider) と呼ばれるほうが一般的です。
セアカゴケグモの「ゴケ」とは差別用語 (不適切用語)に指定されている「後家」さんのこと、つまり「旦那さんに先立たれてしまった女性」のことです。
この名はセアカゴケグモのメスが交尾後にオスを食べてしまい、自作自演で「後家」さんになってしまうことに由来します。
メスは体長1センチほどありますが、オスはわずか3ミリ程度しかなく襲われたらひとたまりもありません。
ただし、伝えられるほどメスに捕食される率は高くないといいます。
セアカゴケグモはオーストラリア原産の毒グモですが現在では世界中にその生息域を拡大しつつあり、日本各地でも繁殖が確認されています。
猛毒を有しており、特に日本では当初「咬まれれば死ぬ」ぐらいの勢いで報道されていましたが、本当でしょうか?
セアカゴケグモの毒はゴケグモ属 (ラトロデクトゥス, Latrodectus) から見つかったα-ラトロトキシン (α-Latrotoxin) という神経毒です。
毒性がかなり強いのは本当で、セアカゴケグモに咬まれ実際に死亡した人も存在するといわれています。
しかし、セアカゴケグモのふるさと、オーストラリア本土では年間推定1万人ほど咬まれているものの、現在では血清も存在し死に至るほどの重篤な患者は出ていません。
(背中の赤い砂時計マークが特徴)
ちなみに北米原産のゴケグモの仲間、クロゴケグモ (Latrodectus mactans) はセアカゴケグモよりも遥かに危険で、血清が存在しなかった時代には60人以上の死者を出したといわれています。
しかしそれも1930年代以前の話で、現在では健康な成人が咬まれて命を落とすことはまずないといわれています。
クロゴケグモの特徴は背中の赤い砂時計マーク、セアカゴケグモより一回り大きく1.3センチほどに成長します。
クロゴケグモについてはそのうちいつか紹介するのでこの辺で。
セアカゴケグモ、クロゴケグモ共に現在では致死性の毒グモではありませんが、毒性が強い事実に揺るぎはなく、咬まれないよう気をつけるに超したことはありません。
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