■巨大吸血コウモリ? ~ ササボンサム(アサンボサム)
今回はササボンサム(Sasabonsam)、またの名をアサンボサム(Asanbosam)。
ガーナのアカン族(Akan people)に伝わる怪物で、ガーナ周辺のコートジボワールやトーゴなど、西アフリカ各地にも類似した伝承が残されています。
巨大なコウモリと人間、そして人食い鬼が混ざったような異形ですが、その正体を探っていくと、単なる「吸血コウモリ型UMA」では片づけられない奥深さが見えてきます。
― 巨木の上から獲物を待つ怪物 ―
ササボンサムという名前は、アカン語で悪魔や邪悪な存在を意味する「ボンサム(Bonsam)」に由来するとされます。
その姿にはいくつかのバリエーションがありますが、よく知られているのは、キツネのような頭部、赤みを帯びた体、巨大なコウモリの翼を持つ怪物です。
翼開長は20フィート(約6メートル)にも達するとされ、巨大な翼を広げて空を飛ぶという、まさに西アフリカ版の吸血鬼といったところです。
そして、この怪物を特徴づけるのが「足」です。
ササボンサムの足先は普通の足ではなく、鉄でできた鋭いフック、あるいは巨大な鉤爪になっていると伝えられています。
これを森の巨木の枝に引っ掛け、逆さ吊りになって獲物を待ち伏せするのです。
木の下を不用意に通った人間がいれば、頭上からフック状の足を伸ばして捕らえ、そのまま樹上へ引きずり上げる。
鬱蒼とした熱帯雨林の中で、頭上の枝から何かがぶら下がっていたとしても、気づくのは襲われる直前だったのかもしれません。
― 「コウモリ」と「人食い鬼」、2つの姿 ―
一方、ササボンサムには、これとは大きく異なる姿も伝わっています。
こちらはコウモリの特徴がほとんど排除され、ヨーロッパでいうオーガ(Ogre)のような、巨大で痩せたヒューマノイドとして描かれます。
赤い肌、血走った目、長い髪を持ち、足が前後両方を向いているという奇妙な特徴まで語られています。
人間を捕まえて貪り食うという性質も共通しており、こちらは吸血鬼というより完全な人食い鬼です。
さらに地域によっては、20フィート(約6メートル)にもなる生きたニシキヘビのような尾を持つともいわれます。
姿形は随分と違いますが、どちらのタイプにも共通するのが、鉄の歯や鋭い牙、そして鉤爪です。
人間に友好的な存在ではないことだけは、どうやら一貫しています。
― 木々の間に潜む「森の番人」 ―
ササボンサムは、単なる怪物として恐れられていたわけではありません。
アカン族の伝承においては、森林の奥深くにある、人間がむやみに踏み込んではならない領域を守る存在とも考えられていました。
特に巨大なシルクコットンツリーなどの巨木と結びつけられ、森を荒らす者や禁忌を破る者を罰するとされます。
木々を休ませる日とされた木曜日に森を荒らす者を襲う、といった伝承もあり、そこには自然に対する畏怖と社会的な規範が重ねられています。
また、ササボンサムは魔女(Obayifo)や悪霊的な存在と結びつけられ、ときには彼らの支配者とも考えられました。
つまりササボンサムとは、森の中に棲む巨大生物であると同時に、人間が越えてはならない境界そのものだったのでしょう。
― 「空飛ぶ怪人」の目撃談 ―
(キツネの顔を持つことを拒否したウマヅラコウモリ)
(image credit : Wikicommons)
では、UMAとしての目撃例はどうでしょうか。
海外のクリプティド資料には、20世紀初頭の西アフリカで「フライング・ヒューマノイド(空飛ぶ怪人)」を見たという記録が紹介されています。
1918年または1928年のものとされるこの目撃談では、身長5フィート6インチ(約167センチ)以上の人型生物が、20フィートほどもある巨大な翼を広げていたといいます。
黒と白の斑点模様の皮膚、ニワトリの胸のような筋、長い顎髭、突き出した鼻を持ち、当時地元で作られていたササボンサムの木彫り像にそっくりだったとも証言されています。
さらに1939年には、雑誌『The West African Review』に、ハンターたちがササボンサムを追跡し、最終的に仕留めたという記録が掲載されたとされます。
ただし、これらは現代の動物学的な調査によって確認された標本ではなく、あくまで伝承・目撃記録として扱うべきものです。
それでも「森に怪物がいる」という昔話だけではなく、具体的な姿を持った生物として語られている点は興味深いところです。
― オオコウモリなら説明できるのか? ―
さて、ここからはUMAとしてササボンサムの正体を考えてみましょう。
まず思い浮かぶのは、やはりオオコウモリです。
「キツネの頭」と「コウモリの翼」という組み合わせは、実はそれほど奇妙ではありません。
英語圏ではオオコウモリをフライング・フォックス(Flying fox)、つまり「空飛ぶキツネ」と呼ぶことがあるからです。
つまり「空飛ぶキツネ」という実在の動物が、伝承の中で巨大化し、怪物へと変化した可能性は十分に考えられます。
西アフリカにもエジプトルーセットオオコウモリ(Rousettus aegyptiacus)やウマヅラオオコウモリ(Hypsignathus monstrosus)が分布しています。
ただし、前者の翼開長は2フィート(約60センチ)ほど、後者も3フィート(約90センチ)ほどで、翼開長6メートルというササボンサムとはあまりにも大きさが違います。
しかもウマヅラオオコウモリは、その名の通り馬のような顔をしています。
体格の面でも顔つきの面でも、ササボンサムそのものとは言い難いでしょう。
― 吸血コウモリのイメージはどこから来た? ―
もうひとつ気になるのが「血を吸う」という特徴です。
現在知られている1400種以上のコウモリのうち、血液を主食とするチスイコウモリは、ナミチスイコウモリ(Desmodus rotundus)、ケアシチスイコウモリ(Diphylla ecaudata)、シロチスイコウモリ(Diaemus youngi)の3種しか知られていません。
しかも、いずれも人間の手のひらに収まる程度の大きさです。
つまり、コウモリ全体から見れば「吸血するコウモリ」は極めて少数派です。
それでも西洋ではコウモリと吸血鬼が強く結びついていますから、ササボンサムの「血を吸う巨大コウモリ」というイメージも、こうした文化的な連想によって強化された可能性はあります。
― 新種の巨大オオコウモリなのか ―
しかし、既知の動物に当てはめようとすると、ササボンサムはどうにも収まりが悪い。
オオコウモリなら「翼」と「キツネの顔」は説明できますが、6メートルという巨大な翼開長や鉄のフック、鉄の歯、人間を樹上へ引きずり上げるという習性までは説明できません。
かといって、オーガ型のササボンサムを実在の動物として考えれば、今度は人間に近すぎる姿が大きな謎になります。
そう考えると、ササボンサムは生物学的なUMAというより、森そのものに対する恐怖が具象化された存在なのかもしれません。
それでも、もしこの怪物の「コウモリ」という部分だけが現実の生物に由来しているのだとしたら――。
深い森のどこかには、まだ人間が知らない巨大なオオコウモリが潜んでいるのかもしれません。
夜の熱帯雨林で、巨大な翼を持つ何かが頭上を横切ったとき、私たちはそれを「怪物」と呼ぶでしょう。
そして、その正体を確かめる前に、森の闇へ消えてしまうのでしょう。
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