オーストラリア本土、タスマニア島にはブルドッグアリ (Bulldog ant) と総称されるミルメキア属 (キバハリアリ属) のアリが90種以上も生息しています。
和名のキバハリアリ (牙針蟻) からも分かる通り、大きな「牙 (大顎)」と「毒針」を持ち、さらに体も大きく獰猛なことで知られます。
ブルドッグアリの最大種ミルメキア・ブレビノダ (Myrmecia brevinoda) に至っては働きアリで3.7センチ、女王アリで4センチ以上にも成長します。
ブルドッグアリの最大の武器は大顎 (牙) ではなく毒針で、その毒性は昆虫界最強のひとつと考えられています。
さて今回の主役はブルドッグアリの中のミルメキア・ピロスラ (Myrmecia pilosula)、通常「ジャック・ジャンパー・アント (Jack jumper ant)」と呼ばれます。
ジャック・ジャンパーはブルドッグアリの中では小柄で1.0~1.4センチ、女王アリで1.6センチほどです。
まあ小さいと言ってもブルドッグアリの中で小さいと言うだけでアリとしては決して小さくはありません。
ジャック・ジャンパーは他にもジャンピング・ジャック・アント (jumping Jack ant)、ホッパー・アント (hopper ant) 等、飛び跳ねる系の異名をいくつも持つことからも容易に想像できる通り、とにかくジャンプを得意とします。
ジャンプするのは進路上に障害物があるときや獲物に攻撃を仕掛けるときで、最大で20センチの高さまでジャンプする能力を持ちます。
非常に視力が良いことから獲物を見つけるや、卓越したジャンプ力と優れた敏捷性で先制攻撃が可能です。
アリといえば小さいながら数の暴力で大きな獲物を陥落させますが、ジャック・ジャンパーは自分よりも遥かに大きな獲物にも単独もしくは数匹程度で襲いかかることができます。
それを可能とさせるのはやはり強力な毒と敏捷性。
巨大な獲物にも襲われる前に一気に距離を縮め、牙を直接獲物に差し込むや自らを固定させ、あとは毒針を差し込んで獲物を仕留めます。
この毒性、昆虫界だけならまだしも人間にも有効なことが厄介です。
実際、ジャックジャンパーによる死亡事故も発生しています。
特にタスマニア島におけるジャック・ジャンパーによる死亡事故はあらゆる野生動物、毒ヘビや毒グモ、スズメバチ、サメ、、、等の中でもっとも多いと言われています。
ジャック・ジャンパーによる死亡事故でもっとも古い記録はオーストラリア本土のニューサウスウェールズで起きた1931年のもので、成人2人、女児1人が犠牲になっています。
タスマニア島での死亡事故の記録は1963年のものが最も古く、その後ジャック・ジャンパーの死亡事故といえばそのほとんどがタスマニアでばかり起きています。
1980年~2000年の間で確実にわかっているだけでジャック・ジャンパーにより命を落とした人は4人。
この数は意外と大したことがないんじゃない?と錯覚してしまいそうですが、タスマニア島の人口がわずか50万人余りということを考えると非常に多い数です。
しかもこの数は確実にジャック・ジャンパーに刺されたと分かっているものだけであり、草むらなど歩いていて刺された場合、何によって刺されたのか特定するのは殆どの場合、難しいでしょう。
ちなみに死亡原因はアナフィラキシーショックで、そのほとんどはジャックジャンパーに刺されてわずか20分以内で命を落としています。
とはいえ、万一ヒアリのように日本に入ってきても必要以上に恐れる必要はないでしょう。
死に至るほどの重篤な症状に陥るのは極めて稀だからです。
一番いいのはジャック・ジャンパーがいそうなところは避けることですが、それがなかなか難しいといわれています。
というのもジャック・ジャンパーの巣は地下にありますが巣穴が目立たない作りになっている上、そもそもジャック・ジャンパーが巣穴からかなり遠くまで出歩く習性があるからです。
ただし2003年以降、確実にジャック・ジャンパーが原因と分かっている死亡事故は確認されていないといわれています。(他のブルドッグアリによる死亡事故はあり)
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これだけ大きいと目立つから駆除しやすそうかも。やりたくはないけどー!
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