■海底に生息する白いクワガタムシ ~ ウミクワガタ
「深海からの物体X」というB級ならぬZ級の映画がありますが、放射能に汚染された魚を食べたことにより嘔吐、その吐瀉物 (としゃぶつ) からクワガタが出てくるというカオスの金字塔的名シーンがあります。
なんで深海にクワガタいるんだよっ!と突っ込みたくもなりますが、あながちそれは嘘でもないかもしれません。
今回の主役は海底でひっそりと暮らす海のクワガタムシ、ウミクワガタ (Gnathiidae) です。
といっても昆虫が海底に生息するわけもなく、これはクワガタそっくりの等脚類です。
(image credit by Wikipedia)
等脚類と聞くと馴染みない人もいるかもしれませんが、陸生で言えばダンゴムシやワラジムシ、フナムシなど、海中であればみんな大好きダイオウグソクムシ (ジャイアント・アイソポッド) 等、誰でも知っている生物です。
ウミクワガタはオスのみが大きな顎を有しているのも本物のクワガタムシっぽく、種によってはかなり忠実にクワガタムシを再現しています。
ただし大きさは1センチを下回る (数ミリ程度) ミニチュア・クワガタムシです。
等脚目は7対の足 (付属肢) を持つため、昆虫のそれが3対であることを考えると倍以上になってしまいクワガタっぽくは見えないはずです。
しかしウミクワガタの頭部と第1胸節が癒合して付属肢1対が口器に、第7胸節の退化により付属肢1対が失われているため、足は5対しかありません。
さらに一番先頭 (頭部付近) の付属肢を温情で触角に見立ててもらい、お尻 (腹部) のへんちくりんな細長い器官に目をつぶっていただければ、4対8本の足をもつ白いコクワガタに見えないこともありません。
200種ほど知られるウミクワガタのうち、この写真ほど本物のクワガタムシに似るものがどれだけいるかは分かりませんが、「ウミクワガタ」とは的を射た名前です。
ところで英語圏では海の生物を「シー○○ (sea ~)」という名前で呼ぶことも少なくありません。
ウニをシー・アーチン (sea urchin 「海のハリネズミ」)、イソギンチャクをシー・アネモネ (sea anemone 「海のアネモネ」)、ナマコをシー・キューカンバー (sea cucumber 「海のキュウリ」) といった具合にです。
「○○の海バージョン (○○は陸生生物)」といった呼び名であり、ウミクワガタなんてうってつけでシー・スタッグ・ビートル (sea stag beetle「海のクワガタムシ」) と呼ばれていても不思議ではありませんが、いくら探しても見つからないので現時点ではそう呼ばれていないようです。
おそらくマイナーすぎて学名だけで呼ばれているみたいです。
日本からこの呼び名 (sea stag beetle) を広げていこうかと思います。
さてこのウミクワガタ、本家のクワガタそっくりなのは成体だけで、幼生時代は魚に寄生・吸血する姿も生態も全く異なる生物です。
昆虫のクワガタムシも成虫だけが大顎を持つという点も似ているといえます。
しかしこの雄姿、それほど長い期間見ることはできないようです。
オスもメスも成体になると絶食し、幼生期に蓄えた栄養のみで暮らすからです。
交尾し卵を産むとその役割を終え、やがて蓄えていたガソリンも切れると静かにその人生の幕を閉じます。
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