■鹿を殺して血を食らう、吸血リス ~ フサミミクサビオリス
「腸 (はらわた) は喰われているのに肉は手つかずだ。
森の中でこういった死骸にたまに出くわすんだが、これこそヤツらの仕業さ」
無残に内臓をえぐり取られたシカの死骸を前に、ボルネオの原住民族のひとつダヤク族 (Dayak) のハンターが言います。
彼らがいう「ヤツら」とはこの地に生息する大柄なリスのことです。
このリスはシカを自らの力で仕留めると腹部に穴を開け、心臓と肝臓、そして意の内容物だけを食べるといいます。
その特異な食性からヴァンパイア・スクウィレル (Vampire squirrel)、つまり「吸血鬼のリス (吸血リス)」と呼ばれています。
食性はともかく、そもそも自分の何十倍もあるシカをリスが仕留めることなどできるのでしょうか?
ダヤク族のハンターはこともなげにこう言い放ちます。
「低木の枝に尻尾でぶら下がり、獲物が下を通るのじっと待つ。
獲物が通ったら素早く飛び移り頸動脈にかじりつくのさ、あとは獲物が失血死するのを待つだけだ」
このリスはシカだけでなく、家禽のニワトリなども襲うと言われており、やはり心臓や肝臓といった内臓のみを食べ肉には手を出さないといいます。
シカを狩るぐらいですからニワトリなど造作も無いことでしょう。
(image credit by Joseph Wolf)
さてこの恐ろしいリスらしからぬリス、実在するのでしょうか?
実はこのリス、ダヤク族の民間伝承に出てくる幻獣などではなく、ボルネオの低地原生林に実際に生息するリス、フサミミクサビオリス (Rheithrosciurus macrotis) のことです
フサミミクサビオリスは体長が35センチ程のある大柄なリスですが、尾の体積がその大柄な体の1.3倍もあります。
これはあらゆる哺乳類の中で「尾の比率が体に対しもっとも高い生物」として知られています。
リスのトレードマークのひとつである大きな尾がことさら大きなリスですから、かわいいことこの上ないシルエットでとても「吸血リス」には見えません。
(スローロリスとフサミミクサビオリスの剥製)
(image credit by Hanitsch, R)
実際フサミミクサビオリスは昆虫等の動物性のタンパク質は食べるものの、シカやニワトリを食べている姿は少なくとも科学者には確認されていません。
とても有り得そうにもない習性ですが、「絶対にない」と言い切れるほど十分にこのリスの生態が観察されていないのもまた事実です。
フサミミクサビオリスが生息する地域は人間が足を踏み入れるのも困難な地域であり、見かけること自体が非常に稀だからです。
シカやニワトリには悪いですが、その「野蛮な勇姿」を見てみたいものです。
(参考文献)
Tall Tales of a Tropical Squirrel
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