■アリがウシに食われるようにマインドコントロール ~ ディクロコエリウム
今回は超久しぶりに寄生虫ネタ、ディクロコエリウム (Dicrocoelium dendriticum)。
最初に彼らの彼らのライフサイクルを簡単に紹介すると、カタツムリ ⇒ アリ ⇒ ウシ (または人間) というものです。
難関は何と言っても最終宿主のウシに移動するのがアリからというもの。
アリが草食動物であるウシに食われるようになんとか仕向けないといけません。
(ディクロコエリウムのライフサイクル)
(image credit by Wikicommons / CDC)
それでは見ていきましょう。
ディクロコエリウムとは槍形吸虫 (やりがたきゅうちゅう) と呼ばれ、その名の通り細長く体の前後が尖っています。
スタートは牛糞。
この中にディクロコエリウムの卵がぎっしりと入っています。
この卵はまず陸棲の巻貝、カタツムリに食べられないと孵化できませんが、まあなんでも食べるカタツムリなので牛糞の近くにカタツムリさえいればそれほどハードルは高くありません。
カタツムリは臭覚が優れしかも思っているほどノロマではありませんから、牛糞が炎天下で速攻干からびるような場所に排出されなければそれなりの時間的余裕はあります。
無事にカタツムリの体内に入ったディクロコエリウムの卵はそこで孵化、スポロシスト (スポロキスト) を経てセルカリア (ケルカリア) へと成長します。
セルカリアはカタツムリの体内を工場とし、無性生殖により爆発的に増殖します。
このセルカリアは第二中間宿主となるアリの体内へ移動しなければなりません。
セルカリアはその無尽蔵ともいえる増殖能力を武器に、カタツムリの体から粘液と一緒にダダ洩れしていくという方法で体外に排出され続けます。
この粘液をアリが舐めてくれればアリの体内に潜り込むことができます。
まあここはここでセルカリアの寿命 (1日程度?) や粘液が干からびるまでの寿命という制約があり、体外へ出る時間帯はもしかすると調節しているかもしれませんが、それなりになかなか大変ではあります。
それでもまあ次のアリからウシへの移動を考えればまだまだ楽勝です、カタツムリが生きてさえいてくれれば、いくらでもセルカリアを放出できるからです。
そのうちアリがカタツムリの粘液を意図的・偶発的に舐めてくれるでしょう。
さてアリのステージを見ていきましょう。
アリの中に入ったセルカリアはメタセルカリア (メタケルカリア) となり、ついにここでマインドコントロールに取り掛かります。
ウシがアリを目撃し積極的に食べてくれるはずもなく、今までの運任せとはいかず何らかの手立てが必要だからです。
寄生された働きアリは寄生されていない働きアリと全く変わらない行動を取り、巣のためにせっせと働きます。
昼間十分に働いた働きアリたち、みんな巣へと戻り始める夕方になると、ここでついき寄生されたアリたちが異常行動を取り始めます。
メタセルカリアに乗っ取られた働きアリたちは巣ではなく草の頂上目指して登り始めるのです。
そして草の先端に達すると大きな顎で草にかみつき体を固定、そのまま微動だにせず巣の外で過ごします。
もちろん死んだわけではありません、これはよりウシに食べられやすいよう、草の先端 (葉や花等) にとどまっているのです。
通常であれば、もし草の先端に居たとしても牛が近づいて来たのに気付けば逃げますが、マインドコントロールされたアリたちは決して逃げません。
文字通り「歯を食いしばって」草にしがみついているからです。
朝まで待って食べられなければ一旦マインドコントロールを解き、また通常の働きアリとしての生活に戻らせます。
昼の方が食べられやすいのでは?と思うかもしれませんが、日差しの強い日中に草の先端で留まらせた場合、アリと共にディクロコエリウムも熱で死んでしまう可能性が高く、そのため日が沈んだ夕方以降しかマインドコントロールしないのです。
ディクロコエリウムは宿主のアリが食べられるまで何日もこれを続けます。
そして見事メタセルカリア入りのアリがウシに食べられると成体となりウシの体内で生殖を続け糞に卵を大量に混ぜ込むのです。
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