■体を全部食われた上に食ったヤツらを命懸けで守る ~ ブードゥー・ワスプ
今回は寄生バチ、ブードゥー・ワスプ (Voodoo wasp)。
マインドコントローラーの中でもかなり手の込んだ寄生生物です。
ブードゥー・ワスプとはニックネームで、グリプタパンテレス (Glyptapanteles) 属のコマユバチの一種です。
寄生バチは多く、特にコマユバチは5000種以上知られており、そのすべてが寄生生活を送ります。
グリプタパンテレスだけでも300種以上知られており、そのすべてが特異なマインドコントロール能力を有します。
さてブードゥー・ワスプのブードゥー (Voodoo) とはもちろんブードゥー教のことで、ブードゥー教由来の「生きる屍 (しかばね)」ことゾンビを意味し、ワスプ (wasp) は狩り蜂のこと、つまりはゾンビバチといった意味です。
ブードゥー・ワスプの獲物は蛾の幼虫で、マイマイガ (Lymantria dispar)、ナシケンモン (Acronicta rumicis) ヤガの一種 (Chrysodeixis chalcites) 等が知られています。
(マイマイガとブードゥー・ワスプの繭)
(image credit by Wikicommons)
メスのブードゥー・ワスプは目当てのイモムシを見つけると体内に卵を産み付けます。
もちろん毒を注入して殺したりはしません、これからこのイモムシが自分の子供たちの新鮮な食糧となってくれるだけでなく、この上ない素晴らしいボディーガードにもなってくれるからです。
その数100個弱。
イモムシの体内に産み付けられた卵はやがてイモムシの体内で孵化するとこれ以上ないほど新鮮なイモムシの肉を貪り喰いすくすくと育っていきます。
100匹近くのブードゥー・ワスプの幼虫に体内を食い荒らされるイモムシ、ブードゥー・ワスプの幼虫たちが蛹化 (ようか) する頃にはついにイモムシは力尽き絶命、、、しないのです。
イモムシは至って元気そうに見えます。
ブードゥー・ワスプの幼虫たちは2週間もの間イモムシを食べ続け、そして蛹化のためにイモムシの皮膚を突き破って外界へと出てきます。
出るは出るはその数80匹。
イモムシの肉を喰らい、イモムシの体内で外敵から守られ、あとは蛹になって成虫になるだけ、イモムシは用済みです。
これにてさすがのイモムシも絶命、、、しないのです。
まだまだブードゥー・ワスプはイモムシを利用します。
彼らはイモムシの体から這い出てくるとそのまますぐに蛹化の準備をはじめ蛹となります。
イモムシの体外に出て、蛹として全く身動きの取れないこの時期こそブードゥー・ワスプのもっとも無防備な状態です。
なんとイモムシはブードゥー・ワスプの蛹を外敵から守るため、その場を離れないのです。
肉を喰っただけでは飽き足らず、おまけにガードマンまでさせるのです。
ブードゥー・ワスプの蛹の近くでまるで死んだように動かないイモムシ。
しかしブードゥー・ワスプの蛹を狙う外敵が近づいてくるや頭を振って威嚇し追い払います。
イモムシガードマンがいるのといないのではブードゥー・ワスプの成虫率は2倍前後の開きがあるという研究結果もあります。
まるで母性を持った母親のよう、しかし守っているのは自分の体を2週間もの間貪り食った寄生虫の蛹、そして自らは蛹になる力は残っていません。
体外に出てまでもコントロールし続ける恐るべきブードゥー・ワスプ。
しかし一体どうやって?
その仕組みは完全には分かっていないものの、ブードゥー・ワスプの子供たちが一斉に蛹になっているとき実は1匹、もしくは2匹は必ずイモムシの体内に留まっていることが確認されており、彼らが兄弟姉妹の蛹を守らせる最後のマインドコントロールをしていると考えられています。
蛹からブードゥー・ワスプの成虫が出てくるころ、用済みとなったガードマンは今度こそ力尽きます。
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随分とエグい生き物がいるものですね
返信削除おっそろしい記事ですが「絶命…しないのです」でどうしても笑ってしまう笑
返信削除ナムさんの言い回し大好きです
いつもありがとうございます