■猪苗代湖に潜む淡き巨影 ~ イナッシー
福島県のほぼ中央、磐梯山 (ばんだいさん) の麓に広がる猪苗代湖 (いなわしろこ)。
日本で4番目に大きい湖であり、澄んだ水質と穏やかな湖面から「天鏡湖(てんきょうこ)」とも呼ばれています。
冬には白鳥が舞い降り、夏には観光客がボートを浮かべる――。
その穏やかな風景の裏で、かつて湖底に「巨大な何か」が潜んでいると囁かれていました。
今回の主役、その名は――イナッシー(Inassie / Lake Inawashiro monster)。
日本版ネッシーの一角を占めるレイク・モンスターです。
1990年代に突如として話題を呼び、しかし今では霧のように語り継がれる幻の存在となっています。
詳細情報はUMA研究家の中沢健さんのものしかないため、中沢さんの情報を中心に紹介しますね。
― 湖面に首を出した影 ―
噂が広がり始めたのは1990年代初頭のこと。
観光客の一人が「湖面に巨大な首のようなものが見えた」と証言したのを皮切りに、次々と同様の目撃談が相次ぎました。
体長は12〜13メートル、長い首に丸い胴体――その姿はまるで古代の海竜プレシオサウルス (Plesiosaurus)。
「首を水面に突き出して泳ぐ影を見た」「波の立ち方が異常だった」という報告も多く、地元ではいつしか「イナッシー」という愛称が定着しました。
当時は「ご当地ネッシー・ブーム」の真っ只中だったのでしょう。
テレビの取材班が訪れ、湖畔にはピンク色のかわいいイナッシーのイラスト入り看板まで登場。
しかし、証拠写真が決定的でなかったため、やがてブームは静かに去っていきました。
― プレシオサウルスか、それとも巨大魚か ―
イナッシーの正体をめぐっては、いくつもの説が飛び交っています。
一つは、太古の首長竜プレシオサウルスが生き残っていたというクラシックな説。
ネッシーの影響を色濃く残した説ですね。
猪苗代湖の水深は平均約50メートル、最大深度は約94メートル。
大柄な生物が一時的に身を潜めるには、たしかに十分な深さがあります。
一方で、生物学者の中には「巨大ナマズ説」を唱える人もいます。
実際、猪苗代湖には体長1メートルを超えるコイやナマズが生息しており、水面近くを泳ぐ姿が「細長い影」として誤認された可能性もあるのです。
(中国で釣られた75キロのアオウオ)
(image credit :YouTube / South China Morning Post)
さらに一部では、外来種のソウギョ (Ctenopharyngodon idellus) やアオウオ (Mylopharyngodon piceus) が異常繁殖した時期の目撃と重なることを指摘する研究者も。
とはいえ、それらでは説明できない「首のような形」「波の軌跡」も残されており、謎は解明されていません。
― イナッシーはなぜ沈黙したのか ―
1990年代に一度は「湖のスター」となったイナッシーも、2000年代に入るとほとんど語られることはなくなりました。
理由の一つは、観光目的の「創作UMA」と見なされたことでしょうか。
地元の人々の間でも、「そんな生き物はいない」と冷ややかな声が増えたようです。
しかし、当時の目撃者の中には今なお「あれは生き物だった」と証言を続ける人もいます。
ある漁師はこう語っています。
「夜明け前、湖面が急に盛り上がったんです。魚群探知機にも何も映らない。
波が収まった後に残った泡だけが、静かに漂っていました。」
その静かなトーンには、恐怖と同時にどこか懐かしさが宿っています。
イナッシーとは、もしかすると私たちの想像力そのものが湖に映った影なのかもしれません。
― 湖が見せる「もうひとつの顔」 ―
朝霧の立ちこめる猪苗代湖に立てば、波の音がゆったりと耳に届きます。
風が止み、水面が静かになると――遠くで何かが動いたように見えるかもしれません。
それが水鳥なのか、風の影なのか、あるいはイナッシーの背びれなのか。
誰にも確かめられませんが、湖が見せてくれる「ちょっと不思議な瞬間」を楽しむことはできます。
それこそが、UMAを語り継ぐ人間の素直な気持ちです。
――天鏡のような湖の底で、30年間静かに過ごしてきたイナッシーが、ひょっこり姿を見せてくれるかもしれません。
[参考文献]
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