カゲロウは「儚 (はかな) さ」の象徴です。
というのも成虫の寿命は短いもので数時間程度、あっという間に死んでしまうからです。
これはあくまで成虫での生存期間で、幼虫の時代は半年以上あるため、昆虫としては決して寿命が短いわけではありません。
とはいえ、成虫になって飛び立つやすぐに死んでしまうことに変わりはなく、やはり人間の目から見れば儚い生物に映ります。
さて今回の主役、寄生線虫ガストロメルミス (Gastromermis) はそんな儚きカゲロウに寄生する鬼のような寄生虫です。
この線虫は本来メスのカゲロウに寄生しないとライフサイクルを全うできません。
というのも、カゲロウのメスは川の水面から顔を出した石に産卵するのですが、この産卵時にガストロメルミスはメスのカゲロウから這い出てきて、卵に乗り移り卵から孵るカゲロウに寄生するからです。
いっぽう、オスは交尾という役目を全うした後、川に向かうことなくそのまま草むらに落っこちてあっけなく死んでしまうので、オスに寄生していたガストロメルミスはそのままカゲロウと運命を共にし、ライフサイクルを全うできず終焉を迎えることになります。
予めメスに寄生すればいいのですが、その能力はありません。
そこでガストロメルミスの考え出したのが「オスのメス化」です。
フクロムシと同様の宿主操作です。
(フクロムシの詳細はこちらの記事をどうぞ)
オスをメス化するよりも、雌雄の判別能力をつけるほうが進化としては楽そうですが、オスをメス化する能力さえ身につければ雌雄の比率にばらつきがある宿主であっても寄生相手が見つけられない、といった問題がないためこっちの難しい方法を選んだのかもしれません。
実際のところは分かりませんが。
さてオスに寄生してしまったガストロメルミスは見た目も行動もメスのカゲロウそのものにしてしまいます。
といっても、さすがに体の構造までメスにしてしまう神のような能力は持ち合わせておらず、あくまで見た目だけ、当然ながら産卵する能力はありません。
そんなんで意味があるのか?あるのです。
メス化したオスのカゲロウは交尾する代わりに、本物のメスと同様、産卵のために川へ向かいます。
そして、川の水面から顔を出した岩を見つけに行き、産卵しようとします。
いくら頑張ったところで卵は出てきませんが、その代わり、ガストロメルミスが体を突き破って出てきます。
オスのカゲロウは産卵しないのですから、周りを見渡しても寄生するカゲロウの卵はありません。
しかし、慌てることはありません。
合同結婚式を挙げているカゲロウたちのことですから、その川の中はすぐにたくさんのカゲロウたちの子供で一杯になります。
メスに寄生したときよりは少しばかり手間はかかりますが、間もなく宿主を見つけることでしょう。
(参考文献)
パラサイト・レックス / カール・ジンマー著
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