■謎の類人猿 ~ アメラントロポイデス・ロイシ(モノス)(セクション2)
セクション1の続きです。
― そして、すべてを知る男が現れる ―
ここで話は、1962年まで一気に飛びます。
ベネズエラのカシグアで、「巨大なクモが人間を襲った」という奇妙な事件が報じられた際、地元の狩猟者ヘロニモ・マルティネス=メンドーサ氏が、この事件を1917年の「ド・ロワの類人猿」と比較しました。
すると、この発言に強く反応した人物がいます。
エンリケ・テヘラ・ゲバラ博士。
なんと彼は、かつてド・ロワの探検隊に同行していた科学者でした。
そしてテヘラ博士は、この機会を利用して「ド・ロワの類人猿」の知られざる内幕を暴露します。
博士によれば、あの有名な写真に写っている生物は、未知の類人猿などではありませんでした。
その正体は、現地で飼われていた普通のクモザルだったというのです。
しかも、それだけではありません。
写真そのものが、意図的に「未知の類人猿」に見せかけて撮影されたものだったというのです。
― 「新種に見せかけたら面白い」 ―
テヘラ博士の証言によれば、写真に写っているのは、現地でペットとして飼われていたマリモンダ、つまりクモザルの一種でした。
そのクモザルが病気で死んでしまったとき、ド・ロワたちは、とんでもないことを思いつきます。
「こいつを新種の類人猿に見せかけて写真を撮ったら面白いんじゃないか」
悪ふざけ半分の、いたずらでした。
ところが、そのためには一つ大きな問題があります。
クモザルには、非常に長い尾があるのです。
写真に尾が写ってしまえば、ただのクモザルだとすぐに分かってしまいます。
そこでド・ロワたちは、その長い尾を意図的に切り落としました。
さらに死体を石油缶などの上に座らせ、頭部や体を支えるようにして姿勢を整えます。
顎は木の枝で支え、正面から撮影。
こうして完成したのが、
「尾のない、直立した未知の類人猿」
に見える1枚の写真でした。
なんともチープな舞台裏です。
しかし、この写真は後に世界的なUMA資料となり、学名まで与えられることになります。
本人たちにとっては悪ふざけだったものが、まさか100年近くも「南米の未知の類人猿」の証拠として語られることになるとは、当時のド・ロワたちも想像していなかったでしょう。
― すべての疑問が一本につながる ―
こうして見ると、かつて「ド・ロワの類人猿」に向けられた疑問の数々も、妙に納得できます。
なぜ写真は正面から1枚しかないのか。
なぜ尾がないのか。
なぜ身長について妙に具体的な数字が出てくるのか。
なぜ頭骨などの物的証拠が残っていないのか。
そして、なぜジャングルの奥地を舞台にしているはずの写真に、バナナの木が写っているのか。
もちろん、これらの疑問だけであれば、まだ「未知の類人猿だった可能性」を完全に否定することはできませんでした。
しかし、探検隊に同行していたテヘラ博士自身が、「写真の正体は自分たちが飼っていたクモザルだった」と証言したことで、話は大きく変わります。
しかも、そのクモザルは病死した個体。
尾を切り落とされ、石油缶に座らされ、木の枝で顎を支えられた状態で撮影された。
つまり、写真の中に「未知の類人猿」が存在したのではありません。
そこに写っていたのは、実在するクモザルを利用して作られた「未知の類人猿の演出」だったのです。
― 南米初の類人猿、その正体 ―
アメラントロポイデス・ロイシ(Ameranthropoides loysi)。
かつては、南米の密林にひっそりと生き残っていた未知の類人猿ではないかと考えられました。
南米に類人猿が存在したという仮説は当時としては非常に刺激的で、絶滅したピテカントロプスの生き残りではないかという、壮大な想像まで膨らみました。
しかし、その正体はジャングルの奥深くに潜む未知の霊長類ではありませんでした。
現地で死んだ1匹のクモザル。
その尾を切り落とし、石油缶に座らせ、木の枝で顎を支える。
そして、ちょっとした悪ふざけのつもりで撮影された1枚の写真。
それが後に「ド・ロワの類人猿」という名前を与えられ、学術的な議論を巻き起こし、さらには世界中のUMAファンに知られる存在となったのです。
ド・ロワの類人猿は、未知の生物が実在したことを示す写真ではありません。
しかし、UMA史においては、むしろ別の意味で非常に貴重な存在です。
それは、1枚の写真と探検家の証言だけから、いかにして「未知の生物」という物語が作られてしまうのかを、極めて分かりやすく示しているからです。
そして何より皮肉なのは、この捏造が100年近く後になって、まったく別の「巨大クモ事件」をきっかけに、当時の関係者自身によって暴露されたことでしょう。
南米の密林で発見された謎の類人猿。
その正体は、未知の霊長類ではなく、死んだペットのクモザルでした。
ジャングルの神秘が生んだ怪物ではなく、人間の悪ふざけと1枚の写真が生み出した幻。
それがアメラントロポイデス・ロイシ――「ド・ロワの類人猿」の正体だったのです。
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