北米のフロリダを中心に生息するクロアリ属のフォルミカ・アルクボルディ (Formica archboldi) は「首狩りアリ」として知られます。
殺したアリの首を勲章さながらに巣に飾るのですが、よりによってその狩りの対象は敵に回したらもっとも厄介なアリのひとつ、アギトアリ (Odontomachus) の仲間です。
アギトアリは英名をトラップ・ジョー・アンツ (trap-jaw ants「罠のアゴを持つアリ」) といい、トラバサミと形容される180度に開く強力かつ巨大なアゴを有します。
(アギトアリの一種)
(image credit by Steve Shattuck/ Getty/ COSMOS)
この強力なアゴは攻撃用としはもちろんのこと、天敵に追い詰められた際は地面に勢いよく打ち付けることによって自身を空中に舞い上がらせ、窮地を脱することも可能です。
この強力なアゴに加えお尻には毒針も隠し持ち、かつ大柄な体躯、全身凶器と言えるアギトアリにタイマンで勝てるアリはそうそういません。
しかしこのアギトアリよりも遥かに小さく、目立った武器も持たないように見えるフォルミカ・アルクボルディがいかにしてアギトアリを狩るというのでしょう?
実ははっきりとは分かっていません。
しかし、ノースカロライナ州立大学の生物学者であるエイドリアン・スミス (Adrian Smith) 氏の説明では、フォルミカ・アルクボルディを含むヤマアリ属がディフェンス用に用いる蟻酸を噴出する能力をフォルミカ・アルクボルディはオフェンス用として利用しているからだといいます。
これで完璧でしょうか?
どうもそうは思えません。
強力なアゴや毒針に加え、圧倒的体格差のあるアギトアリの巣に近づこうものなら、あっという間に複数のアギトアリに囲まれて為す術なく狩られてしまうでしょう。
しかしこれに対しても対策されている可能性があるようです。
スミス氏によれば、フォルミカ・アルクボルディの体表から得られる炭化水素の臭いは、同地域に生息するアギトアリとまったく一致するというのです。
アリは視覚ではなく臭覚で仲間を見分けます。
つまり、フォルミカ・アルクボルディは臭いで擬態することによりアギトアリがうじゃうじゃいる中にでも何食わぬ顔で紛れ込むことが可能かもしれないのです。
仲間のふりをして近づき、突如として牙を剥く。
アサシン (暗殺者) 的ハンティング。
とはいえこの「蟻酸スプレー」と「臭いによる擬態」によりアギトアリを狩っているという証拠は得られておらず、あくまで可能性に過ぎません。
スミス氏はむしろ「臭いによる擬態」はハンティングのためではなく、サムライアリからのディフェンスのためではないかと推測しています。
サムライアリは働きアリやサナギを奪い奴隷として働かせますが、この奴隷狩りの対象はヤマアリ属のみであり、上述の通りヤマアリ属の一種であるフォルミカ・アルクボルディにとってサムライアリは最強の天敵だからです。
アギトアリの臭いに偽装することによりサムライアリの寄生の対象から外れることができます。
「臭いによる擬態」はディフェンスのためかオフェンスのためか、それともどちらもか、それは分かりません。
しかし、いずれにしてもフォルミカ・アルクボルディがアギトアリをどうにかして狩っているのは事実です。
フォルミカ・アルクボルディはこの厄介なアギトアリを狩ると頭部を切断し巣の入り口に戦利品さながら飾ります。
これにより巣自体がアギトアリの巣と擬態している、もしくは少なくともヤマアリ属の巣でないと勘違いさせることができるかもしれません。
が、もともとフォルミカ・アルクボルディの身体からアギトアリの臭いを発していることを考えると、なぜ巣の入り口にまでわざわざアギトアリを並べる必要があるのか?
さらに言えば、死骸をそのまま並べるのではなく胴体から首を引きちぎり頭部だけ (引きちぎっていないものもあります) をなぜ並べるのか?
フォルミカ・アルクボルディが発見されたのは1958年、当時からアギトアリの首刈りは確認されていたものの研究はされていませんでした。
フォルミカ・アルクボルディの研究は始まったばかり、近いうちに全容が解明されるかもしれません。
(参照サイト)
NATIONAL GEOGRAPHIC
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