CNNで話題になっているゾンビゼミ製造機、マッソスポラ・キカディナ (Massospora cicadina) です。
マッソスポラは13年ゼミや17年ゼミのいわゆる周期ゼミ (Magicicada) に感染する病原性真菌です。
(13年ゼミの一種 Magicicada tredecassini)
(image credit by David C. Marshall/Wikimedia)
今までも多くのゾンビ化系寄生虫や真菌を紹介してきましたが、ここでいう「ゾンビ化」は、寄生虫や真菌に体をのっとられ、かれらの意のままに操られること (つまりはマインドコントロールされた状態) を意味します。
寄生虫や真菌の宿主となった生物は多くの場合生殖能力を奪われるため、自らの子孫を残すことはできなくなり、寄生側の子孫を残すためだけに生き続けます。
マッソスポラも同様です。
マッソスポラはセミの体内に入ると腹部に収まり増殖を始めセミの体内を貪り食います。
感染したセミは一見したところではなんの不自由なく元気そうに見えます。
しかしそれはあくまで外見上の話、感染からわずか1週間で体の1/3以上は既にマッソスポラの胞子に置き換わってしまっており、生殖能力はとっくの昔に失われています。
生きた屍、寄生側の必殺技「生かさず殺さず」です。
そして更に病状が進行すると、その姿は誰が見てもおかしな姿になります。
胞子と化した腹部は徐々に徐々に削られていき、結局は胞子に置き換わっていた腹部1/3ほどがすべて脱落してしまいます。
しかし腹部が脱落する以前からすでに腹部は胞子に置き換わっていたので、付いていようが脱落しようがセミにとってはそれほど重要ではありません。
なので見た目は変わっても元気そのものです。
飛翔するときに体が軽くなった分、もしかするとバランスが悪くなったりする可能性もありますが特に大きな問題はないようです。
(マッソスポラに感染し腹部が脱落してしまった周期ゼミの一種)
(image credit by TelosCricket/Wikimedia)
脱落したセミのステージこそマッソスポラの真骨頂と言えます。
セミの腹部の断面は胞子で埋まり白くなっています。
このステージに達したゾンビゼミは「空飛ぶ死の塩入れ (flying salt shakers of death)」と呼ばれ、それこそ塩の瓶を降って塩を撒き散らすかのように飛翔しながら脱落した腹部から健康な仲間たちに向かって胞子を撒き散らし次々とゾンビ化させます。
まき散らす方法は効率はいいですが濃度が低く感染率は低いものとなります、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法です。
やはり感染率が最も高い方法は体が直柄s津触れ合う交尾です。
感染しているのがメスであればもちろん健康なオスをおびき寄せることが出来ますが、マッソスポラはさらに上手です。
感染したのがオスのセミであっても、メスの振りを (いわゆるメス化) させてオスをおびきよせ感染させることができます。
オスのカゲロウをメス化させるガストロメルミス (Gastromermis) や、同じくオスのカニをメス化させるフクロムシ (Rhizocephalan barnacle) など、寄生の世界では珍しいことではありませんがよくまあ「キノコ」がそこまでの能力を身に着けたものだと感心します。
マッソスポラにはいわゆるマジックマッシュルームの成分の一つで幻覚作用のあるシロシビン (Psilocybin) が含まれており、メス化の制御にもこれら化学物質が使われているであろうことは想像に難くありませんが、現時点では化学物質の特定には至っていません。
マッソスポラは一見するとセミたちにとってなんのメリットもない憎き天敵に見えます。
実際感染したセミにとってそれは間違いありません。
しかし、大量発生で知られる周期ゼミはマッソスポラのおかげで数がある程度抑えられることにより、自らの大量発生で木々をだめにしてしまう (幼虫が木の根から樹液を吸うため) こともまた抑えられているのでは?と考えられており自然界の微妙なバランスを感じます。
(参照サイト)
CNN
Cornell Mushroom Blog
Live Science
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周期ゼミに寄生するということは、すなわちこの菌類も周期的に活性化して、それ以外のときは休眠しているということですね。興味深いです。
返信削除そうです、13年と17年、セミの周期に合わせて寄生のタイミングが合うよう進化したみたいです。
返信削除あまりに寄生のサイクルが長すぎて後追いが難しく、はっきりと生態がわからないそうです。