■アリに大砲を撃ち込むようなもの、超猛毒イモガイ ~ アンボイナガイ
今回は猛毒生物、最も危険な海の生物のひとつ、アンボイナガイ (Conus geographus) です。
殻高は10センチ以上 (最大16.6センチとも)、イモガイ (Conidae) の中でも大きい方です。
イモガイの仲間は全て肉食で「魚食性」「貝食性」「虫食性」の3つに大別できます。
虫食性とはゴカイ等の環形動物のことです。
(アンボイナ)
(image credit by Wikicommons)
貝食性、虫食性は分かりますが、あの緩慢な動きで魚なんか捕獲できるのか?という疑問が湧きます。
実は魚に負けないスピードを進化の上で獲得した、なんてこともなくおっそいままです。
その状態で魚を捕獲できるのは軟体動物が口内に持つ歯舌 (しぜつ) をイモガイは銛 (もり) のように発達させ、離れている獲物に対し撃ち込むことができるからです。
歯舌は毒嚢 (どくのう) と毒管で繋がっており、歯舌を通して毒を注入できるというわけです。
イモガイの仲間はすべて毒を使って獲物を捕らえますが、このイモガイの使う毒をコノトキシン (Conotoxin) といいます。
それでどうしなのかアンボイナガイの毒は異常なほど強力で、撃ち込む毒の量はエサとな小魚を麻痺させる程度でいいはずですが、実際は人間を殺傷するほど強い毒を撃ち込みます。
アリに大砲をぶっぱなすのと同じです。
その撃ち込む速度も凄まじく一説には秒速40,000メートル (時速144,000メートル) といわれています。
で、メダカサイズの小魚であれば分かりますが、自分と同じぐらいの大きさの魚も狩り、どうやって食うのかというと吻が信じられないほど大きく広げることができ、そのまま魚ごと包み込んでしまいます。
(自分より体の大きい魚を丸呑みするアンボイナ)
(image credit by Biopixel)
アンボイナガイが人間にとって厄介な点は2つあり、まずそのひとつ、刺されてもそれほど痛くないということが挙げられます。
激痛が走れば、その痛みの源はなんだろうと確かめアンボイナガイに刺されたと分かったらすぐに岸に向かうなり友人等に助けを呼ぶなりできますが、特に痛みに強い人は岩で擦ったか、程度に勘違いして放置してしまう可能性があります。
気付かずにそのまま放置し、水中で毒が回ってきたら時すでに遅し、体が痺れ動けなくなってしまい自力で岸に戻ることは不可能です。
そうしてもうひとつの厄介な点はアンボイナガイの毒に対する血清が存在しないこと。
「アンボイナガイに刺された!」と病院に駆けつけても、血清を打って対処することはできません。
但し、傷口から毒を抜いたり毒が心臓に回らないように患部近くを縛るなりできるので応急処置をしてもらえば助かる確率は大幅に上がるでしょう。
で、その毒はどれほど強力なのか、刺されたら終わりなのか?というともちろん致死率100%ということはありません。
しかしかなり高い致死率である可能性があります。
文献によってまちまちで1%というものから70%なんて説までありますが、さすがに70%はちょっと過大評価しすぎでは、と思うものの1%は明らかに過小評価です。
致死率が分からないのは、実際にアンボイナガイに刺された人の絶対数が把握できないことに原因があります。
前述の通り、単独で刺されたことに気付かずに溺れた場合、大きな外傷もない (アンボイナガイによる刺し跡はかなり小さいといいます) ことから心筋梗塞等による溺死、のように別の死因で処理されているものも多いと考えられているからです。
中間をとって20~30%程の致死率はあるかもしれません。
ちなみに以前から稀に貝食性のタガヤサンミナシ (CConus textile) でも死者が出た事例があると聞きますが、アンボイナガイと見誤ったのでは?という疑いも若干ながら個人的にはあります。
但し、こちらも刺された後は死に至るほどではなくてもめまい等を引き起こすため、水中にとどまることは溺死を誘引しとても危険なのは確かでしょう。
とにかく恐ろしい貝なので刺されたと気付いたらすぐに陸に上がりましょう。
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近年危険生物として名前があがるようになりましたね
返信削除子供だと更に毒が回るの速そうで怖いですね
自分は海いかないんで大丈夫なんですけど