■恐竜の名にも冠された幻獣 ~ タラスク
ティラノサウルス (Tyrannosaurus) 等、大型獣脚類は前肢が相対的に短いものが多いですが、その中でも前肢はほぼ痕跡しか残っていないカルノタウルス (Carnotaurus)。
さてこのカルノタウルスに比較的近縁でフランスで化石が発見されているアベリサウルス科の獣脚類にタラスコサウルス (Tarascosaurus) がいます。
タラスコサウルスは3メートル程度の比較的小柄な獣脚類で、恐竜に詳しくない人でしたら小さなティラノサウルスを思い浮かべれば遠からずです。
タラスコサウルスは「タラスクのトカゲ」を意味しますが、この「タラスク」とはフランス南部のタラスコン市に伝わる幻獣の名前で、今回はこのタラスク (Tarasque) を紹介します。
タラスクはフランスのプロヴァンス地方を流れるローヌ川の岸辺に住んでいる (いた) といわれています。
恐竜の名に冠されているものの両者は全く似ていません。
タラスクの姿はいくつかタイプがありますが、一般的に、ライオンの頭部、ヘビの尾、6本のクマの脚、ウシの体、そしてカメの甲羅を持つ巨獣として描かれます。
複数の既知動物が融合した典型的なハイブリッド (キメラ) 系のUMA (?) ですね。
ただ、幻獣としては一応「ドラゴン」にカテゴライズされており、現代のイメージだとドラゴンと呼ばれるものは多かれ少なかれ爬虫類的な要素を持ち合わせているため、現代基準のドラゴンで比較すると若干の感覚的なズレを感じますね。
タラスクは13世紀に著された聖人伝の黄金伝説 (Legenda aurea) により広まったといわれていますが、タラスク自体は12世紀には既に知られていたといわれています。
非常に恐ろしい存在であり、基本的には半水棲の幻獣として描かれており、ローヌ川に潜み、目から硫黄の炎を放ち、口からは毒の息を吐き近寄るものすべてを引き裂き殺す、と描写されています。
タラスクに困った村人たちは聖女マルタに助けを求めました。
マルタは人々を襲うタラスクを発見すると聖水をかけ十字架をかざすだけでタラスクは従順になったといいます。
彼女はタラスクを紐で結わえ、村に連れて帰ると村人たちによって殺されたといいます。
(20世紀初頭に造られたタラスク像)
(image credit: Wikicommons)
と、こんなストーリーであり、その姿も性質もとても実在するような要素はなく、また、キメラ化したその姿からも元になった生物は特にひとつに絞ることは難しそうです。
幻獣以上のものではないでしょう。
とはいえ、700年以上の歴史を持つこの幻獣の存在は非常に文化的価値が高いと考えられ、2005年11月、ユネスコの「人類の口承及び無形遺産に関する傑作の宣言」に登録されました。
ちなみに日本でも「歌舞伎」「雅楽 (ががく)」「能楽 (のうがく)」をはじめ多くのものが無形文化遺産に登録されています。
現在、フランスのタラスコンでは毎年6月の最終週にタラスク祭りがおこなわれており、かつて伝説上では恐れ憎まれ、そして殺された怪物ですが、現在では愛される存在になっているようです。
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