■ゾンビ化の犠牲者ばかりではない!戦うイモムシ ~ ハエトリナミシャク
寄生バチや寄生バエによるイモムシへの寄生は凄惨なものが多いです。
体に卵を産み付けられたら一巻の終わり。
孵化した幼虫たちに体を体内から貪り食われるうえ、それどころかマインドコントロール (いわゆるゾンビ化) によりに死ぬまで寄生虫たちを守ろうとする姿は健気というか悲哀の極みというか。
チョウやガは成虫になれば翼を持ち捕食者からも逃げ回ることができますが、如何せんイモムシのときは草木の上を這いずり回るだけ、平和に草を食んでいるだけなので簡単に寄生されてしまいます。
弱いイモムシたちは擬態や毒を持つことでなんとか天敵の目から逃れようとします。
今回はやられてばっかのそんなイモムシ業界において異端児であるハエトリナミシャクを紹介しましょう。
カバナミシャク属 (エウピテシア,Eupithecia) は23,000種知られる (おそらくもっと多い) シャクガの仲間 (Geometridae) の最大のグループで世界で1,400種以上も知られています。
成虫は大きくても翼開長は3センチ程度、小柄で地味なものも多く、シャクガのコレクターでもない限り、あまり一般人の人目を惹く存在ではありません。
その99%は幼虫時代、花や種、そして葉といったイモムシと聞いてみんなが思い描く植食性、なんの不思議さも持ち合わせていない昆虫です。
ところがその例外のほんの僅かな4~5種 (?)、すべてハワイ諸島に生息するのですが、かれらは完全な肉食です。
ハエトリナミシャクの中で特に有名なものにエウピテシア・オリクロリス (Eupithecia orichloris) がいます。
幼虫の見た目はシャクガの仲間なので体型は細長く体長は2.5センチ程度、いわゆる日本語で「シャクトリムシ (尺取り虫)」と呼ばれる由来となった、体をアーチ状に曲げながら前進する独特な動きをする点も他のシャクガの幼虫と変わりません。
しかし彼らは他のシャクガの仲間とは全く異なる生態で、草の茎や葉、細い枯れ枝に擬態し、獲物が近づくのを待ちます。
(植物の茎だと思って通り過ぎようとしたら)
(背中がスイッチなので瞬殺)
(あとはゆっくりと生きたまま食べられるだけ)
(image credit by Nature on PBS)
背中の剛毛がトリガーとなっており、獲物が背中の剛毛に触れ刺激が伝わると0.1秒以下 (1/12秒) の超高速で3対の爪 (棘) のある胸脚でかっちりつ掴まえます。
獲物は小柄な昆虫、ハエ、コオロギ、クモ等で、ハチも捕食する可能性もあるといいます、というか背中の剛毛がトリガーなので自動でイッてしまうだけかもしれませんが。
振り向いたらとんでもなくでかいヤツが立っていて、返り討ちに遭うこともあるかもしれません。
視覚に頼らないため、光の全くない夜間でも狩りができる極めて有能なハンターです。
ハエトリナミシャクの爪は鋭く、昆虫の外骨格を突き破ることができるため取り押さえられると体格差が無い限り決して逃れることはできません。
ハワイ諸島においてハエトリナミシャクはその捕食方法から他地域のカマキリのニッチ (生態的地位) を占めていたともいわれますが、現在はハワイでもカマキリがいるようでこの先肉食性のハエトリナミシャクはどうなるでしょう?
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