■1年のほとんどをずっと寝て過ごすカエル ~ コーチスキアシガエル
ダライアス・コウチ (Darius N. Couch)。
彼はアメリカの軍人で南北戦争では北軍の少将でしたが、彼の名を持つカエルがいます、黒米に生息するコーチスキアシガエル (Couch's spadefoot toad) で、学名にスカフィオプス・コウチイ (Scaphiopus couchii) とちゃんとコウチ少将の名が入っています。
なぜかというと、実はコウチ少将は軍人にして博物学者でありり、このカエルの標本をはじめて発見したのは彼だったため献名されたのです。
このカエル、体長は最大9センチほどになる大柄なカエルで、英名のスペードフット (スペード状の脚) というのは後肢が鍬 (スペードとは「鍬 (すき)」のこと) のような形状になっていることに由来します。
地中棲のカエルで1年の10ヶ月ぐらいを土の中で暮らします、暮らしているというか寝ています。
早起きの場合は8ヶ月ぐらいのものもいるようですが棲息地やその年の気温等にも左右されるようです。
とにかくよく寝ます。
活動期間は雨期の僅かな期間のみ、この期間で交尾、産卵を済ませないといけません。
雨季と気付くやオスは目覚め地上へと向かい、水たまりを確認するや鳴いてメスを起こします。
この中に産卵し、オタマジャクシになってもらって、さっさとカエルになってもらわないといけません。
なにせこの水たまり、雨季にできた一時的なものですぐに干上がってしまいます。
速攻で産卵まで済ませないといけません。
オスの号令でメスも眠い目をこすりながら土から這い出てくると交尾を済ませその一時的に出来た水たまりに産卵します。
地中棲のカエルの中には卵の中でオタマジャクシのステージを過ごし、孵化と同時にカエルとして登場するものもいますが、コーチスキアシガエルの卵から孵るのは残念ながら通常カエルと同様、オタマジャクシです。
雨季と言えどいつ欲し上がってもおかしくないただの水たまり、ここに産卵するというのだからこのカエル、度胸があります。
通常のカエルだと卵から孵化する間に数日要し、さらにオタマジャクシからカエルになるまで早くて1ヶ月ぐらいかかり、合計で40~60日ぐらいかかってしまいます。
基本、オタマジャクシは鰓呼吸なので絶対に水が必要です。
ということは最低でも1ヶ月、できたら2ヶ月は水たまりがないと全滅してしまいます。
ですがこの雨季でできた水たまり、雨季と言えど安定して雨が降ってくれない場合、カエルになる前に干上がってしまいます。
というわけで、コーチスキアシガエルは産卵からカエルになるまでのスピードを大幅に短縮することに成功、その速さは尋常ではなく産卵から最短7~9日で肺呼吸できる成体へと成長します。
そんなギリギリの生活しないで永続的に水のある沼や池に卵を産めばいいのに、と思いますが、このいつ干上がるかもしれない水たまりも悪いことだけではありません。
沼や池と比べ、水の量が格段に少ないことから水温はあっという間に上昇し、代謝が高まることでオタマジャクシの成長速度が加速、オタマジャクシの期間は無防備であり短いに越したことはありません。
また、一時的にできた水たまりには魚類等が棲息しているはずもなく天敵の数も池や沼と比べ圧倒的に少ないという利点があるんですね。
この短い期間に1年分の食事を一気に平らげたら、あの「スペードフット」で穴を掘ってあとは寝るだけです。
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子孫を増やすため『だけ』に生きてる感がある蛙ですね
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