2019年10月3日木曜日

寿命たったの30分 ~ 1時間ブヨ


■超短命! ~ 1時間ブヨ (1時間ユスリカ)

タイトルは「1時間ブヨ」ですが、実際はユスリカ (ウミユスリカ) の話です。

昆虫学者メイ・R・ベーレンバウムさんの「またまた99匹の跳ぶ、這う、かじる仲間」で「1時間ブヨ (Clunio marinus)」という名で登場しているので、そう呼ぶことにします。

見かけはふつうのユスリカと代わり映えしない1時間ブヨですが、2つの点で非常に興味深い生き物です。

まず1つ目、このユスリカはヨーロッパの海岸を主な生息地としており、昆虫でありながら幼虫は海水に生息する点です。(ウミユスリカの仲間は日本にも生息します)

そしてもう1点、おっそろしく短命であるということです。

1時間ブヨ」と呼ばれる所以は、成虫期間がわずか1時間程度しかないことに由来します。

1時間ブヨの仲間は亜種などを含め通常2~3時間、短命なものでは30分程度しか活動できる時間がありません。

この時間に血を吸ったりご飯を食べたりする時間は果たしてあるのか?と思う人も中にはいるかもしれませんが、ユスリカの仲間は蚊の仲間ではないので血を吸うことはありませんし、そもそもユスリカの成虫はなにも食べません。

仮に1時間ブヨに食べる能力があったとしても、タイムリミット30分ではとうてい食べているヒマなんてありません。

このわずかな時間で仲間と合流し、パートナーを見つけ、交尾・産卵を行わなければならないのですから。

婚活期間わずか30分です。

詳しいことは分かりませんが、この最短30分という寿命はメスの寿命で、オスはたぶんもうちょっと長いはずです。

ではどうしてそんなに短命なのか、というと、長くてもそれほど意味がないからです。

この1時間ブヨ、交尾を終えたメスが卵を無造作に海の中に産み付けるわけではありません。


1時間ブヨは干潮時に海底が現れたとき、その海底の海草に産卵しなければなりません。

1時間ブヨの生息するこの地、干潮時に海底が現れるのは2週間に一度のわずかな時間だけ、この時間めがけて1時間ブヨは一斉羽化しパートナーを見つけ、交尾・産卵を行わなければならないため短命なのです。

仮に1週間の寿命があったとしても、交尾後、海底が現れていない場合、海底が現れる数日の間、付近を飛んで待つしかありませんが、産卵する前に食べられてしまうリスクを高めるに過ぎません。

というわけで、成虫期間が長くてせいぜい1日~数日程度しかないユスリカの仲間ですから、寿命を2週間以上に伸ばすか、そうでなければうんと短くするかどちらかしか意味がありません。

十七年ゼミなどと同じように繁殖を分散するより集中した方が得策ということで短い方を選択し、寿命30分という究極的な短命のユスリカが誕生したのではないかと思います。 (たぶん)

(参考文献)
またまた99匹の跳ぶ、這う、かじる仲間 」(メイ・R・ベーレンバウム著)

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