殺人アリと恐れられるヒアリ (red imported fire ants) ですが、その毒性に誇張はあるものの日本での生息域の拡大は決してうれしいものではありません。
(ヒアリについてはこちらの記事をどうぞ)
北米もあっという間に生息域を拡大していったので日本もそうならないとは限りません。
北米にヒアリが爆発的に生息域を拡大した原因のひとつに、天敵の少なさが上げられます。
北米にはアリクイのようなアリを捕食する大型哺乳類もいなければ、ヒアリを攻撃する昆虫もほとんどいません。
そこでヒアリの撃退に注目されているのがノミバエの一種 (Pseudacteon) です。
ノミバエと聞いてもピンと来ないかもしれませんが、一般的にコバエと総称される小さなハエを想像してもらえば遠からずです。
非常に獰猛なヒアリたちですが、自分たちの頭程度の大きさしかないこのノミバエが頭上を飛び回るだけで巣はパニック状態に陥ります。
あるものはでたらめに逃げまどい、あるものは巣穴に逃げ込み、死んだ振りするものすらいます。
ヒアリよりも小さいノミバエは腕力でかなうはずもないですが、唯一ヒアリよりも秀でている点があるとすれば、それは飛翔できることです。
この敏捷性を生かし、ヒアリの背中に降り立つや、電光石火のごとく背中に産卵管を刺し卵を産み付けます。
卵を産み付けられたヒアリの人生はこれにて終了です。
ノミバエの幼虫が卵から孵ると、これからしばらくのあいだ住居となるヒアリの頭部に移動します。
ノミバエの幼虫は、ヒアリの頭部の組織を食べすくすくと育ちますが、寄生生物の神業で、ヒアリの日常生活に影響を与えないよう上手に食べ進みます。
ノミバエの幼虫にとって、ヒアリを殺すことなど造作もないことでしょうが、生かしておくことで利点があります。
まずは常に新鮮な組織を食べ続けることができます。
そしてもうひとつ、ヒアリを襲う物好きはそうそういないため、生きているヒアリの体内にいる限りとても安全だからです。
しかしそれもノミバエの幼虫がサナギになる2週間ほどの猶予期間だけです。
サナギになる準備を始めるころにはヒアリの頭部内はすべてどろどろに溶かされ、体とかろうじて繋がっているだけのものになります。
そしてノミバエの幼虫がサナギになるころ、かろうじてくっついていた頭部もポロリと地面に転げ落ちます。
これこそノミバエが「アリを斬首するハエ (ant-decapitating flies)」と呼ばれるゆえんです。
サナギから孵ったノミバエの成虫は、物言わぬヒアリの口から外界へと飛び立ちます。
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