恐竜博や博物館、場所によっては動物園や水族館でも、お土産コーナーにいくと化石が売っています。
どこに行ってもたいてい三葉虫、アンモナイト、そしてチョッカクガイの化石は定番商品です。
アンケートを取ったわけではありませんが、この中でぶっちぎりで知名度・人気の低いのはチョッカクガイと決めつけています。
ほっそい5~10センチ程度の貝殻の化石、お土産コーナーの店員さんに一度聞いてみたいのですが、チョッカクガイの化石って売れているのでしょうか?
今日はこの勝手に人気のないと決めつけているチョッカクガイが主役です。
2000年代初期に起きた食玩ブームでチョコラザウルスの恐竜・古代生物コレクション第2弾でチョッカクガイのライオンノセラス (Rayonnoceras) がフィギュア化されたのは奇跡といえます。
知らない人がチョッカクガイ (直角貝) と聞けば、その名前からくるイメージで、現生のスローモーな巻貝を想像してしまいそうですが、全然違います。
外套部分がまっすぐの殻に置き換わった頭足類 (イカ・タコ) をイメージしてもらえばわかりやすいでしょう。
もちろんチョッカクガイは頭足類の仲間です。
アンモナイトの殻を螺旋状に巻かずにまっすぐに伸ばした、といったほうがピンとくるかもしれません。
ただ、アンモナイトの殻を巻かず、緩いアーチを描きながらもほぼまっすぐのバキュリテス (Baculites) が存在するので、混同を避けるためにもここはアンモナイトを例に出さない方が賢明でしょう。
(刀のように弓なりのバキュリテスの化石)
(image credit by Wikicommons)
「パーティー用の三角帽子 (パーティ帽) を被ったイカ」をイメージしていただければ遠からず (なはず) です。
今日の主役はチョッカクガイの中でもその巨体でひときわ輝くカメロケラス (Cameroceras) です。
カメロケラスはオルドビス紀中期ごろに現れシルル紀 (4億7千万年前~4億年前)
まで繁栄していた生物で、チョッカクガイの一部はジュラ紀まで生き延びているものの、恐竜と時代を共有することなく滅んでいます。
チョッカクガイの系統はとっくに絶滅しており、その子孫は存在しませんが、現生の生物ではオウムガイが一番近縁です。
学名こそ「気房のある角 (chambered)」と地味ですが、殻の長さだけで30フィート (約9メートル)、軟体部分 (頭や足) を含めると33~37フィート (約10~11メートル) にもなる超巨大頭足類です。
軟体部分は発見されることは非常に稀ですし、カメロケラスのそれも発見されていないことから正確な大きさを知るのは今後も期待薄といえますが、殻の大きさからも全長10メートルを下ることはないでしょう。
頭と腕の軟体部分だけで、おそらく人間よりも大きかったものと推定されます。
ダイオウイカ並みの触腕をもとうものなら全長20メートル級だって夢ではありません。
現生の頭足類同様、その巨躯を活かした肉食のプレデター (捕食者) であったことは想像に難くありませんが、なにせパーティ帽だけで9メートルもあり、それに比して軟体部分は1/10~1/5程度だったことを考えると、水の抵抗の低いまっすぐな帽子とはいえ、やはり長時間に渡る俊敏な動き、つまりは遊泳は苦手だったのでは?と現在では考えられています。
それ故、捕食はもっぱら待ち伏せ型、もしくはそっと獲物に近づいての騙し討ち、と若干夢を壊す生態であったかもしれません。
10メートル前後にもなる成体では、ほぼ海底に鎮座し獲物が通るのを待っているだけだろう、なんて研究結果もあります。
今までチョッカクガイに興味のなかった方々も、これを機に、売店でパーティ帽の化石を見かけたら「おっ!」とカメロケラスを思い出してみてはいかがでしょう?
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