■イヌイットが保管していた謎のハクジラの頭骨 ~ ナールーガ
今回は謎のはクジラの頭骨、ナールーガ (Narluga)。
イッカク (Monodon monoceros) は英語でナーワル (Narwhal) と呼び、シロイルカ (Delphinapterus leucas) はベルーガ (Beluga) と呼ばれます。
ナールーガ (Nar・luga) とはこの英名のナーワル (Nar・whal)とベルーガ (Be・luga) の混成語です。
いずれもイッカク科 (Monodontidae) であり、イッカク科はイッカク属 (Monodon) とシロイルカ属 (Delphinapterus) の現在は2属2種しかおらず、彼らはお互いに唯一の近縁となり、イッカクのトレードマークである牙を除けばそっくりの姿をしています。
さてここからが本題。
1980年代のこと、イヌイットのハンター、イェンス・ラーセン (Jens Larsen) 氏は同僚二人と共にグリーンランド西海岸沖で非常に奇妙なクジラを3頭狩りました。
彼らがふだんハンティングするハクジラ類はイッカクとシロイルカのみでしたが、その日狩った3頭はそのいずれでもありませんでした。
まず不思議に思ったのはその体色です。
シロイルカのように全身真っ白ではなく、かといってイッカクのように背中に黒いまだら模様があるか?といえばそうでもありません、その生物は全身グレーただ一色でした。
また胸鰭はシロイルカに尾鰭はイッカクに似ていたといいます。
イッカクの尾ビレは端がウチワ状に外側に向かって丸みを帯びており真ん中に切り込みを入れたような形である一方、シロイルカのそれはほぼまっすぐで全体として三角の形状をしています。
体色はともかく、イッカクもシロイルカも姿はかなり似ているのでベテランハンターならではの鋭い観察眼です。
ラーセン氏はあまりに奇妙な生物であったため記念に頭骨を捨てず自宅の倉庫の屋根飾っておきました。
(ナールーガの頭骨)
(image credit by Wikicommons)
1990年、グリーンランド天然資源研究所の海洋哺乳類学者マッツ・ピーター・ハイデ=ヨルゲンセン (Mads Peter Heide-Jørgensen) 博士が偶然ラーセン氏が飾っていた謎の頭骨を目にします。
持ち主であるラーセン氏にこの頭骨について尋ねるとそれはイッカクとシロイルカの両方の特徴を兼ね備えた生物だったと答えます。
もっと情報が欲しいと思った博士は、当時3頭同時に捕まえたのを知り、ラーセン氏と一緒に狩りに行った他の2人に聞くも骨は既に廃棄されてしまっていました。
(イッカクの頭骨)
(image credit by Wikicommons)
第3のイッカク科の生物を感じ取り、ヨルゲンセン博士はラーセン氏から許可を得てその頭骨をコペンハーゲンにあるグリーンランド天然資源研究所に持ち帰りることにしました。
一見するとそのシルエットこそシロイルカに似ているものの、歯の生え方がとても奇妙で、外側に向かって放射状に伸びています。
イッカクのあの長い牙はもともと上顎の切歯 (せっし) が螺旋を描きながら伸びたものですが、ナルーガは牙は持っていないもののその歯は螺旋を描いていました。
またシロイルカが40本の歯を持つのに対し、イッカクは上顎2本の切歯のみ、ナルーガはどちらにも当てはまらない18本の歯を持っていました。
そして頭骨はいずれの種よりも大きいものでした。
(シロイルカの頭骨)
(image credit by Wikicommons)
やはりこれは未知のイッカク科の生物と考えて問題ないのではないか?
イッカク、シロイルカに続く第3のイッカク科としてナルーガが認められたかというと、そうではありませんでした。
理論上、野生下ではあまり起こりえないだろうと思われていたイッカクとシロイルカの交雑種と結論付けられたのです。
エコロケーションの使われる音域が異なり (しかし一部重複)、繁殖形態の違い (ハーレムを作るイッカクと作らないシロイルカ)、生息域の相違 (しかし一部重複)、といった数々の困難を乗り越え交雑種が生まれたと判断さたのです。
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この歯並びでは捕食しずらかろうな。
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