■大きくならないクマがいる ~ 実在したラヴァ・ベア― (ラバ・ベアー)
世界的に見るとクマによって命を落とす人の割合はほんの僅かですが先進国であればクマは最も危険な野生動物のひとつです。
特に成獣であれば体が大きい上に足が速く木登りも得意であるため、山中で遭遇したら絶望的です。
しかしもしクマがもう少し小さかったら?
テディベアやリラックマを例に出すまでもなく、クマ、特に子グマの見た目は愛らしく体が小さければペットとしてイヌやネコと同等の人気が出るに違いありません。
遺伝子組み換えに頼らずともそんな夢のようなクマが存在しました、ラヴァ・ベア― (Lava bear) です。
1917年から1934年の間に中型犬ほどの大きさしかないクマが次々と捕獲されました。
ラヴァ・ベア―はアメリカグマ (Ursus americanus) に似ていましたが、毛色はハイイログマ (Ursus arctos horribilis) のような明るめの薄い茶色でした。
ラヴァ・ベア―と命名されたはっきりとした理由は分かりませんが、彼らはとても毛深かったといい、その明るい毛並みと相まって燃え滾 (たぎ) るマグマ (ラヴァ) を彷彿とさせたからかもしれません。
全てのラヴァ・ベア―は体長43~75センチ、体高30~46センチ、体重10~16キロ以内に収まるほど小柄でした。
(ラヴァ・ベア―の実物標本)
(image credit by Wikicommons / Public Domain)
クマの種類はいいとして、ただの子グマだったのでは?
しかし歯と爪の摩耗状態から彼らが成獣であることが動物学者により確認されています。
成獣で中型犬程度、まさに夢のようなクマが実在していたのです!
当時、ラヴァ・ベア―は完全な新種の可能性も検討されましたが、アメリカグマもしくはハイイログマの亜種である可能性が高いのではないかと推測されました。
このクマたちのおとなしい気性のものをかけ合わせるなどして交配を続ければきっと何十年後かにはペットとして流通するに違いありません。
ん?
初の捕獲から100年ぐらい経っていますがラヴァ・ベア―が流通している話は聞きません。
生け捕りにしないで全部射殺していたから?
確かにそのほとんどはハンターによって撃ち殺されていましたが生け捕りにされたものもいます。
交配させるにはあまりに生け捕りにした数が少なすぎるというのは実情です。
しかしそれが流通しなかった本当の理由ではありません。
ラヴァ・ベア―は新種でもなければ既知のクマの亜種ですらありませんでした。
その正体はアメリカで最もありふれたクマ、アメリカグマそのものだったのです。
アメリカグマはハイイログマと比べ小柄ですがそれでも体長は小さくても1.2メートル、最大で2メートル以上に成長します。
どう考えてもサイズが違いすぎます。
それに毛色だって黒くはなかったし、、、
どういうことでしょう?
これはエサ不足等、生育環境が芳しくなかったことによる発育不全が原因といわれ、ギリギリ死ななかったものの体は非常に小さいまま成獣になったようです。
毛色に関してはアメリカグマは最も毛色の変種が多いクマのひとつであり驚くべきことではありません。
アルビノのようなシロアメリカグマ (Ursus americanus kermodei) であったりシナモン色のクリイロアメリカグマ (Ursus americanus cinnamomum) は全てアメリカグマの亜種です。
1934年を最後にラヴァ・ベア―の目撃・捕獲の記録は絶えましたが、アメリカグマが正体である以上、今後も捕獲される可能性はあります、生死を彷徨いギリギリ成獣になった本人たちにしてみればたまったもんじゃないでしょうが。
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