■クモの巣の作り方すらマインドコントロールする ~ クモヒメバチ
今回は寄生虫のお話。
コスタリカにのみ棲息するクモヒメバチ (Hymenoepimecis argyraphaga) は寄生バチの中でもかなり特殊で手の込んだマインドコントローラーです。
寄生虫が宿主をマインドコントロールすることはそれほど珍しいことではありませんが、このクモヒメバチの英名はそのまま「マインドコントロールバチ (Mind control wasp)」です。
ターゲットはシロガネグモの一種、プロシオメタ・アルギラ (Plesiometa argyra / Leucauge argyra) という腹部がやや細長い楕円形をした小さなクモです。
クモヒメバチはプロシオメタ・アルギラの体内に卵を産み付けることで孵化した子供が寄生生活を送りますが、この卵を産み付ける時点で既に狡猾です。
クモの周りを飛び続け疲弊させ、隙を狙って襲い掛かるという一般的な方法がまずひとつ。
そして、もうひとつの狡猾な方法はプロシオメタ・アルギラのクモの巣に引っかかった振りをしてクモ自らをおびき寄せるという体を張った方法です。
いずれの方法でもクモをしっかりと押さえつけると麻酔を打ち込み完全に動かなくなるまでめった刺しにします。
といってももちろんこれ以降、子供たちのエサになってもらう大事なクモですから致死量の毒を打ち込むことはありません。
麻酔の効果時間は5~10分、卵をさっさと打ち込んでおさらば、、、はしません。
このクモの体が痺れている時間を有効活用し、まずはこのクモに既に他のクモヒメバチ (つまり自分たちの仲間) に寄生されていないかのチェックをします。
卵はクモの腹部に産み付けられているので、見つけたら引き剥がします。
幼虫になると体内に移動するので、産卵管を使ってクモの体内に幼虫がいないかチェック、見つけたら幼虫を引きずり出して捨ててしまいます。
擬人化したら本当に恐ろしいのなんの。
この作業を麻酔の効いている時間にササっと済ませ、自分の卵をクモのおなかにぺたりと貼り付けるとその場を去ります。
卵は孵化するとクモの腹部を食い破って中に侵入、内部からクモの新鮮な体液を摂取し成長します。
蛹になるまで2~3週間かかりますから、それまでは元気でいてもらわないといけません。
致命的にならない程度に体液を吸い取り、まったくクモも健康そうです。
しかしそれは体液を吸ってクモヒメバチの幼虫がすくすくと育つためで蛹になるときはもう食事を摂る必要もなく、一見するとクモは用済みに感じます。
しかしまだまだやってもらうことがあります。
幼虫は蛹化前にクモに特殊な化学物質を注入することで、今まで全くふつうの行動をしていたクモの挙動が突如としておかしくなります。
獲物をつかまえるために放射状のクモの巣を張っていたプロシオメタ・アルギラは突如その作業をやめてしまいます。
クモの巣を張るのをやめると、なんとクモヒメバチの蛹を守るための揺りかご (繭) を作り始めるのです。
繭を作り終えてもいつもの獲物をつかまえるための巣を張ることはありません、クモはじっと繭の中に入り動かないのです。
クモヒメバチにとってクモができることはすべてしてもらい、この時点で完全にクモは用済みとなります。
クモヒメバチの幼虫は今では微動だにせず繭の中で佇むクモを容赦なく殺すと体液を全て吸い上げ繭から放り出します。
クモヒメバチは揺りかごの中で蛹化し1週間ほどで成虫となると繭を破って飛び立ちます。
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何で寄生生物はこんなにエグい方向に進化したのでしょうね
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