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2019年10月2日水曜日

すべすべ饅頭殺人事件 ~ スベスベマンジュウガニ


■猛毒 ~ スベスベマンジュウガニ

今回は日本ではわりと知名度の高いスベスベマンジュウガニAtergatis floridus)。

というか、日本でだけ知名度の高いカニと言ったほうが適切かもしれません。

甲羅の大きさは最大で幅5センチほどまで成長するようですが、概ね小型で、色も地味なため、普段はあまり目立ちません。オウギガニの仲間であることから分かるとおり、甲羅は丸みを帯びた愛らしい扇形をしています。

― 有名なのは見た目ではなく毒 ―

(スベスベマンジュウガニ)
(image credit: Wikicommons


少なくとも、この見た目では有名になるようなカニではありません。では、なぜこれほど知名度が高いのか。それは、まず「毒」を持っていることでしょう。

本種はフグ毒で有名なテトロドトキシンや、麻痺性貝毒のサキシトキシンなど、複数の猛毒を体内に蓄えています。これで毎年のように誤食による死者や中毒者が出るのであれば、有名になっても不思議ではありません。ところが、実はそんなこともないのです。

結局のところ、完全に「和名」と「特性」が乖離(かいり)していることから来る知名度と言っても過言ではないでしょう。

スベスベマンジュウガニという、まるでファンタジーの国からやって来たような、あるいは和菓子屋の看板メニューのような名前をしていながら、実は致死性の猛毒を持つ有毒生物なのですから。

― そもそも、なぜそんな名前なのか ―


ちなみに、この絶妙なネーミングを付けたのは、日本の動物学の父とも呼ばれる箕作佳吉(みつくり かきち)博士だと言われています。

彼がこのカニを見たとき、あまりの「すべすべ感」と「饅頭のようなフォルム」にインスパイアされ、命名したとか。当時、博士がこの名がのちに「毒の代名詞」として愛されることになると予想していたかは定かではありません。

― 実は、本当に覚えるべき「危険なカニ」 ―


さて、現実的な話をしましょう。少なくとも日本では、スベスベマンジュウガニを食べて死亡した例は確認されていません。

日本における「毒ガニ」の真の脅威といえば、同じオウギガニの仲間であるウモレオウギガニZosimus aeneus)やツブヒラアシオウギガニPlatypodia granulosa)です。

こちらには実際に死亡事例があり、毒性も非常に強力。正直なところ、スベスベマンジュウガニを頭にインプットするくらいなら、こちらのカニを覚えておいたほうがよほど実用的ですが、おそらく名前すら聞いたことがない人がほとんどでしょう。

海外に目を向ければ、スベスベマンジュウガニによる誤食死亡例の記載もあります。ただ、本当に本種によるものなのか、それとも同定が難しいオウギガニ科の別種によるものなのかは、情報が少なすぎて判断できません。

いずれにせよ、磯で見かけても間違って食べないようにしたいものです。

スベスベマンジュウガニ史上初の日本人死者として、歴史に名を刻むだけでなく、死んだ上に全国で笑いものになるという、不本意な二重の代償を払うことになりかねませんから。

(国立科学博物館にて)


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