2019年9月29日日曜日

巨大ベレムナイト ~ メガテウシス・ギガンティア


■巨大ベレムナイト ~ メガテウシス・ギガンティア (Megateuthis gigantea)

落雷によって命を落とすのは、雷と共に降り注ぐ槍にからだを貫かれたためである、そう考えられていた時代がありました。

そんなバカな!しかし「証拠」はありました。

天から降り注いだ「サンダーボルト (thunderbolt, 「落雷」)」とか「サンダーアロー (thunder-arrow, 「雷の矢」)」と呼ばれた槍は落雷後、地中深くに埋もれていたからです。

そのことにより「落雷多発地帯」と呼ばれる場所も特定できました。

「サンダーボルト」がたくさん埋まっている場所が実際に存在したからです。

しかし、「サンダーボルト」は雷の化身ではありません。

人々が呼んだ「サンダーボルト」と呼ぶ槍、それはベレムナイト (belemnites) の化石のことでした。

ベレムナイトは恐竜と共に絶滅した現世のイカ (特にツツイカの仲間) によく似た姿の頭足類です。

姿は似ているものの、決定的に異なる構造を持っていたことが軟体動物でありながらたくさんの化石が残っている原因です。

(image by SpringerLink)

現在のほとんどのツツイカは、一部の例外を除いて外套部 (イカの筒状の部分) 内に半透明の平たい棒状の「殻」しか持っていませんが、ベレムナイトの外套の先端部には「グラディウス (gladius)」、つまり「短剣」なとも呼ばれる立派な殻が入っていました。

このグラディウス部分こそ、かつて「サンダーボルト」と呼ばれた槍の正体です。

中世では、このグラディウスを「サンダーボルト」の他に、「ゴーストのキャンドル (ghostly candles)」とか「ワイトのキャンドル (wight candles)」、「悪魔の指 (Devil's finger)」、「聖ペテロの指 (St Peter's fingers)」などと呼ぶこともありました。

ちなみに「ワイト」とは、妖精のような架空の生物で、ベレムナイトの化石が密集している場所は、「ワイトが宴を開いた跡」と考えたのです。

また、スコットランドでは民間療法として、ベレムナイトの化石を煎じて飲めば腹痛が治る、毒ヘビの解毒剤になる (それゆえ "snakestone" と呼ばれました)、馬の寄生虫に効くと考えられていた時期もありました。

なお、現時点で知られている最大のベレムナイトはヨーロッパのジュラ紀の地層から発見されたメガテウシス・ギガンティア (Megateuthis gigantea) で、化石部分は18インチ (約46センチ)、全体で3~4メートルもあったと推測されています

ちなみに、属名「メガテウシス」の「メガ (mega)」は「巨大」、「テウシス (teuthis)」は「イカ」という意味ですから、「巨大なイカ」を意味します。

恐竜が生きていた時代、とんでもない大きさの生物がいくらでもいたので、メガテウシス・ギガンティアもそれほど大きな生物には感じないかもしれませんが、ほとんどのベレムナイトは1メートルにも遠く及ばない中では規格外に大きな種です。

前述の通り、中世の人々は数センチサイズの「グラディウス」に対し「雷」や「悪魔」「ワイト」を関連付け想像を膨らませましたが、もし「メガテウシス・ギガンディア」の長大な「グラディウス」を目にしたらなにを想像したでしょう。

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