■寄生して入水自殺させる ~ ハリガネムシ
目にすることが多い寄生虫の代表格、ハリガネムシ (Nematomorpha)。
ミミズ状の細長いワーム系生物ですがミミズよりはるかに細く (直系1~3ミリ)、体長は大抵10~20センチ程度、しかし最大クラスは2メートルに達します。
まあ多くの人が「寄生虫」と聞いて思い描くような姿ですね。
もともと水棲生物であり、苦手とする陸上で体が乾燥するとカチカチに硬くなり、文字通り見た目も硬さ「針金」と化するためこの名があります。
まさに的を射た名前ですね。
しかし英語圏では「ホースヘア・ワーム (horsehair worms)」や「ゴーディアン・ワーム (Gordian worms)」ともう少し神秘的な名で呼ばれています。
ホースヘア・ワーム (馬の毛のワーム) と呼ばれる所以は、馬の毛がバケツの水の中でワームに変身したことに由来します。
実際は単にウマの尾や鬣 (たてがみ) の毛の中に紛れ込んでいた (おそらく乾燥状態の) ハリガネムシだったと思われますが、突如水の中で馬の毛が生命活動をはじめたのだから驚いたのでしょう。
もうひとつのゴーディアン・ワームは「ゴルディアスの結び目 (Gordian Knot)」に由来します。
ゴルディオスの結び目とはフリジア国の王、ゴルディオスが2本の紐で作った複雑な結び目のことで、「この結び目を解いたものは将来アジアの王になるであろう」と宣言、多くの人が挑むも誰も成功することはありませんでした。
このことからゴルディオスの結び目とは「解決することが極めて困難なこと」の比喩として用いられます。
ハリガネムシは水中で交尾する際、集団を形成することで球状になることからゴルディオスの結び目に例えられます。
稀になんらかの偶発的なことでハリガネムシが大量に陸上で絡み合って、まさにゴルディオスの結び目状態の発見されることもあります。
さて前置きが長くなりましたがそれではハリガネムシの生活史を見ていきましょう。
ハリガネムシは水棲生物であるので、スタートは水中です。
孵化したハリガネムシの幼虫はまさに顕微鏡サイズ、この状態で主に濾過摂食者の水棲昆虫 (幼虫) に摂取されることで寄生生活を始めます。
この宿主たちの体では、成長に3ヶ月、体長10センチ以上に成長するハリガネムシたちにとってはあまりに寿命が短くスペースも小さすぎるため一定以上の大きさに成長しません。
そこで彼らはより大きな陸棲の昆虫、代表的なものでカマキリやコオロギに引越しする必要があります。
(コオロギに寄生していたハリガネムシ)
(image credit by Wikicommons)
水中から陸上への引っ越しとなるとかなり大変で、まず現在寄生している水棲昆虫が食べられてしまえばそこで終わり、無事に成虫になってもらう必要があります。
無事に成虫となったカゲロウやユスリカはその羽で自由に陸上を飛び回ることができます。
まずは陸上に出ることはこれで成功、あとはカマキリ等に捕食されるのを待ちます。
ここでうまくカマキリ等に捕食されれば次のステージへ進めます。
寄生された側はこの時点で生殖機能を奪われ、それ以降、もはやいくら食べようが自分たちの子孫を残すことはできず、単にハリガネムシの栄養素となるだけの生きる屍となります。
ハリガネムシはこのステージで一気に成長を始めます、前述した通り10~20センチ、種によっては最大1メートルにもなり、分かっている記録では2.1メートルというとんでもない長さのハリガネムシが発見されています。
十分成長し、性成熟したハリガネムシの成虫には口がありません。
後は異星のパートナーを見つけ交尾して死ぬだけなので食べる必要はないのです。
しかし再度ハリガネムシのスタートラインを思い出してみましょう、彼らは水中で生まれる水棲生物です。
水中 ⇒ 陸上 と来てまた水中へ戻らないといけません。
いまノコノコと宿主の体を突き破って出たところで99.9パーセント陸上に登場してしまうに違いありません。
今までの苦労が水の泡です。
そこで寄生虫の得意技、成虫となったハリガネムシは宿主のマインドコントロールをはじめます。
用済みのカマキリ (宿主) を水辺へ誘導し強制的に入水自殺させます。
水中にダイブしたと知るやハリガネムシはあっという間に宿主の体を突き破り体外へ脱出します。
ここですぐにパートナー探しに奔走しますが自然界はそう甘くありません。
魚やカエルといった生物たちにも食べられてしまう可能性がありますし、実際食べられてしまうことも多いのです。
もちろんここまでの苦労もすべて台無しとなりますが、硬いクチクラに守られたハリガネムシの体は意外にしぶとく簡単には消化されません。
魚やカエルに食べられても20~30%程の確率でエラや口から脱出を成功させるといいます。
無事にパートナーを見つけ交尾を済ませ産卵したら自分たちはお役御免、なにせ口がないため新たに栄養補給することはできませんから長生きすることは叶いません。
孵化した子供たちは「水中 ⇒ 陸上 ⇒ 水中」の過酷な旅が待ち受けています。
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