2019年10月3日木曜日

不死身伝説は本当か? ~ クマムシ


■不死身伝説は本当か? ~ クマムシ

不死身生物の代名詞といえるクマムシ

世界で350種類ほど知られる緩歩動物門 (かんぽどうぶつもん) という、独自の門に属し、体長は1ミリにも満たない小さな生き物です。

日本では「クマムシ」ですが英語圏では「ウォーター・ベア (water bear)」、つまり「ミズグマ (水熊)」といいます。

「緩歩」というだけあり、4対8本の太い足でノソノソとクマのように歩きます。

さて、クマムシの不死身さを表現するものとして、よく以下のような環境に耐えられるというのを目にします。

・ほぼ絶対零度 (マイナス273度) の低温から150度の高温
・人間の致死量の1000倍以上の放射線 (57万レントゲン)
・真空
・極度の乾燥

そしてもっともクマムシを有名にしたのが、最後の「極度の乾燥」に付随する「120年の眠りから復活した」というものです。

まず、ここで勘違いしてならないのは、平和そうに歩いているクマムシを捕まえて、絶対零度や150度の高温環境にぶちこめば速攻で死にます。

クマムシが上記のような極限環境に耐えるには、クリプトビオシス (クリプトバイオーシス, cryptobiosis) という状態になっている必要があります。

クリプトビオシスとは、クマムシの生存に適さない乾燥状態に陥ったときに、クマムシが縮んで「樽型 (たるがた)」に変形することをいいます。

この状態にってはじめて通常 (生身) の状態では耐えられない極限環境に耐えられるようになります。

このクリプトビオシスが奇妙なのは、代謝を落として微量な生命活動を行っているのではなく、「まったく代謝を行っていない」つまり「一切の生命活動を停止している」状態だからです。

まったく生命活動を行っていないのですから「生きている」とはいえませんが、水をかければ生命活動を再開するわけですから「死んでいる」わけでもありません。

クリプトビオシス」という言葉はこの状態をうまく言いえており「隠された生命」という意味です。

ちなみに、クリプトビオシスクマムシだけの専売特許ではなく、ワムシセンチュウ (線虫) などもこの能力を持っている生物として知られています 。

さて本題の「120年の眠り」ですが、これはいろいろな文献で以下のように書かれているのを目にします。

博物館で120年間保存されていた苔の標本に水を与えたところ、乾燥した苔と共に (偶然に) 保存されていたクマムシ (クリプトビオシス) が直ちに生命活動を開始した。クマムシは数分動き回ったものの、その後すぐに死んでしまった

この120年の眠り伝説は明らかに1つの事例なのですが、水をかけた後の「クマムシの状態」が文献によってバラバラ、からだが動いた、歩いた、活動時間も数分、一瞬、などなど。

これから導き出される結論はひとつ、書き手によって脚色されているということです。

では実際はどうなのでしょうか?

この「クマムシ120年の眠り復活レポート」の原文を読むと、

博物館で120年保存されていた苔の断片を湿らせたところ、苔に含まれていたクマムシのクリプトビオシスの足が、水分を与えた数日後に動いたように見えた

というものです。

キーワードは「動いたよう見えた」の部分で、ここが多くの書き手によって脚色されたのです。

歩いたなどというのはまったくの脚色で、そもそもクリプトビオシスから復活したかどうかすら怪しいところです。

実際のところ、クマムシクリプトビオシスが耐えうる年数は通常は数年~数十年といわれています。

数年かぁ~たいしたことないなぁ~、なんて思う人もいるかもしれませんが、クマムシの寿命を考えると、これはタイプスリップに値するすごいことなのです。

クリプトビオシスにならずに活動状態のクマムシの寿命は3ヶ月から半年ほどです。

これを人間に置き換えてみましょう。

仮にクマムシの寿命を半年とすると、その半年は人間の平均寿命に換算して80年に相当します。

クリプトビオシスの耐えうる年数を仮に10年とすると、寿命の20倍となります。

人間で言うと、80(年)×20(倍)=1600(年) と言い換えることが出来ます。

つまり、10年の眠りから目覚めたクマムシは、人間であれば1600年後の世界にタイムスリップしたことになります。

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(参考文献)
クマムシ?! 小さな怪物」 鈴木忠著
極限の生物たち」 太田次郎著 (絶版)
へんな虫はすごい虫 もう“虫けら”とは呼ばせない!」 安富和夫

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