今回はフクロムシ (Rhizocephalan barnacle)。
「フクロムシ」という可愛らしい名前ですが、かなりエグい寄生生物です。
その名の通り、袋のような姿をしていますが、実はカニやエビと同じ甲殻類でフジツボに近い生物です。
フクロムシは甲殻類に寄生する甲殻類で、特にカニに寄生するものが有名です。
フクロムシの成体は袋のような姿ですが、フジツボの仲間は岩場などに固着生活を始める前は自由に泳ぎまわることが出来る、ノープリウス幼生、キプリス幼生のステージを過ごします。
このキプリス幼生時にカニの体内に侵入し寄生生活をはじめます。
体内に侵入すると、植物の根が地面に根を張るがごとく、細い枝状の器官をカニの全身に張り巡らし、カニから栄養分を奪いつつカニの腹部に名前の由来ともなっている袋状の外套を発達させます。
フクロムシに寄生されるとカニは生殖機能を失いますが、メスのカニは自分の腹部にある「袋」を自分の卵と思い込んでいるためフクロムシは大事に守ってもらえます。
(image by YouTube "RAS Aquaculture")
問題はオスです。
フクロムシはカニの雌雄を見極めて寄生しているわけではないので、オスにも寄生してしまいます。
しかし、当然オスは卵を産みませんから、フクロムシが成長し腹部に袋状のものをつけようものなら異物と見なされて取り除かれてしまうでしょう。
しかしそうはなりません。
フクロムシに寄生されたオスは、脱皮を繰り返すごとにハサミは小さく、そして腹部が大きくなり、見た目も振る舞いもメス化していきます。
このような現象を寄生去勢 (きせいきょせい) といいます。
寄生去勢されたオスはもはやメスと同じ思考となっているので、腹部の袋を自分の卵のように大事に守ろうとします。
フクロムシに寄生されたカニは栄養を抜かれ寿命が短くなりそうなものですが、生殖能力を奪われているため、繁殖に使うエネルギーロスを抑えてしまうため逆に長生きします。
ただし、やはり栄養を抜かれている影響でしょうか、自切 (襲われたときに足を切って逃げること) した場合、再度足が生えてくることはないそうです。
フクロムシは雌雄同体ではなく、オスとメスの区別があります。
しかし、あの目に見えるフクロムシはすべてメスの体の一部で、オスは受精のためメスに同化し、その生涯を終えます。
さて、カニのおなかに見えている袋状の外套ですが、内部はほとんど卵巣で占められており、まさに子孫を残すために特化した体となっています。
未来の仲間の敵となる憎きフクロムシを、ゾンビ化したカニたちは我が子のように大事に大事に命の続く限り守り続けます。
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