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2024年8月5日月曜日

錬金術師が実験室で生成に成功した人造人間 ~ パラケルススのホムンクルス


■錬金術師が実験室で生成に成功した人造人間 ~ パラケルススのホムンクルス

今回は16世紀、錬金術師パラケルスス (Paracelsus) が実験室内で担当させたという人造人間、ホムンクルス (Homunculus)。

パラケルススは1493年、医師の息子としてスイスで生まれ、親の意志を継ぎ自らも医師となります。

かなり有能な医師だったともいいますが、彼は現在でいうオカルト方面、魔術や占星術、特に錬金術に没頭していきます。

錬金術とは文字通り、鉄やアルミ、亜鉛といった「卑金属 (貴金属以外の金属)」から「金」や「白金」といった貴金属を精製することです。

その時代の錬金術師の多くがそうであったようにパラケルススは化学者であり、医師でもあり、錬金術師と聞いて思い描くようなマッド・サイエンティストではありません。

古代ギリシアのアリストテレスは「土」「水」「火」「空気」の四元素に加え第五元素である「エーテル」の5つの元素の組み合わせで万物が出来ていると考えました。

それ故、卑金属も貴金属に変えることができるに違いないと考えたのです。

実際のところ卑金属を貴金属に変化させることは出来ませんから、錬金術は成功することはもちろんありませんでしたが、その実験の副産物として多くの化学物質が発見されており、近代科学の発展に大きな貢献をしました。

アリストテレスの考えは17世紀のロバート・ボイルによって否定されるまで長らく続き、18~19世紀のアントワーヌ・ラヴォアジェジョン・ドルトンらの元素の発見につながります。

さてホムンクルスの話に移りましょう。

パラケルススは彼の錬金術に関する著書「ものの本性について (De Natura Rerum)」でメインの錬金術よりもはるかに神秘的なものを「創造した」と記しています。

それはホムンクルスといい、この単語はラテン語で「小さな人」を意味し、フラスコ内に収まる小柄な人間 (のような生物) です。

「(人間の) 精液を40日間に渡り蒸留させると精液はやがて腐敗するが生命が宿る。

初期段階においてこの生命体は無色透明であり実体をもたないが、やがて人間のような形をした実体が現れる。

この透明な生命体を40週に渡り馬の胎内と同じ温度を保ちながら人間の血液で養うことによりやがて人間の子供ができあがる。

この子供は人間の女性が産む子供と全く変わらないものだが、その背丈ははるかに小さい」

ホムンクルスが女性から生まれた子供と大きく違う点はその大きさだけではありません。

ホムンクルスは学習せずとも成長すると高度な知能、特に芸術的才能を持ち、人間が思いもつかない作品を「創造」できるといわれています。

このパラケルススのホムンクルスの考え (もしくは実験) は前成説 (Preformationism) といい卵子もしくは精子の中にその動物のミニチュア版が予め入っているという説に明らかに影響されていたようです。

精子と卵子、どちらにミニチュア版が入っているかでも二派に分かれ、卵子派は卵子論、精子派は精虫論と呼ばれ、もちろんパラケルススは後者です。

(ハルトゼーカーのホムンクルス想像図)
(image credit by Wikicommons / Public Domain)

顕微鏡を発明したオランダの数学者・物理学者ニコラス・ハルトゼーカー (Nicolaas Hartsoeker) はパラケルススらと同じ精虫論派で、17世紀末、精子の中にホムンクルスがいる図版を発表しました。

これは自らの顕微鏡で確認できたというわけではなくあくまで成虫論の仮説として発表した図版だったようですが、ハルトゼーカーは顕微鏡の発明者でありで実際にホムンクルスを顕微鏡で確認した、と広く認識されているようです。

パラケルススのホムンクルスの発表からハルトゼーカーのホムンクルスの図版の発表まででも200年はあり、パラケルススのホムンクルスは後世に長らく影響を与えたことは想像に難くありません。

その間、パラケルススのホムンクルス創造法を真似て実験した人は相当の数に上ったのではないでしょうか。

残念ながらホムンクルスの創造に成功した人はパラケルスス以外に唯のひとりとして現れませんでした。

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