社会性を営む昆虫の仲間には、巣の防衛・繁栄のためであれば惜しげもなく自らの命を巣に捧げるものがいます。
ミツバチのように命と引き換えに敵に強烈な毒を注入するものもいれば、戦闘時、毒腺を破裂させ敵もろとも爆死するアリ(※1)やシロアリ(※2)もいます。
(※1ジバクアリを参照。※2ムヘイシロアリを参照)
南米ブラジルに生息する フォレリウス・プシルス (Forelius pusillus) というアリはそういった中でも特異な自己犠牲を発揮します。
社会性昆虫の自己犠牲は基本的に敵と直接対峙したときのディフェンス時に発揮されますが、フォレリウス・プシルスは敵と対峙していないにも関わらず発揮されます。
このアリは毎夜、巣穴を塞 (ふさ) ぎ外側から見てもどこに巣穴があるか見分けが付かないほどにしてしまいます。
しかしどんなに熟練した技能を持っていようと、巣の内部 (地中) からの作業だけでは単に穴を塞ぐことは出来ても「外側からどこに巣穴があるか分からないほど綺麗に」塞ぐことは不可能です。
方法は一つ、外に出て作業をする以外にありません。
数日間の観察によれば、巣の外での作業に任命された働きアリは最大1日当たり8名。
最長50分もかけて念入りに巣穴を塞ぎます。
さて、仕事も終わったし家に帰るか、、、とはいきません、たった今自分たちで唯一の出入り口を塞 (ふさ) いだばかりなのだから。
天敵が来たら逃げも隠れも出来ない巣穴の外で朝まで過ごさなければならないのですから大変です、、、なんて甘いものではありません。
観察期間中、巣の外で働いたアリはトータルで23名、そのうち朝まで生き残れたものはたったの6名。
サンプル数が少ないので正確な数値とは言えませんが6/23、生存率はわずか26%。
長く観察をすれば本来はもっと生存率が高いかもしれませんし、もっと低いかもしれません。
ですが、巣外で過ごすことが非常に危険であることだけは確かです。
そもそもなんで死んでしまうのかがよく分かっていませんが、朝までに糖質を使い果たしてしまう、体が乾燥してしまう、気温が低すぎる、年老いたものもしくは病気の働きアリが従事している、もしくはこれらの複合的要因、等の仮説が立てられています。
そもそもこのメンツがどうやって決定されているのかが分かりませんが、強制的に巣外に締め出されているとしたら人身御供 (ひとみごくう) ですし、自らがすすんでしているのであればほぼ自殺です。
確かに数百、数千という命を守るために、毎夜数匹の働きアリを犠牲にするだけでその確率が飛躍的に跳ね上がることを考えればコストとしては安上がりです。
似たようなことは現代の人間社会でも常時起きているのが現実ですが、それでもゾッとする「風習」です。
(参照サイト)
AAAS
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